「夜が明ける」は、現代社会における根深い問題に真っ向から向き合った衝撃作!西加奈子さんが苦労して書き上げた、5年ぶりの長編小説のあらすじをまとめました(ネタバレ部分は隠しています)。後半では読者の方々が絶賛した感想をいくつか紹介しています。
西加奈子の小説「夜が明ける」とは
書名 | 夜が明ける |
作者 | 西加奈子 |
出版社 | 新潮社 |
発売日 | 2021年10月20日 |
ページ数 | 416ページ |
「夜が明ける」は西加奈子さんによる5年ぶりの長編小説。貧困や虐待や過重労働など現代社会における根深い問題を書ききった力作です。物語に登場する二人の男性の生き様を通して、痛烈なメッセージを投げかけてきます。
西加奈子さん本人がインタビューで、作品に対する想いを語っています。重苦しい描写が作品の大半を占めており、書く際の苦労が伝わってきます。読者もできるだけ元気がある時に読んだ方が良いかもしれません。
※「夜が明ける」は以下に当てはまる人におすすめ!
・現代社会にはびこる根深い社会問題を深掘りしたい人
・貧困や過重労働で苦しんだ経験がある人、周りが苦しんでいる人
・希望や救済が得られる力作を味わいたい人
「夜が明ける」のあらすじ【※ネタバレなし】
俺が学生時代に出会った男・深沢暁は、フィンランドの俳優、アキ・マケライネンにそっくりだった。風貌だけでなく、見た目の物哀しさも似ていて、俺は彼のことをアキと呼んだ。アキは貧乏で不遇な時代を乗り越え、大人になっていく。そして、俺もー。
貧乏な暮らしに、大人たちの企みに虐げられる青春時代に、過重労働を強いられる生活に。俺たちはとことん傷つけられ、だけどそれでも救いを求めながら生きていくー。苦悩する人間に再生と救済を与え続ける作家・西加奈子の、超大作がここにある。
「夜が明ける」のあらすじ【※ネタバレあり】
「夜が明ける」でスポットをあてて描かれる人物は、二人。
一人はアキ(本名は深沢暁)。貧乏な生活を強いられ、母親から十分な教育や育児を受けなかった彼は、吃音に悩んでいる。施設を行き来しながら学校を卒業。その後劇団に入るも、そこで彼はまた不遇な扱いを受けることになるー。
もう一人は主人公の俺。俺は学生時代を経て、テレビの制作会社で働くことになった。しかしそこで待っていたのは、あまりにもきつい過重労働だった。さらにテレビ業界で働く者たちの汚い部分を目の当たりにして、俺はだんだんと苦悩していくー。
俺とアキの二人の少年から青年時代を辿る、人生録。果たして二人には救済が待っているのか?
ここからは二人それぞれの人生について、時系列に沿って記していきます。ネタバレとなるので、作品を読んだ方のみクリックして確認するようにしましょう。
※ネタバレ部分はクリックしないと読めないようになっています。ネタバレしたくない方は読み飛ばしてください※
前編〜アキの少年時代〜
ネタバレしていいからアキの少年時代についてのあらすじを詳しく知りたい方はこちらをクリック!
吃音で悩む深沢暁はクラスでなかなか馴染めない存在だった。そんな中、俺がアキ・マケライネンの存在を教えたことで、彼の人生は変わった。老けた見た目、物哀しげな雰囲気がそっくりで、俺は彼のことを「アキ」と呼んだ。それと伴にアキはだんだんとクラスの人気者になった。
ある日、俺が選挙カーに轢かれそうになっていたところを、アキが体を張って助けてくれた。車にぶつかったが軽症で済んだアキは、立候補者のあんべたくまの世話人から名刺を受け取った。
アキは貧しい家庭で育った。母親は育児や子どもの教育に消極的でうつ病を患っていた。アキは施設と家を往復するようになった。やがて母があんべたくまの事務所の名刺を見つけ、事故を隠蔽させる代わりに大金を得た。しかし母はそれを生活費に回さずに、乗りもしない車を買ってしまう。
アキはマケライネンのように俳優を志すようになり、劇団「プウラの世田谷」に入る。劇団員たちを「みんな家族」と謳う主宰の東国伸子は、彼の吃音を治すと言ってくれた。しかし訓練と称し、アキは劇団の身の回りのことをさせられる日々が続いていた。
そんな中、アキの母が死んだ。劇団のみんなが、母が買っていた車を売ったり、葬儀を開く手助けをしたりして、アキはなんとか生活を立て直した。そして遂に役を得た。アキはその異様な存在感のおかげで、客たちに大きなインパクトを残した。
