「オン・ザ・プラネット」(著:島口大樹)は映画好きにはぜひ読んで欲しいロードノベル。今回はこの作品のあらすじやネタバレ解説をまとめました。個人的な感想や芥川賞の受賞予想もしています。最後までぜひ読んでみてください。
島口大樹の小説「オン・ザ・プラネット」とは
書名 | オン・ザ・プラネット |
作者 | 島口大樹 |
出版社 | 講談社 |
発売日 | 2022年1月14日 (Kindle版) |
ページ数 | 158ページ (Kindle版) |
「群像2021年12月号」に掲載され、第166回芥川賞の候補作に選出された小説「オン・ザ・プラネット」。デビュー作「鳥がぼくらは祈り、」が話題になり、野間文芸新人賞にもノミネートされるなど、注目されている若手作家の二作目です。
「オン・ザ・プラネット」は映画撮影をするために鳥取砂丘へ訪れる四人の若者のロードノベル。記憶や世界にまつわる会話をしながら向かう若者の姿に引き込まれます。
※「オン・ザ・プラネット」は以下に当てはまる人におすすめ!
・期待の若手作家の作品を読みたい人
・話題の芥川賞候補作品を読みたい人
・映画や哲学に興味がある人
3分で分かる「オン・ザ・プラネット」のあらすじ
鳥取砂丘へ映画撮影へ向かう、ぼく(=よしひろ)、トリキ、スズキ、マーヤの四人のロードムービー・ノベル。僕たちは過去・今・未来や今生きる世界について語り合う。マーヤが浜辺で出会った女の子の話、トリキの弟が失踪した話、そしてぼくの父親が自殺したこと…。現実と虚構を超えて、見えたものとは…。
「オン・ザ・プラネット」のネタバレ解説
「オン・ザ・プラネット」は観念的な小説で、登場する4人の思考が張り巡らされていく話が中心になっています。それゆえ、これといった展開が少なく、主題が分かりにくいと思う方もいるでしょう。
そこでここからは「オン・ザ・プラネット」を読む上で、参考になりそうな解説をしていきます。とはいえ、あくまで筆者の感じた点を中心に書いているので、他にも違う読み方ができると思います。あくまで一つの考察として、参考程度に読んでみてください。
青春時代を生きる四人の「不確かさ」が魅力
四人が語るのは、過去・今・未来の時間的な概念や、世界についての空間的な概念など。「世界が終わったらどうなるのか?」など、いずれもこれといった答えがないものについてあれやこれや語り合います。
深い考察があったかと思えば、浅はかな意見もあり、それらがないまぜになっていきながら、最後まで進んでいきます。登場人物たちは映画を撮るという文化的な一面がありながら、途中の釣りのシーンは現実的。自分一人だけが釣れなかったなど日常的な会話や思考が出てくるなど、現実的言動と非現実的思考が合わさっている印象があります。
こういった「不確か」なものについて論じながらも、確かなものの輪郭をなぞるようにして進む四人の姿を描いているのです。青春時代を生きる者たちが、不確かなものを求めてさまよう姿にリアリティーがあります。
後半で出てくる島口は作家本人?
