奥田英朗さんの最新作『リバー』はもうチェックしましたか?今回はこの小説のあらすじを簡単に紹介した上で、作品の魅力を考察し、筆者や読者の感想をまとめます。一部ネタバレがありますが、クリックしないと見れない仕様にしているので、安心して最後までご覧ください。
奥田英朗の小説『リバー』とは
書名 | リバー |
作者 | 奥田英朗 |
出版社 | 集英社 |
発売日 | 2022年9月26日 |
ページ数 | 656ページ |
今回紹介する小説『リバー』は、奥田英朗さんの最新作(2022年11月時点)。これまでも『罪の轍』や『オリンピックの身代金』など長編の骨太作品を多く生み出してきた作者ですが、今作は過去の作品を超える最高傑作と呼び声が高い作品となっています。
『リバー』はある架空の事件を題材にした犯罪小説。過去の未解決事件と同様の手口と思われる殺人事件が発生し、刑事をはじめ、元刑事、新聞記者、遺族などが事件の真相を探っていく内容です。
様々な人物の視点で語られることで、読み応えのある群像劇が展開されています。物語の中盤で犯人の予想はある程度つくのですが、それでもラストには一種の種明かしもあります。ただミステリーとして読むより、人間の心理を知る小説として読んだ方が満足感が高いでしょう。
※『リバー』は以下に当てはまる人におすすめ!
・ミステリーというよりは人間物語に注目した群像小説を読みたい人
・読んで達成感のある小説を読みたい人
・直木賞作家・奥田英朗さんの作品が好きな人
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3分で分かる『リバー』のあらすじ【※ネタバレなし※】
渡良瀬川の河川敷において、続けて二人の女性が殺害された。どちらも十年前に起きた殺人事件と同様の手口であることが確認され、騒然となる。事件現場となった群馬県、栃木県それぞれの刑事たちは共同捜査で犯人を探す。犯人は同じ人物なのか、それとも模倣犯なのか…。
物語は刑事、新聞記者、遺族、元刑事、容疑者の恋人…と、多くの人物から語られていく。
刑事の斎藤一馬は、周辺の聞き込みや防犯カメラの解析などを通じて、事件の真相を探る。新聞記者の千野今日子は、事件関係者と接触するなどして情報を集めていく。十年前の事件の遺族である松岡芳邦は、亡くなった娘の無念を晴らすために執念を燃やす。十年前に事件を担当した元刑事の滝本誠司は、当時の容疑者である池田と対峙する。
それぞれの想いが交錯する中、徐々に事件の真相が明らかになっていく…。
『リバー』の主な登場人物まとめ
小説『リバー』にはかなり多くの登場人物たちが出てきます。その中でも主要となる人物をまとめました。太字にしている六名が、主な語りで出てくる人物です。
【警察】
・斎藤一馬:捜査一課三係の刑事。34歳
・伊藤:桐生南署刑事一課の若い巡査部長
・野島昌弘:足利北署刑事一課の巡査部長。30歳
【新聞記者】
・千野今日子:中央新聞記者
・星野:広報官
・小坂:支局デスク。警察担当のキャップ
【容疑者】
・池田清:十年前の渡良瀬川連続殺人事件の容疑者
・刈谷文彦:ゼネラル重機に勤める期間工。32歳
・平塚健太郎:県会議員の息子。31歳、無職
【事件関係者】
・松岡芳邦:十年前の事件の遺族。写真館を営む
・滝本誠司:元刑事。十年前の事件を担当
・吉田明菜:スナック「リオ」のママ
・篠田:犯罪心理学の学者。40歳
・大山明美:スナック「アケミ」ママ。池田の彼女
『リバー』のネタバレ解説&考察まとめ
ここからは『リバー』の魅力を深掘りするために、作品の内容や魅力を考察していきます。一部ネタバレを含みますが、重要な箇所はクリックして始めて読めるようにしているので、最後まで読んだ方だけ見るようにしてください。
緊張感があり、最後まで飽きずに読ませる力が凄い!
『リバー』は本屋さんで本が並んでいるところを見ると一際目立つほど、分厚い超大作です。656ページもありますが、読み進めていくとあっという間に最後まで飽きずに読ませてくれます。さすが直木賞作家と言いたくなるくらい、奥田英朗さんの筆力が感じられます。
作者の奥田英朗さんは、小説の中でいくつか工夫をしているとインタビューで語っています。
下の名前で書いているのは、その人物の視点で書いているときですね。群馬県警の若手刑事で斎藤一馬という人物が出てくるけど、「斎藤一馬」と登場時に書いて、斎藤一馬の視点で書くときは、「一馬は」と書く。ほかの人の視点で書くときに出てきたら「斎藤は」にする。原則としてはそうですね。例外もあるけど。
引用:『リバー』刊行記念インタビュー | 集英社 文芸ステーション
多くの登場人物が出てくるわりに、混乱せずに読み進められるのは、こういった工夫があるからなんですね。他にもディテールや設定を細かく読者に分かりやすいように説明してくれるので、読者は安心して作品世界に入り込むことができると感じました。
同一犯?模倣犯?ラストに明かされる種明かしがおもしろい!
