「N/A」は完成度の高い新人作家のデビュー作でした!今回は満場一致で文學界新人賞を受賞したと話題の小説「N/A」(著:年森瑛)を特集。あらすじを紹介した後、作品の魅力をより深掘りするためにネタバレ含めて解説します。感想や読者の評価、さらに芥川賞の受賞予想も合わせて行っています。
年森瑛の小説「N/A」とは
書名 | N/A |
作者 | 年森瑛(としもりあきら) |
出版社 | 文藝春秋 |
発売日 | 2022年6月22日 |
ページ数 | 120ページ |
純文学の新人賞である文學界新人賞を満場一致で受賞した、「N/A」(著:年森瑛)。選考委員が全員絶賛しており、文學界掲載時から既に大きな話題に。書籍の単行本化が決まり、さらに第167回芥川賞の候補作にも選出されました。
「N/A」は、周囲から拒食症やLGBTだと誤解されている高校生が主人公。母親や友達から気遣われる一方で、「かけがえのない他人」となる人を求めていく話です。
純文学の新人賞を受賞したにもかかわらず、小難しい雰囲気はありません。現代の高校生が実際に使っていそうな小気味よい会話文と、平易な地の文で成り立っており非常に読みやすい作品となっています。
※「N/A」は以下に当てはまる人におすすめ!
・現代の若者が直面する問題を切り取った作品を読みたい人
・自分が周囲から理解してもらえないと悩む人
・話題の新人賞・芥川賞候補作品を読みたいと思っている人
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3分で分かる「N/A」のあらすじ【※ネタバレなし※】
女子校の中学に通う松井まどかは、生理で自分の血を見るのが嫌だった。好んで食べないようにすることで、それから生理が止まった。まどかはその喜びに共感できる人をSNSで探すも、自分のような感情を持つ人は見つけきれない。
まどかは女子校に通う高校生の今も、40kg弱の体重のままだ。身長が伸びて、周囲からは王子様と呼ばれている。
まどかは教育実習生としてやってきた女性のうみちゃんと、お試しで三ヶ月間付き合っている。まどかはうみちゃんと「かけがえのない他人」の関係になりたいと感じているが…。
「N/A」のネタバレ解説&考察まとめ
「N/A」はとても読みやすい作品ですが、一読して何が言いたいのか、よく分からなかった方がいるかもしれません。またなぜこの作品がここまで高評価を抱いているのか、その理由を知りたい人もいるでしょう。
ここでは「N/A」の魅力をより深掘りするために、一部ネタバレを含みながら考察した内容を書きます。と言いつつも、このような純文学作品はいろんな捉え方ができると思うので、あくまで一つの参考程度に読んでもらえると幸いです。
タイトル「N/A」とは?「not applicable(該当なし)」という意味のこと
作品のタイトル「N/A」とはどんな意味なのでしょうか?「not applicable」の略であり、日本語訳すると、「該当なし」となります。つまり何にも属さない主人公・まどかの境遇を表した言葉であると分かります。
まどかは親や友達、さらには仮で付き合っていたうみちゃんからも、枠に当てはめられてしまうのです。
【周囲から思われている、誤った属性①拒食症】
・周囲→過度に痩せたい、もしくは生理が汚いと思っているから食べないのだと思っている。
・本人の理由→ただ股から血が出るのが嫌で、生理を止めたいと思っていた。
【周囲から思われている、誤った属性②LGBT】
・周囲→女性しか好きになれずに付き合っているのだと思っている。
・本人の対応→「かけがえのない他人」を求めて、お試しで同性と付き合ってみることにした。
まどかは、本当はどちらにも該当しないのに。そのことに違和感を抱きます。
本当はどんな属性にもふさわしくないのに。
まどかは、何者でもないのに。
引用:『N/A』本文より
さらに、その属性に沿った気遣いを持って、それなりの言葉をかけられることにも疑問を抱きます。その辺りは次の章で詳しく書きましょう。
「N/A」の主題とは?相当な気遣いのもと用意された言葉を話すしかない現代人の姿
「N/A」で作者が主張したいことの一つは、以下の一節によく表れています。