前編〜俺の少年時代〜
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俺はアキと共に楽しい学校生活を送っていた。学校には気になる女の子がいた。ガソリンスタンドで働く高峰だ。彼女はイラストを描いていて、とても上手だった。俺は彼女と心を通わせ、「漫画家になれ」と言った。しかし彼女は「無理だよ。普通に働く」と答える。
そんな中、俺の父親が借金をしたまま交通事故で死んだ。保険会社からは自死を疑われ、十分な保険金がおりなかった。俺の暮らしに生活苦がのしかかってきた。そして遂に業者から金目のものを全て持っていかれてしまった。
父と親交があった弁護士の中島さんが救いの手を差し伸べてくれ、危機的状況はなんとか乗り越えた。そして高校卒業を控え進路をどうするか迷っていた俺に、母は「大学には行け」と言ってきた。俺は奨学金を借りて、大学へ行く決意をした。
大学時代、俺は劇団に入ったアキと交流しながら、日々を送っていた。ある日中島さんと再会し、酒を飲んだ。その時俺は父がやはり自殺したのだと悟った。それでも俺は「負けません」と誓いの言葉を、中島さんに言った。
俺は大学3年生の時に行った報道写真展が忘れられず、マスコミ関係に就職すると決めた。諦めずに就職活動を続けた結果、テレビ制作会社への就職を決めた。俺はいつかマケライネンの軌跡をドキュメンタリーとして撮りに行く日を想い、将来に希望を抱く。
後編〜アキの青年時代〜
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アキが所属する劇団が虐待をテーマにした演劇を披露したことで、問題になっていた。虐待を受ける人間を演じていたアキは、東国の期待に応えようと役にのめり込むあまり段々と正気を失っていく。一時期良くなっていた吃音もまた復活してしまった。
東国と劇団員の交友トラブルや、劇団への強い批評などの煽りを受け、アキは劇団を退くことになった。行き場を失くし、街を徘徊していたアキがたどり着いたのは、一風変わった物真似バー「FAKE」だった。
アキ・マケライネンとそっくりのアキは、FAKEで働くことになった。そのバーにいたのは介護会社で重労働していた2PACそっくりの従業員や、男性に買われるのを待っている女性客などだった。彼らと交流する内にアキは幼少時代の自分の不遇を思い出しながらも、なんとか生きていった。
ある日、家に置いていた給料袋を盗まれたアキは、そのまま家を出ていく。野外で寝ていたアキは不良に襲われ死にかける。そのまま訪れたFAKEでは、オーナーを襲った従業員と女性客が金を持ち逃げするところだった。
アキはFAKEのオーナーのウズにずっとお世話になっていた。彼はアキのことを優しく受け入れてくれた人間だった。襲われて瀕死状態のウズは、アキがこれからどうやって生きていくべきか話した。
後編〜俺の青年時代〜
ネタバレしていいから俺の青年時代についてのあらすじを詳しく知りたい方はこちらをクリック!
俺はテレビ制作会社で、過重労働を強いられていた。ただでさえ激務な中、タレントの不祥事やADの失踪などが全て自分に降りかかり、ピークを超していた。俺は次第に死を身近に考えるようになり、リストカットを繰り返す。
そんな中、ある漫画が人気になっていたのを見つけ、それが学生時代を共に過ごした高峰のイラストにそっくりだと分かる。俺は高峰と久々に再会する。高峰は幼少時代に貧乏な暮らしを強いられていたこと、自分なりに負けたくないと精一杯戦ってきたと聞かされる。
その後も俺は理不尽な出来事に巻き込まれ続けた。上司の田沢が会社を辞め、その仕事が回ってきた。お姉タレントからセクハラされた。年増の女優・押見チカからストーカー紛いの執拗な連絡が来た。
俺だけが苦労しているのに、局のディレクターの林はタレントと結婚し、飄々と生活している。また後輩の女性・森は田沢に取り入ったり、明るいままにそつなく仕事をこなしたりして、それも俺にとっては気にくわない。
そんな中、俺は仕事中に倒れ、そのまま復帰できずにいた。
結末〜俺とアキはどうなったのか?〜
ここからは前編、後編で書ききれなかった「夜が明ける」の結末部分について記します。最後に、タイトル「夜が明ける」の意味も明かされます。
ネタバレしていいから「夜が明ける」の結末を詳しく知りたい方はこちらをクリック!
