第166回芥川賞の選考会が2022年1月19日に行われ、同日受賞作が発表されます。今回は全候補作品を読んだ上で、受賞予想を行います。各候補作のあらすじや講評を踏まえた上で解説します。果たしてどの作品が受賞するのでしょうか?皆さんもぜひ予想してみてください。
※※こちらは第166回の芥川賞予想についての記事です。最新の第167回芥川賞予想については、以下の記事をご確認ください※※
⇒第167回芥川賞予想の記事をチェックする
そもそも芥川賞とはどんな文学賞?
芥川賞は純文学に与えられる新人賞です。年に2回選考会が開催され、受賞作が発表されます。これまでに村上龍、松本清張、大江健三郎、川上未映子、綿矢りさなどが受賞しています。
国内の文学賞では、最も話題になりやすい文学賞だと言えます。最近では第153回芥川賞においてお笑い芸人の又吉直樹さんが受賞し、社会的ニュースに。また2020年下半期における第164回芥川賞では宇佐見りんさんの「推し、燃ゆ」が受賞し、推し活について書いた文学作品としても大きく取り上げられました。
最新回は2021年7月に発表された第165回芥川賞選考会。石沢麻依 「貝に続く場所にて」と李琴峰「彼岸花が咲く島」がW受賞しました。次回は2022年1月における第166回芥川賞選考会で、新たな受賞作が決定します。
第166回芥川賞受賞予想:大本命は九段理江「Schoolgirl」か
第166回芥川賞の候補となったのは、以下の五作品です。(並びは作家名の順)
作品名 | 作家名 | 掲載誌 | 候補回数 |
我が友、スミス | 石田夏穂 | すばる11月号 | 初 |
Schoolgirl | 九段理江 | 文學界12月号 | 初 |
オン・ザ・プラネット | 島口大樹 | 群像12月号 | 初 |
ブラックボックス | 砂川文次 | 群像8月号 | 3回目 |
皆のあらばしり | 乗代雄介 | 新潮10月号 | 3回目 |
前評判の高い乗代雄介さんの「皆のあらばしり」が順当に候補入りしました。三島賞、野間文芸新人賞と純文学の新人賞を受賞している実力ある作家。SNSやブログ記事などを一通りチェックしたところ、「皆のあらばしり」を受賞作として予想している声が最も多いです。
また元自衛官の作家・砂川文次さんも。乗代雄介さんと同じく3回目の候補入り。これまで自衛隊での勤務経験を活かした戦場を舞台にした小説でノミネートされていましたが、今作はそれ以外の分野で書いた小説を発表。どう評価されるか注目です。
他の三人は初めての候補入り。驚きだったのが「すばる文学賞」の佳作ながら芥川賞候補となった石田夏穂さんの「我が友、スミス」。これまで佳作から候補入りした例がないため、期待の高さがうかがえます。
島口大樹さんと九段理江さんの作品も、文芸誌掲載時から話題になっていました。中でも太宰治の「女生徒」を下敷きに書かれた、九段理江さんの小説「Schoolgirl」は受賞予想大本命(さとなり編集部調べ)と思います。
詳しくは各作品のあらすじ及び講評にて、紹介していきましょう。
石田夏穂「我が友、スミス」のあらすじ&講評
【あらすじ】
スミスとは、筋トレマシンのスミスマシンのこと。私は筋トレを始めるが、やがてボディ・ビル大会に出場するために鍛えるようになる。勤務先や家では女性らしさの認識の違いに戸惑いつつ、私は大会に向けて着々と準備を進める。
⇒石田夏穂「我が友、スミス」の詳しいあらすじや解説を読んでみる
【講評】
筋トレの知識や大会に向けの心構えなどが丁寧に描かれており、筋トレが好きじゃない人でも苦にならずに楽しく読めた。ジェンダーの問題をうまく絡めているが、「ムキムキになる女性に抵抗がある」などの認識は以前からあったもので、特段目新しい主張がある訳ではない。受賞までにはいかないか。
受賞予想:ーー
九段理江「Schoolgirl」のあらすじ&講評
【あらすじ】
「お母さんは空っぽ」と言い放つ14歳の娘は、YouTubeチャンネルを開設して環境活動の啓発に勤しんでいる。そんな娘の新たな話題は太宰治の「女生徒」。小説を読む意義、そして母との関係について、娘は想いを語っていく。
⇒九段理江「Schoolgirl」の詳しいあらすじや解説を読んでみる
【講評】
太宰治の「女生徒」を現代的な解釈で捉えた良作。母と娘がどうやって心を開いて接していくかを、「女生徒」を用いて丁寧に描いていく。小説を読む意義についても深く切り込んでおり、新たな可能性を感じさせた。太宰治自身は芥川賞に縁のない人物だったが、時を経てこの作品が受賞するとおもしろい。
受賞予想:◎(大本命)
島口大樹「オン・ザ・プラネット」のあらすじ&講評
【あらすじ】
映画撮影のために鳥取砂丘へ向かう四人のロードノベル。未来、今、過去とは?僕たちが生きる世界とは?僕たちは語り合う。現実と虚構を超えて、僕たちが向かったのはどこだったのか?
