「Schoolgirl」(著:九段理江)は、太宰治「女生徒」の現代版アップデート!今回はこの小説のあらすじを紹介した後に、作品の魅力を一部ネタバレありで解説します。さらに小説を読んだ感想や、芥川賞の受賞予想も併せて行います。
九段理江の小説「Schoolgirl」とは
書名 | Schoolgirl |
作者 | 九段理江 |
出版社 | 文藝春秋 |
発売日 | 2022年1月17日 |
ページ数 | 172ページ |
「文學界2021年12月号」に掲載され、第166回芥川賞の候補作に選出された小説「Schoolgirl」。雑誌掲載時からSNSなどで話題にあがっていました。2022年1月17日にはデビュー作の文學界新人賞受賞作「悪い音楽」を併録して書籍化されています。
「Schoolgirl」は太宰治「女生徒」を下敷きにして、小説を読む意義や、母と娘の関係について書いた小説です。ただし「女生徒」を読んだことがなくても十分に楽しめる作品になっていますので、安心してご覧ください。
※「Schoolgirl」は以下に当てはまる人におすすめ!
・太宰治が好きな人
・小説を読む意義について考えたい人
・母と娘の関係性について悩んでいる人
第166回芥川賞候補作、九段理江さん『Schoolgirl』いよいよ17日に発売です。書店さんによっては本日くらいから店頭に並び始めるかもしれません…!
文學界新人賞受賞の新鋭が、「女生徒」を100年近く経った現在によみがえらせる「Schoolgirl」。ぜひご一読ください。https://t.co/7mqi73AqhO pic.twitter.com/qmyMETzmfw
— 文藝春秋 文藝出版局 (@BunshunBungei) January 13, 2022
3分で分かる「Schoolgirl」のあらすじ【※ネタバレなし※】
14歳の娘は私に対して「お母さんは空っぽだから」と言い放つ。小さい頃から小説を読んできた私を「小説に思考を侵されたかわいそうな人」だと思っているのだ。
インターナショナルスクールに通う娘は、スウェーデンの環境活動家の少女・グレタに影響されている。世界の悲惨な現状を知らずに現代社会をのうのうと生きている者たちの目を覚まさせるべく、YouTubeチャンネル「Awakenings」を開設して啓蒙活動に必死だ。
ある日、娘は私の部屋に侵入し、私が最も古くから読んでいたであろう太宰治の小説「女生徒」を持ち出した。そして自身の動画で「女生徒」を題材にして、語りだしたのだ。そこで娘から語られたのは、小説を読む意義について。そして自分の母親について…。
「Schoolgirl」のさらに詳しいあらすじ【※ネタバレあり※】
「Schoolgirl」を読んでもよく分からなかったという方のために、さらに詳しいあらすじをネタバレ込みで紹介します。
ネタバレしていいからさらに詳しいあらすじを知りたい方はこちらをクリック!
かつて私は母に罵倒されながら育てられ、空想上の友達を作って毎日をやり過ごしていた。そんな日々で夢中になっていたのが小説だった。そして、今。私には娘がいる。私は娘中心の日々を送っていた。
しかし娘はそんな私に対して「私はお母さんの所有物じゃない」をとる。私は母が「小説に侵されたかわいそうな人」だと思い、現実を見ない母とは違い、自分は世界のことをもっと考えるようにしている。
一方、私は医者からカウンセリングを受け、自分自身が14歳になったかのように振る舞うことが大事だと諭される。私は不倫相手の男性と会った際に「14歳になったと思って」と伝え、処女の気持ちになってセックスする。
娘は母に反抗する気持ちがある反面、母には感謝する気持ちを持たなければならないとは感じている。そこで母のことをもっと知るために、母のクローゼットから太宰治の「女生徒」を引っ張り出す。
娘は「女生徒」を読んだ上で、当初は小説に対する不平不満を述べていたが、なぜか読点が多いこと、そして小説の中に「お母さん」が多く登場することを指摘する。そのうちに環境活動を啓蒙している自分が、その実やはり母親のことばかりを考えてしまうことを話す。
母は「娘と小説について話したい」だと言い、娘は当初反抗的な態度を示す。しかし会話をしていく内にだんだんと娘の心境に変化が訪れる。最後には「女生徒」を通じて母と娘が心を開いて会話しようとする場面が示唆される。
「Schoolgirl」のネタバレ解説
「Schoolgirl」を一度読んだけど、作者の言いたいことや小説の主題がよく分からなかったという人に向けて、よりこの小説を深掘りするための解説をしていきます。ネタバレになる部分は隠してますので、作品を全部読んだ方だけクリックしてください。
タイトル「Schoolgirl」の意味は女生徒!太宰治「女生徒」の令和版解釈
タイトルの「Schoolgirl」は訳すると、「女生徒」。作中に太宰治「女生徒」が出てきますが、「Schoolgirl」自体が「女生徒」の「令和版解釈」や「現代的アップデート」として捉えることができます。