家にこもっていた俺のもとへ、後輩の森が訪れてきた。会社でそつなく仕事をこなしているように見えた森だったが、彼女なりに精一杯社会に抗いながら生きてきたことを明かされた。
森は俺のもとへ届いた荷物を持ってきてくれた。中身はフィンランドからで、同封された手紙でアキが病気で亡くなったと知らされた。アキはフィンランドへ渡り、アキ・マケライネンを元夫に持つ未亡人と知り合ったのだという。アキは彼女と一年間を共に暮らし、幸せな日々を送ったようだ。
俺はそこに同封された、アキの日記を読んだ。最後に記された日記の中で、アキ・マケライネンが出ていた映画の本当のタイトルが「夜が明ける」だと分かった。
夜が明ける。素敵な言葉だと思う。夜が明ける。みんなの夜が明けるんだよ。君にも教えてあげたい。
引用:「夜が明ける」本文中のアキの日記より
俺はまた一歩踏み出す決意をする。その時、外から選挙演説が聞こえてきた。それはかつてアキを轢いた選挙カーに乗っていた、あんべたくまだった。内閣総理大臣になったあんべたくまは「本当に頑張っている人たちが、損をする国ではあってはならない」とほざく。
俺はこのあんべたくまを撮ると決めた。それだけではない。アキの人生を撮る。そのために、俺の人生を撮る。その時の俺は、これから来る世界で起こる出来事を知らなかった。この夜が明けるのか?不安と希望を胸に抱いた状態で、俺はこれから生きていくと決めた。
「夜が明ける」の感想や評価まとめ
本書は、現在、日本の生きとし生けるもの全ての人に読んで欲しいと思った素晴らしい作品である。
引用:amazon
「夜が明ける」の着想は、カナダ在住の作家が日本人は貧困ではないと誤解されていたところから。まずはこの国に生きる者として、現代社会の闇を知る必要があると思えます。
登場人物達の人生にどっぷりと感情がシンクロしていく様は著者の魅力である。
引用:amazon
感情がシンクロし過ぎて、時に読むのが辛くなるかもしれません。そんな時は一呼吸おいて読むようにしましょう。
「夜が明ける」は2022年本屋大賞の有力候補との声も!
力作「夜が明ける」には、早くも2022年本屋大賞の有力候補だとする声があります。そういえば、2021年に本屋大賞を受賞した町田そのこさんの「52ヘルツのクジラたち」も児童虐待など、現代社会における問題を扱った小説でしたね。
⇒2021年本屋大賞「52ヘルツのクジラたち」の内容を振り返ってみる
西加奈子さんは2017年に発売された『i(アイ)』で本屋大賞7位を獲得しています。それ以来のトップ10入りなるか?期待したいところです。重苦しい雰囲気の小説で万人受けするかは微妙ですが、混迷する今の時代には読んでおくべき作品だと言えます。
「夜が明ける」が映画化・ドラマ化したら?キャストを考えてみた
もし「夜が明ける」が映像化されたら、キャストはどうなるでしょうか?妄想してみました。
俺(少年時代):道枝駿佑(なにわ男子)
「俺の家の話」で好演し、「消えた初恋」では見事に主役を務めた、道枝駿佑くんが真っ先に思い浮かびました。明るい雰囲気でアキに接する様子や、その一方で家のゴタゴタに巻き込まれて苦悩する様子などが、想像できます。
俺(青年時代):西島隆弘(AAA)
アイドルでありながら演技力の高い、ニッシーこと西島くん。道枝くんと顔が似ていることからも適任だと思います。上には逆えず、本音を言えずに苦しんでいる様を、上手に演じそうです。
アキ(少年時代):前田航基
10代で大柄でという人物像がなかなか思い浮かばず。その中で考えたのが、まえだまえだのお兄ちゃん。身長意外と低い上に、20代だし違うかもしれませんが。ただアキが少し老け顔なところから、20代でもよいのかなと感じました。
アキ(青年時代):鈴木亮平
こちらも老け顔という設定なので、実年齢(30代前半)より高めの人物を。懸命に生きるもなかなかうまくいかない人物像を、彼ならしっかり演じてくれるでしょう。
他のキャストも妄想してみました。皆さんのイメージとは異なるかもしれませんが、あくまで一つの意見として楽しんでもらえれば。
中島さん:ムロツヨシ
遠峰:清原伽耶
東国伸子:中村ゆり
ウズ:勝地涼
2PAC:永井大
森:志田彩良
まとめ:「夜が明ける」は現代社会の問題に真っ向から向き合った力作だった!
いかがでしたか?西加奈子さんの「夜が明ける」についてまとめました。
・西加奈子さん5年ぶりの長編小説
・貧困、虐待、過重労働などの社会問題を扱った力作
・ラストに救済と希望が待っている
重苦しい描写が続くので、できるだけ元気な時に読んでみましょう。最後にはきっと涙が止まらなくなるはずです。
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