⇒島口大樹「オン・ザ・プラネット」の詳しいあらすじや解説を読んでみる
【講評】
短い時間を切り取った実験的な小説。映画撮影に向かう四人が、時間や空間(世界)の概念について対話するのだが、鋭い視点の捉え方と浅はかで感覚的なものが混在している。意図的な企みだと思うが、どう評価されるか。いかんせん主張している内容のわりに小説自体が長いのはマイナス評価か。
受賞予想:△(大穴)
砂川文次「ブラックボックス」のあらすじ&講評
【あらすじ】
メッセンジャーとして働くサクマは、非正規雇用から正社員登用の話を持ちかけられるが、保留にしてしまう。将来に不安を感じているものの、そのまま日々は過ぎていく。そんな中、ある決定的な出来事が起きて…。
⇒砂川文次「ブラックボックス」の詳しいあらすじや解説を読んでみる
【講評】
メッセンジャーとして街を疾走している際の風景描写が確か。これまで戦場を舞台にしてきた筆者が、他の分野でも書けると示せたことは高い評価を得るだろう。一方で前半のモラトリアム的な展開がやや類型的。また暴力を扱っているのに、その動機が不明瞭であまり書いていない点が懸念される。
受賞予想:◯(対抗)
乗代雄介「皆のあらばしり」のあらすじ&講評
【あらすじ】
歴史研究部に所属する高校生のぼくは、皆川城址にて謎の男と出会う。男と話している内に、僕らは協力して謎の書物「皆のあらばしり」について調べることに。書物の存在は?そして男は何者なのか?
⇒乗代雄介「皆のあらばしり」の詳しいあらすじや解説を読んでみる
【講評】
前評判の高い乗代雄介さんの小説だが、結論から言うと受賞は難しそう。今作は会話の面白さやミステリーとしての仕掛けに重きがあり、エンタメ系の要素が強い。風景描写に定評があるが、前回受候補作となった「旅する練習」の方が圧倒的に良かった。
【結論】受賞予想大本命は「Schoolgirl」!対抗は「ブラックボックス」
いかがでしたか?受賞予想をまとめました。
◎(大本命):九段理江「Schoolgirl」
◯(対抗):砂川文次「ブラックボックス」
△(大穴):島口大樹「オン・ザ・プラネット」
受賞作発表は1月19日。発表されたらまた記事を更新します。果たして予想は当たるのでしょうか?
【オマケ】第166回芥川賞の候補作予想もしていました!
