第167回直木賞の候補作になった「絞め殺しの樹」(著:河崎秋子)。今回はこの小説のあらすじや感想を紹介します。さらにタイトルの意味や、ラストにおける展開などを考察。ネタバレ部分は隠しているので、安心して最後までご覧ください。
河崎秋子の小説「絞め殺しの樹」とは
書名 | 絞め殺しの樹 |
作者 | 河崎秋子(かわさきあきこ) |
出版社 | 小学館 |
発売日 | 2021年12月1日 |
ページ数 | 432ページ |
今回紹介する「絞め殺しの樹」は、第167回直木賞候補となった話題作。北海道で生まれた著者・河崎秋子さんによる小説で、今作も北海道の根室が主な小説の舞台となっています。
「絞め殺しの樹」は親の顔を知らない少女・ミサエが、親戚の屯田兵の家へと引き取られるところから物語は始まります。散々こき使われ、生きる選択肢を選べないミサエにどんどん不幸が降り積もっていく話です。
かなり息苦しい展開で、精神的な負担になりそうな小説です。最後には一つの希望が描かれますが、それまでの話が長くて中盤は特に読むのが辛くなるでしょう。精神的に余裕がある時に読むのをおすすめします。
※「絞め殺しの樹」は以下に当てはまる人におすすめ!
・搾取される人間の苦悩を知りたい人
・意地悪な人間の人物像に興味がある人
・直木賞候補となった話題の作品を知りたい人
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3分で分かる「絞め殺しの樹」のあらすじ【※ネタバレなし※】
【第一部】
幼い頃に母親を亡くし、父親の存在は知らずに育ったミサエは、親戚の吉岡家で引き取られることになった。吉岡家は屯田兵として栄えた家であり、そこでミサエは朝から晩まで働かされる。
そんな折、薬屋の小山田が現れ、彼のおかげでミサエは学校に行かせてもらえるようになった。やがて保健婦として働き、結婚・出産に至ったミサエ。しかし生きる選択肢を選べないミサエには、様々な不幸が押し寄せる…。
【第二部】
ミサエが産んだ男の子・雄介は、吉岡家に養子を出される。実の母のミサエから何もされてない、と思う雄介だが、生きていく中でミサエの過去を知っていく。実の母を苦しめた人物と向き合い、雄介はどのようにして生きる決断をしていくのか…。
「絞め殺しの樹」のネタバレ解説&考察まとめ
ここからはこの小説の魅力をさらに深掘りするために、タイトルの意味や特徴、ラストの展開などをまとめました。一部ネタバレとなる箇所は隠しています。
タイトルの「絞め殺しの樹」の意味は、菩提樹のこと
タイトルの「絞め殺しの樹」は、菩提樹のことを指しています。菩提樹には絡みついて栄養を奪いながら、芯にある木を締め付ける性質があります。
物語の中盤でミサエの人となりを木に例えて話している箇所があります。
人は、木みたいにね、すごく優しい強い人がね、奇跡的にいたりするの。
(中略)
そういう人ほど他の人によりかかられ、重荷を背負わされ、泣くことも歩みを止めることもできなくなる。あなたのお母さんも、そんな子だった。
引用:「絞め殺しの樹」333ページより
ミサエの生涯は様々なところから栄養を吸い取られて、人生を消耗していたのでした。
意地悪な登場人物ばかり!中でも特に「ヤバイ奴」が小山田俊之
ミサエを苦しめる、周囲の人物は意地が悪い人物ばかりです。吉岡家にいる、大婆様は誰にでも厳しく筋が通っているのですが、当主の光太郎とその妻・タカ乃はネチネチと小言を言ってくる存在です。またミサエの夫となる木田浩司も自己中心的な人柄がよく表れています。
タカ乃や木田浩司のような存在は、他の作品でもよく登場する典型的な意地の悪いキャラクターです。しかしこの小説に出てくる小山田俊之は、その中でも異質の存在。ミサエがお世話になった薬屋・小山田の息子なのですが、親も手を焼いている子どもなのです。
小山田俊之には歪んだ正義感があり、彼の影響によりミサエにとって最悪な展開が待っています。さらに俊之は第二部の雄介の章でも、重要な人物として登場してきます。雄介は俊之に対してどう接していくのでしょうか。次の章でラストの展開についてまとめていきましょう。
息苦しい展開も、ラストに訪れる希望とは?
