第168回芥川賞の候補作となった「グレイスレス」(著:鈴木涼美)。今回はこの小説のあらすじと感想をまとめました。また作品の魅力を深掘りするために、本作は実話なのか、タイトルの意味は何なのか?ラストのネタバレ考察などを解説した内容も記します。ぜひ最後まで読んでみてください。
鈴木涼美の小説「グレイスレス」とは
書名 | グレイスレス |
作者 | 鈴木涼美 |
出版社 | 文藝春秋 |
発売日 | 2023年1月14日 |
ページ数 | 122ページ |
作者の鈴木涼美さんは、元AV女優という肩書きを持つ作家。これまでに『「AV女優」の社会学』や『身体を売ったらサヨウナラ』を出版。小説デビュー作の「ギフテッド」は、前回の第167回芥川賞の候補作に選ばれ、今作はそれに続いての二度目の芥川賞候補です。
「グレイスレス」は、AV女優の化粧師として働く女性が主人公。古い西洋建築の家とポルノ現場を往復する日々を、静謐な筆致で描いた小説となっています。
※「グレイスレス」は以下に当てはまる人におすすめ!
・静謐な筆致で書かれた文学を味わいたい人
・ポルノ現場を描いた作品を読みたい人
・第168回芥川賞の候補となった話題作をチェックしたい人
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3分で分かる「グレイスレス」のあらすじ【※ネタバレなし※】
私は森の中に佇む、ある小説をテーマにして作られた西洋建築の家に住んでいる。かつてあった十字架を外した場所には、微かな跡が残っていた。母が出て行った今は、祖母と共に暮らしている。
そんな私はAV女優の化粧師として働く。撮影現場で女優たちの顔についた精液を落とし、また次の撮影に向けての化粧直しをする。聖なる雰囲気の家と、ポルノ現場を往復する日々を私は送っている…。
「グレイスレス」のネタバレ解説&考察まとめ
ここからは「グレイスレス」の魅力を深掘りするために、タイトルの意味、作品の魅力、ラストシーンのネタバレ考察などを行います。
「グレイスレス」のタイトルの意味とは?
タイトルの「グレイスレス」は英語にすると、「graceless」。「品がない」「見苦しい」といった意味があります。これは作中の主人公が働くポルノ現場を指していると思われます。
作者の鈴木涼美さんは以前AV女優として活動していた時期があり、その経験が活きた世界が創られています。化粧師の視点から見たポルノ女優の心情や、現場の壮絶さ、周囲の言動などにはリアリティーがあります。
対象的に神聖な場所として描かれるのが、主人公の住んでいる家。主人公がポルノ現場と家とを往復する中で、どんな考えの変化が訪れるのかに注意しながら読むとよいでしょう。
「色」に注目して読んでほしい作品
作者の鈴木涼美さんはインタビューの中で以下のように話しています。
『グレイスレス』では色にばっかり目が行く主人公を書きました。白というと純白など『キレイな』『穢れていない』イメージですが、精子って白くて、でも汚くて、べちゃっとしてて。キレイな化粧品で描かれた黒い線を、汚い白い液体が汚していくんですよ。なんかいいじゃないですか
引用:知人は“バケツ一杯の本物の精液”を……「愚かな女の人たちの側にいたい」芥川賞候補作家・鈴木涼美(39)が「規範の不在」を描く新作小説『グレイスレス』 | 文春オンライン
化粧のシーンで色が出てくるのはもちろん、いろんな場面で色の記述が頻出します。主人公が住む家の洗面台に貼られたタイルの記述を、三行にわたって「ピンク、白、緑、白…」などと色を羅列するなど、凝った書き方がされていて工夫が見られます。
ラストシーンをネタバレ考察
「グレイスレス」のラストシーンにも注目してみましょう。ネタバレを含むので、クリックしたら読めるようにしています。
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主人公は引退するポルノ女優に感化され、自身も一旦化粧師を休業するようになります。やや唐突な印象を受けた読者もいるでしょうが、そこに至るまでにどういった心の移り変わりがあったのでしょうか。