例えば「Schoolgirl」の冒頭近くにある一節。
あさ、眼をさますときの気持は、面白い
引用:「Schoolgirl」本文より
この一節は、太宰治「女生徒」の冒頭そのままなんです。ちなみに「女生徒」は青空文庫で読めるので、合わせてこちらもチェックするとより「Schoolgirl」の魅力が伝わるでしょう。
「Schoolgirl」中盤から、14歳の娘が「女生徒」を用いてYouTube投稿にて話し始めます。そこから物語は大きく動いていきます。
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娘は「女生徒」に読点(「、」のこと)が多いことを指摘しています。なぜここまで不必要に読点があるのかについて考察していくのです。
とにかくこの読点の多さは、どういったわけ、なのか、知りたい。知りたくて、知りたくて、私は、おかしくなるかもしれない。
引用:「Schoolgirl」本文より
上記の引用からもわかるように、「Schoolgirl」も意図的に読点を多く使っています。特に娘の語りは、後半にかけるにつれて読点が多くなっていく印象があります。なお、この読点多い問題については、ラストにおける娘の語りで、それとなく彼女なりの答えが明かされます。その点についても注意しながら読むと、より作品を楽しめるでしょう。
母と娘の絆の深さを感じられる
小説の核となるテーマに「母と娘の関係」があります。ここでいう「母と娘」とは、物語に登場してくる、14歳の娘と母以外に、その母親から見た母親(娘からいうと祖母)との関係が出てきます。
【母親】
・自分の母親から叱られて育った
・自分の母を反面教師として、自分の娘には手をあげないよう意識している(AIから「今日は手をあげなかったか」と毎日聞かれるようにしている)
【娘】
・娘中心に考える母親に対し「私はお母さんの所有物じゃない」と反抗する
・母親は小説に侵された可哀想な人物だと思っている
・狭い世界でしか考えられない母とは違い、自分は世界のことに興味を向けようとしている
この二人の関係性を大きく変えるきっかけとなるのが、太宰治の「女生徒」です。娘は母のことを知ろうと思い、クローゼットから太宰治の小説「女生徒」を引っ張り出します。そしてそこには「お母さん」という言葉がたくさん出てくることに気づくのです。
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母は娘に対して「私は、自分の娘と小説の話がしたい者」と打ち明けます。娘はそんな母に対し、現実を見ないのはおかしいと反対します。しかし百年前の大きな事件(文中では「大説」と定義)について話すことはなくても、小説なら今もこうして話している事実を母は指摘するのです。
世界にはもっと解決しなければいけない問題が山ほどあって、貧困や、飢餓や、強制労働から救わなければいけない人たちが何百万人といるのに、最終的には私だって、世界のたったひとりのお母さんのほうがよっぽど心配で大事なんだ。
引用:「Schoolgirl」本文より
娘はこうして母のことを知ろうとしていきます。ラストには母と心を交わすような対話が始まるのですが、その点は次の章でまた述べていきましょう。
小説を読む意義を問う
もともと現実主義者である娘は、小説について以下のような認識を持っていました。
小説は現実逃避のための読み物でしかなく、人を夢の中に引きずり込む百害あって一利なしの害悪そのもの、現実世界にとっての敵、諸悪の根源じゃないですか?
引用:「Schoolgirl」本文より
しかし「女生徒」を読んだり、母と会話する内に、小説を読む意義について再考していくのです。ラストの場面で、娘と母親は「女生徒」の中に出てくる「あなた」が誰かについて話し合おうとする箇所があります。
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「あなたは、あなたが、誰だと、思うの?」
「わからない、お母さんは?」
「明日、起きたら、また、話そう」
「うん」
引用:「Schoolgirl」本文より
ここでいう「あなた」が誰なのかは「女生徒」をよく読むと想像がつきますし、最後の娘の語りの中でもそれとなく暗示されているように思えます。「女生徒」を通じて、だんだんと母親と娘が会話しようとしている点も、重要です。
このように
・小説について想像することで、新たな価値観が生まれること
・小説を通じて会話をすることで、コミュニケーションできること
といった形で、小説を読む意義を見出していることが分かります。
「Schoolgirl」を読んでみた感想
ここからは「Schoolgirl」を読んでみた感想を述べていきます。さらにこの記事を書いているのは芥川賞の受賞発表前なので、受賞するかどうかの予想も合わせて行います。
今だからこそ多くの人に読んでほしい名作!