例年は芥川賞選考会の約一ヶ月前に候補作が発表されます。今回の記事を最初に書いている2021年12月14日時点ではまだ候補作が発表されていませんので、まずは候補作の予想からしていきましょう。
芥川賞の候補作は、ここ半年の間(今回でいうと7月号〜12月号)に刊行された文芸誌に掲載された短編〜中編小説の中から選ばれます。主要な文芸誌は以下の五つです。
・文學界
・新潮
・群像
・文藝
・すばる
この中から候補作品を選んでいきます。
前評判が高いのは乗代雄介「皆のあらばしり」
候補作品を選ぶ際、参考にしたいのが「文學界」に毎月掲載されている「新人小説月評」。こちらで取り上げられる小説の中から候補作品が選ばれます。「文學界」2022年1月号では、2021年下半期のTOP5が発表されています。
「新人小説月評」では2人が書評を挙げているのですが、両者がどちらもTOP5に選出したのが以下の二作品。
・乗代雄介「皆のあらばしり」
・飴屋法水「たんぱく質」
この内、乗代雄介さんは過去に二度芥川賞の候補となっており、前作「旅する練習」では次点の評価を受けていました。今作も力作との声が上がっており、受賞大本命だと言えます。
文學界から選ばれるのは松尾スズキの「矢印」か
芥川賞を主催するのは、文藝春秋における日本文学振興会。よって毎回少なくとも一作品は、文藝春秋が刊行している文芸誌「文學界」から選ばれます。しかし2021年下半期では、「文學界」に創作を載せている新人作家自体が少ない状況です。
・松尾スズキ「矢印」
・山野辺太郎「恐竜時代が終わらない」
・早助よう子「盗森(ぬすともり)のよる」
・鴻池留衣「フェミニストのままじゃいられない」
・九段理江「Schoolgirl」
・須藤薫子「ヌマンド」
この中から選ばれると考えると、松尾スズキさんの「矢印」が有力でしょうか。既に知名度の高い作家ですが、芥川賞では多少の話題作りも兼ねて選ばれる傾向があるので、そういった意味でも最適だと言えます。
Twitterなどをみていると、九段理江「Schoolgirl」も話題になっており、こちらも候補になると面白いですね。
候補作予想はズバリこの五作品!
毎回大体五作品ほどが候補になるので、今回も五作品に絞ってみました。
・乗代雄介「皆のあらばしり」(「新潮」10月号)
・松尾スズキ「矢印」(「文學界」7月号)
・九段理江「Schoolgirl」(「文學界」12月号)
・島口大樹「オン・ザ・プラネット」 (「群像」12月号)
・永井みみ「ミシンと金魚」(「すばる」11月号)
永井みみさんは新人賞を受賞していきなりの候補ですが、前回も石沢麻依さんが「貝に続く場所にて」で候補入り→芥川賞受賞となり、そう珍しいことではありません。上記五つの作品は話題になっているものを中心に選びました。
12月17日の午前5時に候補作が発表!五作中三作が的中
12月17日の午前5時に候補作が発表されました。候補作はこちら。
・乗代雄介「皆のあらばしり」(「新潮」10月号)
・九段理江「Schoolgirl」(「文學界」12月号)
・島口大樹「オン・ザ・プラネット」 (「群像」12月号)
・石田夏穂「我が友、スミス」(「すばる」11月号)
・砂川文次「ブラックボックス」(「群像」8月号)
乗代雄介「皆のあらばしり」(「新潮」10月号)、九段理江「Schoolgirl」(「文學界」12月号)、島口大樹「オン・ザ・プラネット」 (「群像」12月号)の三作が見事的中しましたね。話題作や実力作が順当に選出されたと言っていいでしょう。
新人賞受賞作が一作は入るのではないかという予想でしたが、すばる文学賞というところまでは合ってましたが、受賞作の永井みみ「ミシンと金魚」ではなく佳作の石田夏穂「我が友、スミス」の方が選ばれるとは意外でした。
全作品を読む前に候補作のラインナップから受賞作を予想!
現時点では候補作を全て読んでいない段階ですが、ラインナップの中から受賞作を予想してみます。またざっと全体の総評を述べていきます。
現時点では乗代雄介さんの「皆のあらばしり」が大本命だと思われます。前作の「旅する練習」の評価が高かった上に、今作も各所で話題になっていたためです。ちなみに前作のあらすじや解説をまとめた記事がありますので、この機会にこちらもチェックしてみてください。
過去に二度候補となった砂川文次さんは、あらすじを見る限り今回趣向をガラッと変えてきた印象があります。これまでは自衛隊や戦争をテーマにした小説が中心でした(前回の候補作「小隊」についてまとめた記事もあります)。対して今回は自転車のメッセンジャーについての話。この辺りがどう評価されるのでしょうか。
今回は全体的に若い作家が選出されました。乗代雄介さんが1986年生まれで、他の作家は全員1990年代生まれです。時代の移り変わりを実感させられますね。
※各作品を読んだ上での受賞予想を記事の前半でしているので、そちらを読んでみてください※
コメント
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