第一部ではずっと辛い展開が続き、終盤に少し光が差しますが、それでも重苦しい余韻が残ります。そして第二部。ミサエから産まれ、その後吉岡家の養子へと渡った雄介が成長する物語で、最後に希望が訪れます。
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雄介は小山田俊之のせいでミサエの娘が自殺へと至ったこと。さらにはその際に俊之が笑ってせいせいとしていたことを知り、激しい憤りを覚えます。そしてこう放つのです。
大丈夫、心配するな。俺は、あなたにちゃんと嫌われてやるから
引用:「絞め殺しの樹」420ページより
この発言をした後に、雄介の気持ちは固まります。
いずれ全てが枯れ果てる時が来るだとしても、俺は、絞め殺しの樹だけが残された場所で、生きる。その理由を、ようやく固められた気がした。
引用:「絞め殺しの樹」421ページより
そうして、雄介は育ての母であるハナに対して、逃げるように助言します。その言葉を受けてか、ハナは失踪。雄介は父に対して、自分はちゃんと地元に帰ってきて、小山田に負けないくらいの牧場を作ることを宣言します。それが自分に与えられた境遇で、精一杯生きると判断したのでしょう。最後に、雄介は以下のような境地に至ります。
絡み合い、枯らし合い、それでも生きる人たちを、自分も含めて哀れだと思った。我々は哀れで正しい。根を下ろした場所で、定められたような生き方をして、枯れていく。それでいい。産まれたからには仕方ない。死にゆくからには仕方ない。
引用:「絞め殺しの樹」428ページより
選択肢がなく仕方なく生きてきたミサエが生んだ、雄介がこのように思うのはとても真っ当であり、ミサエの無念がどこか報われた気がして、良い結末になっていたと思います。
「絞め殺しの樹」を読んでみた感想
ここからは「絞め殺しの樹」を読んだ上での筆者の感想と、読者の評価やレビューをまとめます。
【筆者の感想】正直、読み進めるのがとても辛い小説でした
まるで終わらない悪夢をずっと見ているような、不幸の連続で途中で読むのを辞めたくなるくらい、辛くなりました。途中からは出てくる人物や事柄が、あぁこれも悪い方向に流れていきそうだなという予感をもとに読みました。それがいくらか覚悟となって読めたため、なんとか耐えられたという感じでした。
この小説を面白いと思える人は、性格が悪いんじゃないかと思ってしまうほど。ただし後半は一種の希望が描かれており、ラストまで読むと結果「読んで良かった」と思えました。
ただし冒頭でも紹介した通り、これはメンタルが安定しているときに読むのがよいでしょうね。なかなか周囲の友達に気軽におすすめしにくい小説だなと感じました。
【みんなの感想や評価】この物語はどこへ進むのか…
絞め殺しの樹
今は『何』が『何』を絞め殺しているのか常に想像しながら読んでいたのですが、それがわかるたびに面白く、変化を楽しめました。また第一章の主人公ミサエが放った、「自分の不幸に寄りかかり、そこから養分を得て生きていたのは、自分自身だ」という一言は特に刺さりました‥。#読了 pic.twitter.com/xDE3fag0qN— わりばし (@odysseia1123) July 1, 2022
あらゆる方向から不幸が連鎖していきます。
深くて切ない物語でした。辛い人生を歩み続けたミサエ。物語はミサエからミサエの息子、雄介に引き継がれる。雄介の強さがせめてもの救いか。
引用:Amazon
第二部では救いが描かれていますね。
「絞め殺しの樹」は直木賞を受賞できる?ズバリ大予想!
「絞め殺しの樹」は第167回直木賞の候補作に選ばれています。この記事を書いている段階ではまだ直木賞の発表前なので、ここではこの作品が直木賞を受賞できるかどうか、ズバリ予想してみましょう。
重苦しい展開で、読者を引き込む力をとても感じました。出てくる人物はどこか類型的な存在が多いのですが、その中で小山田俊之が他にはない人物造形で存在感がありました。二部の後半でも彼の憎たらしさが出てきて、この点はとても印象的でした。
最終的には好みの問題になってしまいますが、作品全体がとても暗いのでもう少し明るい作品が直木賞にはふさわしいのかなと感じます。特に今はコロナ禍で混迷した時代なので、もう少し希望を与えるような小説が評価された方が意義があるのかもしれません。しかし他の作品と比べてみて、作品の強度でいうなら「絞め殺しの樹」が頭ひとつ抜けていました。よって、この作品が大本命だと思います。
⇒受賞予想:◎(大本命)
まとめ:「絞め殺しの樹」は不幸の連続が重苦しい雰囲気の小説だった
いかがでしたか?「絞め殺しの樹」の特徴を以下にまとめました。
・搾取される人間の姿をとことん描き切った作品
・前半8割は重苦しい展開で、後半2割で希望が描かれる
・第167回直木賞の候補作(受賞予想は◎:大本命)
以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!
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