長引く不況やコロナ禍、そして環境問題など、現代では多くの社会問題がある中、多くの人が小説を読んで考えることをしなくなっていると感じます。「小説=狭い世界の出来事、想像で現実逃避している」という認識を持っている人は、少なくないでしょう。
だからこそ「Schoolgirl」の中で示される、小説を読む意義は重要だと感じます。このサイトでも純文学についての解説を主に行ってきましたが、作品を通じてより考えが深まればいいなと思って書いています。
また娘が自己表現する場としてYouTubeを選んでいること、母がAIによって生活のリズムを作っていることなどは現代らしいと感じました。まさに今じゃないと書けない/読めない小説だと思います。
何より母親と娘が心を通わせていく過程が、とても緻密に描かれている印象を持ちました。14歳という多感な少女がやはり最後には母親のことを想っている様がとても健気で。最後までこの二人にひき込まれました。
「Schoolgirl」は芥川賞を受賞できるか予想してみた
「Schoolgirl」は芥川賞を受賞できるのでしょうか?九段理江さんは今回初候補ということで、今回三度目候補の乗代雄介さんや砂川文次さんの方が優位かという声が多いです。しかし個人的には今作を読んだ感じだと、「Schoolgirl」が大本命だと言っていいのではないでしょうか。
緻密な文章で、小説を読む意義や、家族の関係性を再定義しており、その点は高く評価されそうです。「作品がまとまり過ぎていて奥行きが少ない」や「家族再生の描き方がご都合主義」だと一部の人は否定しそうですが、それよりも作品の魅力の方が勝っていると思いました。
また、今回は太宰治の小説をベースにしていますが、本家の太宰治は芥川賞を受賞できず、遺恨が残っています。次女の津島佑子さんは三度の候補入り、さらにその娘の石原燃さんも最近候補になりましたが、いずれも受賞できなかったのです。そんな中、太宰治の小説をモチーフにした作品が受賞するとちょっとした話題になりそうです。
受賞予想:◎(大本命)
「Schoolgirl」読者の感想・評価まとめ
ここからは「Schoolgirl」を読んだ方の感想をまとめました。
九段理江「Schoolgirl」、なかなかよかった。太宰治「女生徒」の「私」は高等女学校の生徒なことからもわかるように恵まれた階層に属していたわけだけど、今作で描かれる母と娘はタワマン住まい(笑)。わかってるなー。
— Akihiro Takiguchi (@atak422) January 15, 2022
#ユーキの読んだ本
『Schoolgirl』九段理江少女と女性
娘と母
女生徒とSchoolgirlそれらの対比で娘と母の関係や女性と世界の関係を描いている傑作。
太宰治の『女生徒』を中心に母と娘と世界が交わる物語。
芥川賞はこの作品で決まりじゃないでしょうか(予言)
俺は九段理江さんを推す!! pic.twitter.com/cX1J3tfPOl
— 宙希(ユーキ) (@PLASTICLABEL05) January 15, 2022
17日発売の九段理江さん「School girl」をいただきました🕊ありがとうございます!!!! 表題作、現代の価値観の変化の中で部分的に救われ部分的に取り残され引き裂かれていくような感覚が的確に掬い取られている小説です 「母の娘」の物語でもある pic.twitter.com/6QIYX8xm82
— 水上文 (@mi_zu_a) January 12, 2022
まとめ:「Schoolgirl」は太宰治「女生徒」の現代版アップデートだった!
いかがでしたか?「Schoolgirl」の特徴を以下にまとめました。
・文学界新人賞二作目にして芥川賞候補作
・太宰治「女生徒」の令和的解釈が面白い
・母と娘の関係を丁寧に描く
・小説を読む意義を見出している
・芥川賞受賞予想は大本命!
以上です。芥川賞受賞して話題になってほしい一冊です。ぜひ手にとってみてください。
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