まどかへ向けられる態度は、その属性への対応として推奨されるものばかりだった。
引用:『N/A』本文より
一つの例として、母が拒食症だと思っている娘への対応にもその傾向が表れています。
母はずいぶんと言葉を選んだようだった。本当にこの言葉で合っているのか、正しいのか、まどかが傷ついていないか。でも禁止事項を破って話し始めてしまったから、自分で考えた、誰からもお墨付きをもらえない言葉を続けなくてはならなくて、舌の上でつぶしたような声でそう言った。
引用:『N/A』本文より
母親は密かにパソコンで拒食症の娘にどう接するべきかを検索していました。そこで出た言葉が「誰かからお墨付きをもらった言葉」であり、逆にそれ以外の自分で考えた言葉で接してしまうことに不安を抱いているのです。
そういった周囲の配慮に気づいたまどかは、そんな人たちをがっかりさせないように努力はします。黙って笑顔で接するのです。しかし心のうちでは、そういった関係性について辟易しています。
こういった周囲の状況を踏まえて、まどかは「かけがえのない他人」を求めるようになります。
まどかのことを、ただのまどかとして見てくれて、まどかへの言葉をくれる他人がほしかった。そういう他人のことを、同じように大切にして、やさしくして、死ぬまで楽しく一緒にいたかった。
引用:『N/A』本文より
しかしまどかは、そんな人はどこにもいないと、孤独感を抱くのです。このもどかしい気持ちがずっと流れていくかと思いきや、ラストには思わぬ方向へと話が進んでいきます。次の章で述べていきましょう。
「N/A」は結末でのどんでん返しが凄い!巧みな構成に高評価
「N/A」は文學界新人賞の選評で、選考委員の長嶋有さんから以下のように講評されています。
受賞と落選を分けたのは今回ははっきり「構成」だった。
引用:『文學界6月号』54ページより
どのような構成になっていたのか?結末を中心に解説していきましょう。
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まどかは付き合っていたうみちゃんと別れます。うみちゃんが「LGBT」の括りでまどかと接していたことに拒絶した気持ちを覚えたからです。
それまでは一方的に、「丸っこくてやさしい言葉」を投げかけられるだけだったまどかですが、ラスト近くで逆にまどかが傷ついたクラスメイトにどんな言葉を投げかけるべきか逡巡する場面が訪れます。
祖父母がコロナになりどうしていいか分からないと、ラインが来るのです。そこでまどかはこれまで自分がされてきた行為を、自分がやろうとしていることに気付きます。
自分の言葉で人の心を揺らしてしまうのが怖くて、自分の言葉の責任を担保してくれる何かが欲しくて、他人のお墨付きの言葉を借りたくて仕方がなかった。
引用:『N/A』本文より
さらにラスト近くで、まどかに久々に生理がきた場面が描かれます。汚れたシーツを買い直そうと立ち寄った寝具売り場で、まどかは偶然うみちゃんに再会します。
生理で苦しんでいる姿を守られて下心を感じたまどかでしたが、実はうみちゃんには新しい恋人ができており、そんなつもりはないと一蹴されるのでした。最後にまどかはうみちゃんへ、「ありがとうございました」と誰もが認めてくれる、「丸っこくてやさしい言葉」を返すのです。
上記の構成をまとめると、
前半→自分が周囲から「用意された言葉」を送られることに違和感を抱く
中盤→自分自身も周囲へ「用意された言葉」を探そうとしていることに気づく
ラスト→自分自身もつい「丸っこくてやさしい言葉」を言ってしまう
という、構成になっています。この流れになるように、生理が久々に来る伏線など、非常に考えられて作ってあります。この点が高く評価されています。
「N/A」を読んでみた感想
続いて、「N/A」を読んでみた感想をまとめました。まずは筆者が感じたことを書き、次に読者がSNSに寄せたコメントをまとめています。これから作品を読んでみようと思っている方は、是非参考にしてみてください。
【筆者の感想】新人作家にして高い完成度を持つ作品だった
新人作家ですが、とても完成度が高い作品だと思いました。現代のマイノリティーに対する接し方、多様性の認め方などの問題が浮き彫りになり、作者なりの一つの回答を示していることに感心しました。