『リバー』では犯人の存在が物語途中から明かされますが、それでもどの容疑者がどの犯罪にかかわっているのかまでは見えてきません。そういった部分は謎として、ラストまで残しています。結末部分でそれを一気に明かすので、ミステリーとしての醍醐味も感じられました。
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事件の内容をおさらいすると、
◯十年前の連続殺人事件
・最初の殺人事件の犯人は、池田
・二人目の殺人事件の犯人は、模倣犯の刈谷
◯現代の連続殺人事件
・三人の事件とも、犯人は刈谷
・三人目の殺人の際は、興味を示した平塚健太郎もその場にいた
十年前の連続殺事件で池田は疑われつつも、アリバイがあると罪を追及されなかったのは、二人目の殺人事件の時点で刈谷が模倣犯であったからでした。刈谷は行きつけのスナックで新聞記者から犯行の内容を盗み聞きしていたのです。
このトリックを知ると、帯の「同一犯か?模倣犯か?」という記述に重大な意味があったと分かりますね。謎解き小説としても十分に楽しめる仕掛けが用意されていました。
動機を敢えて直接的には書かない勇気が素晴らしい!
『リバー』では犯人の動機が直接的には描かれていません。大抵のミステリー小説だと、動機をしっかり書くことで、犯人の犯罪心理をさらけ出す手法を取りがちですが、今回の場合は読者の想像に委ねているところが大きいです。
もしかしたら読者の中には「動機が十分に描けてない」、「その後が気になる」と考える人もいるかもしれません。しかしその点については、フリーライターの高橋ユキさんのレビューがとても参考になったので、一部引用します。
私は普段、刑事裁判を取材して記事を書いており、事件を起こした当人に取材を行うこともある。
(中略)
だが実際には、私のような普通の人間が理解できるような、腑に落ちる答えが都合よく得られるわけではない。
(中略)
取材では、分からないことが分からないまま終わることがある。彼の衝動、快楽は、やはり表情や仕草、言葉から想像することしかできないままだ。
引用:リバー | 集英社 文芸ステーション
こういった前置きをした上で、動機を敢えて詳しく書かない『リバー』のことをこう評しました。
人間には共有したくない感情、見せたくない顔がある。作者はそれを巧みに
「描かない」うえで、ディテールを積み上げる。架空の世界を描いた小説に、強烈なリアルがある。
引用:リバー | 集英社 文芸ステーション
皆さんも登場人物たちの心情を想像しながら、ぜひ読んでみてください。
『リバー』を読んでみた感想
作品の考察をしてきましたが、ここで改めて筆者の感想を述べます。また読者の方々がSNSやレビューサイトに投稿した感想も合わせて紹介します。まだ作品を読んでいない方は、ぜひ参考にしてみてください。
【筆者の感想】重苦しい展開の中に少し笑える要素もあり
奥田英朗さんの小説は直木賞の候補作となった『イン・ザ・プール』で知り、その後直木賞を受賞した『空中ブランコ』を含む、「ドクター伊良部」シリーズが軽いタッチでおもしろく読めてお気に入りなんです。
対して、今回の『リバー』などは重厚感のある群像劇でずっしりきます。しかしこの作品も細かい部分を読んでいくと、登場人物たちが軽くツッコミをいれる瞬間など、笑える要素も多々あり、そのへんが苦痛を感じずに読み進められる理由なのかなと感じます。
作中にいろんな人物が登場しますが、気になったのは犯罪心理学者の篠田。多重人格の容疑者とやりとりする会話の内容がおもしろく、もっと読みたくなりました。飄々としている人物像は、ドクター伊良部と共通しているのかもしれません。また篠田が登場してくる小説を読みたいなと思いました。
【みんなの感想や評価】リアルで読み応えがあった!
続いて、読者の感想をまとめました。
リバー読み終わりました📘
ド真ん中の警察小説! 犯人を憎む人々が、死に物狂いで犯人を追う描写が強烈でした。取り急ぎ、文庫本との比較画像をお送りしますね。
やっぱりデカいっ#リバー #奥田英朗 #読了 pic.twitter.com/FNoyBAPaTj— 秋@ミステリー📚読書垢 (@autumn522aki) November 13, 2022
読みながら、犯人はコイツなんだろうなぁと判りつつ読み進む。
その容疑者と付き合うようになったスナックのママなど、
色々な人物が事件に関わっていく模様をリアルに描ききった傑作です。
前作の「罪の轍」も素晴らしかったけど、それ以上かも知れない。
引用:Amazon
リバー/奥田英朗 #読了
600頁超えの大作!率直に面白かった。続きが早く読みたいのに重たすぎて通勤に持っていけないのが難点。両県警やマスコミ被害者家族など事件に関与する人々の群像劇がメインで素晴らしいのだがラストが少し駆け足気味なのが残念。その後の世界線も是非読んで見たかった pic.twitter.com/t7irE2TCYQ
— まいく・わぞーすきー (@panyori_hakumai) November 10, 2022
読み始める前は「長そうだな」と思っていたものの、ラストは事件収束への描写に疾走感があり、読後感は「あっという間だった」とさえ感じますよね。
まとめ:『リバー』は読後に達成感がある群像劇だった
いかがでしたか?『リバー』の特徴を以下にまとめました。
・直木賞作家・奥田英朗の最新作
・刑事、マスコミ、遺族、容疑者の恋人などの視点から描かれる群像劇
・読後に達成感を覚える、読み応えのある作品
以上です。長編ですが、飽きずに最後まで読める作品なので、ぜひチェックしてみてください!
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コメント
刈谷が盗み聞きをしていたのは刑事からではなく新聞記者です。
些細なことですが訂正まで…
本編498~499ページです。
コメント&ご指摘ありがとうございます。
たしかにそうですね。内容、修正いたしました。
今後ともぜひ当サイトをよろしくお願いいたします。