四人が大阪で泊まるシーンに登場してくる人物が島口です。島口は小説に出てくるぼく(=よしひろ)の高校時代の友人という設定となっています。四人は島口の家に泊まるので、結果的に島口も会話に参加してきます。しかも最後には島口が映画を見る語りになる場面が挿入されるという構造になっています。
果たしてこの島口という人物は、作家本人なのか?というのが気になるところだと思います。作家本人が小説内に出てくる作品は珍しくありません。村上龍のデビュー作「限りなく透明に近いブルー」も「リュウ」という人物が出てきますが、あとがきの内容も含めて本人だと捉えることができるものでした。
「オン・ザ・プラネット」の場合、小説内や後書きで言及されていませんが、本人だと捉えてもよいのかなと感じます。ただし、それは作者が明言しない限りは読者の想像に委ねるということなのでしょう。
「オン・ザ・プラネット」を読んでみた感想
ここからは「オン・ザ・プラネット」を読んだ上での個人的な感想を書きます。また記事執筆時が芥川賞発表直前ということで、受賞予想も併せて行います。
気鋭の若手作家の感性がうかがえる小説
島口大樹さんは群像新人文学賞受賞作の「鳥がぼくらは祈り、」が高く評価されて話題になっていたので、気になっていた作家さん。今作「オン・ザ・プラネット」で初めて彼の世界観に触れたのですが、たしかにほとばしる才能を感じられた小説でした。
個人的には、四人が立ち寄ったトリキの実家でのエピソードが好きでした。失踪した弟を廻り、意外とトリキが落ち着いて話しているところ。傍観者のようでいて、その実どうしてよいのか分からない無力感を抱かせるところなど、心情の書き方がうまいと感じました。
ただ個人的にどうも観念的な小説は苦手で、もう少し作品に動きがあれば、という感想も持ちました。動きがなくても風景描写などで、登場人物たちの心情を表現したものがあれば入り込めたかもしれません。
いずれにせよ、面白く読めました。デビュー作の「鳥がぼくらは祈り、」も今度読んでみようと思います。
「オン・ザ・プラネット」は芥川賞を受賞できる?予想してみた
「オン・ザ・プラネット」は芥川賞を受賞できるのか?他の候補作がどれも分かりやすい展開で物足りないと感じられた場合、この小説が差別化できていて一気に受賞作として上がってくる可能性はあります。ある意味で「芥川賞」らしい小説かもしれません。
しかし内容のわりに作品がやや長く、途中の肝心な「世界」について思弁し合うところあたりから失速していった印象があります。また選考委員の山田詠美さんあたりは、作中の一節を引用して「くどい」と一刀両断しそうな気もします。
今回は一作、選考委員にこのような小説があるとアピールできただけでよく、次回作以降で受賞を狙うというのがよいのではないでしょうか。
受賞予想:△(大穴)
「オン・ザ・プラネット」読者の感想やレビュー評価まとめ
島口大樹「オン・ザ・プラネット」(in「群像」2021年12月号)#読了
今期の芥川賞候補作。大学の映画研究会の4人組が滅亡した後の世界を舞台にした映画を撮るために神奈川から鳥取砂丘までドライブする話。
映画部分と小説を交互に描くメタフィクショナルな構成だが、4人の各エピソードが輻輳して綺麗。 pic.twitter.com/7v5MxDRKMC— つかっちゃん読書垢@純文学ユーチューバー (@book_tsukatsu) January 9, 2022
構成が工夫されています。
#読了
島口大樹『オン・ザ・プラネット』ジャームッシュの影響を受けていることを示唆されているだけあって、突発的でとりとめのない会話が随所に挟まれる、揺蕩うような雰囲気を持った小説。冗漫で観念的な会話には臨場感があり、あらゆる感覚の絶対性を揺さぶられる。とても好きな作品。 pic.twitter.com/vpjUdB2cE2
— ヘラジカ (@herasika1025) January 3, 2022
第166回芥川賞候補作『オン・ザ・プラネット』読み終えた。
まず直感的に好き!若者4人が映画撮影のために横浜から鳥取砂丘まで車で横断するロードノベル。
まだ経験も未熟な4人が、自分の短い人生で培った哲学や人生観を頼りに「世界の在り方」「記憶」について対話を重ねていく。刺激的でした! pic.twitter.com/ChzOd3eVmZ— suzu (@nezimaki49081) January 14, 2022
まとめ:「オン・ザ・プラネット」は震災の記憶にまつわる肖像画のような小説だった!
いかがでしたか?「オン・ザ・プラネット」の特徴を以下にまとめました。
・群像新人文学賞二作目にして、芥川賞候補作に選出
・現実と非現実が入り混じった世界観がおもしろい
・映画好きにはぜひ読んで欲しい一作
以上です。実験的な要素が強いので、読み進めるに苦労するかもしれませんが、最初は深く考えずに四人の会話に自分も混じったような形で読むとよいと思います。ぜひ、彼の世界観に浸ってみてください。
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