逆にいうと、完成度が高すぎる故に、次回作が難しいのではとお節介にも思ってしまいます。ただ今作で高校生たちが「ダサい」と発言するいくつかの場面が、次回以降の作品世界の広がりを期待させてくれる部分もありました。
文學界新人賞選考委員の青山七恵さんが「うちらも全身、面白くなりたい」という部分を褒めていました。私もこの部分がとても好きで、このような視点に圧倒的な世界へのささやかな抵抗とおもしろさを感じた次第です。ユーモアセンスがある作家だと感じるので、ユーモアで突き抜けた作品も一作読んでみたいと思いました。
【みんなの感想や評価】生々しくも冷たい叫びが切実だった
次に読者の感想をまとめました。
『N/A』年森瑛(文藝春秋)
ぐりとぐらのような、がまくんとかえるくんのような“かけがえのない他人”を求めるまどか。
「オスとメスの判別もつかない落書きみたいな絵柄の、本当に犬なのかも判断できない毛むくじゃらの生物」になりたかったまどかの、生々しくも冷たい叫びに自分の芯が揺さぶられた。 pic.twitter.com/PlS7ClRhbE— muuugi (@muuugi4) June 24, 2022
年森瑛『N/A』
カテゴライズされることそれ自体を拒絶し、当事者性を否定する主人公は、何者でもない「わたし」を生きようとする。だが同時に彼女は、そんなものは物語の世界にしか存在しないと知っている。現代のアイデンティティ政治の抱える根本的な問題が、個人的で、切実な困難として顕現する。— 銀糸鳥@☂️ (@DeeperthanLies) June 26, 2022
第167回芥川賞候補作全作読了。
今回は全て女性の作家という史上初の並びに。
どれも楽しんで読みましたが、個人的に圧倒的に良かったのは年森瑛『N/A』。他者からのラベリングに対して抵抗し「私は私だ!」と高らかに叫ぶ主人公に鼓舞される。
文体、主題、テンポ。全て良かった。
受賞するかな。 pic.twitter.com/IPAUPdB6oS— suzu (@nezimaki49081) June 28, 2022
年森瑛「N/A」#読了
芥川賞候補作。思っていたよりも読みやすかった印象。自分がみているものが本当にそうではないかもしれないのに、それを分かったように言ってしまうって現代ならよくありそうだ。「何者でもない」って言葉が私にはものすごく響いた。いろいろと考えさせられる作品。 pic.twitter.com/F6FCiwgNex— patty@読書垢 (@biscuitstudy777) June 25, 2022
マイノリティーや多様性について描かれる小説は珍しくないですが、その多くにありがちな少数派な人の内面をどんどんクローズアップするという手法ではない、全く別のアプローチで描かれた作品というところに価値がありますね。
「N/A」は芥川賞を受賞できる?ズバリ大予想!
「N/A」は第167回の芥川賞の候補となっている作品ですが、この記事を書いている6月時点ではまだ芥川賞は発表されていません。ここでズバリ芥川賞を受賞できるのか、大予想していきましょう。
「N/A」は満場一致で文學界新人賞に選ばれたため、前評判がとても高い作品でした。実際に読んでみると、期待以上の小説で感動しました。ズバリ予想としては、受賞大本命だと思います!
非常に狭い世界を描いた作品ですが、とてもリアリティーがあります。どこにも破綻がなく完成されており、現代が抱える問題を鮮やかに表現しています。新人作家の域を越えた作品で、ここ数年の候補作の中でも群を抜いていると感じました。
⇒受賞予想:◎(本命)
まとめ:「N/A」は新人の域を越えた完成度の高い作品だった
いかがでしたか?「N/A」の特徴を以下にまとめました。
・文學界新人賞に満場一致で選ばれた前評判の高い作品
・第167回芥川賞の候補作にして受賞大本命
・タイトル「N/A」の意味は「該当なし」
・何にも属さない高校生にスポットを当てた小説
・構成が見事で完成度の高い作品
以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!
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