鍵となるのは、やはりポルノ現場と対比するようにして描かれる、家での描写や家族とのやりとりでしょう。主人公の母は自由気ままに生きており、手紙で海外をもっと知って価値観を広げるように指南してきます。また祖母も余生を謳歌しようとしている雰囲気があります。そんな彼女たちに唆されたと書いてしまうと、どうしても浅い感じがしますが、少なからず彼女たちの考え方が主人公に影響を与えたと言っていいのではないでしょうか。
「グレイスレス」を読んでみた感想
ここからは「グレイスレス」を読んでみた感想を書いていきます。また読者のレビューも合わせてまとめました。
【筆者の感想】虚構の世界を淡々と描く
前作「ギフテッド」では夜の世界を舞台に、テーマが分かりやすく描かれていた物語だったのに対し、今作「グレイスレス」はテーマを敢えて絞らずに淡々と言動や風景描写をスケッチしている感じで捉えました。
その分、スケール感は大きくなった気がしますが、主張がぼやけやすい一面もあり、何が言いたいか分からなかったという意見も出てくるかもしれません。筆者自身、一読して主題がよく掴めずに、なぜラストに主人公に心理変化が起こったのかや、その他の場面の意義などでいくつか疑問がわきました。
ただ静謐な筆致で書かれている、ポルノ現場の描写や、AV女優の心情などはこの人にしか書けないものがあると思いました。個人的には虚構に塗れた世界で、何が真実で何が嘘か分からない部分にスポットを当てて、そこに深く切り込んだ作品を読めたらいいなと感じます。
【みんなの感想や評価】聖と俗の対比がおもしろい
鈴木涼美「グレイスレス」#読了
AV女優の化粧師である主人公は女優をより美しく整え、より愚かに壊してみたいと考えている。
そして祖母と一緒に住む十字架の外された西洋建築の我が家へと帰る。
男のために作られた性産業への参加や、女優と化粧師という対比がとても深いと思った。宗教的なテーマだ。 pic.twitter.com/UIz0NcNftu— つかっちゃん読書垢@純文学ユーチューバー (@book_tsukatsu) January 16, 2023
鈴木涼美『グレイスレス』#読了
“ある”人にとっては間違いなく”ある”であろう境界線というもの。
聖と俗とか都会と田舎とか他人と家族とか男と女とか。
対比を描きつつ境界の合間を漂う主人公は自分が知らないと思っていた世界との境界線も曖昧にしてくれた。
第168回芥川賞候補作品。— マヤ@文学淑女 (@Mayaya1986) January 16, 2023
ポルノ業界で、「性」で「生」きる女優の傍でメークの仕事をする女性の主人公。
男優の体液がついた女優のワンカットが終わり、すぐにメークし直す描写など、繊細なところまで本作は描かれている。心理描写も卓越しており、読み応えがあった。 pic.twitter.com/ITfK5cBaXG
— JADE@読書垢 (@sakurasaku3113) December 24, 2022
AV女優の化粧師の聖月。性愛の現場と祖母の家での生活が交叉する様は、2つの小説を同時に読んでいるかのよう。でも、2つの世界は地続きで繋がってる。その境界線は、体液に濡れて歪む化粧と同じように、不安定で曖昧。たとえ規律の端っこでも、生きてる事は誰にも否定できない。 pic.twitter.com/EmL256nQlz
— とも@読書垢 (@tomobook_panda) January 17, 2023
まとめ:「グレイスレス」は聖と俗の対比がおもしろい小説だった
いかがでしたか?「グレイスレス」の特徴を以下にまとめました。
・第168回芥川賞候補作
・元AV女優がポルノ現場のリアルを描く
・聖と俗の対比がおもしろい
以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!
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