筋トレ好きじゃなくてもハマる小説「我が友、スミス」(著:石田夏穂)。今回はこの小説のあらすじ紹介や魅力をネタバレ解説いたします。筆者の感想や読者のレビューをまとめるとともに、芥川賞の受賞予想も併せて行います。最後まで読んでみてください。
石田夏穂の小説「我が友、スミス」とは
書名 | 我が友、スミス |
作者 | 石田夏穂 |
出版社 | 集英社 |
発売日 | 2022年1月19日 |
ページ数 | 144ページ |
すばる文学賞の佳作を受賞し、そこから第166回芥川賞の候補作にまで選出された小説が今回紹介する「我が友、スミス」。初出は「すばる2021年11月号」で、2022年1月19日には書籍化されました。
小説のテーマは筋トレ。ボディビル大会を目指すことになった会社員の女性が、女性らしさと向き合いながら日々を送る話です。筋トレ好きな方はもちろん、そうじゃない方も最後まで飽きることなく読める内容になっています。
※「我が友、スミス」は以下に当てはまる人におすすめ!
・芥川賞候補になった話題作を読みたい人
・筋トレやボディビルダーに興味がある人
・ジェンダーの問題に関心がある人
3分で分かる「我が友、スミス」のあらすじ【※ネタバレなし】
私(U野)がジムで筋トレをしていたところO島から声をかけられ、私はボディビル大会に出ることを決める。そこから始まった本格的なトレーニングや食事管理の日々。日に日に変わっていく中で、職場からは彼氏ができたのかと言われ、母親からは「ムキムキにならないでよ」と忠告される。女性らしさとは何かを考えながら、迎えた大会当日。ある心境の変化が生まれた私は、ステージ上で思わぬ行動に出る…。
「我が友、スミス」のネタバレ解説
「我が友、スミス」の魅力をもと掘り下げるために、一部ネタバレを含みながら作品を解説していきます。ただし重要なネタバレ部分は隠していますので、一度最後まで読んだ方だけクリックして中身を読んでください。
徹底的な筋トレや食事管理の知識がついておもしろい
「我が友、スミス」のタイトルに出てくる「スミス」とは、筋トレマシーンの一つであるスミス・マシンのこと。この小説は筋トレに特化した作品で、読むだけでトレーニングについて詳しくなれます。
とはいえ、筋トレを普段しない方でも楽しく読めるのが特徴。一つ一つ丁寧な説明があり、筋トレをする際にどう考えいるか、どこの筋肉の付き方が美しく見えるのか、など、ただ筋肉をつけるのではなく、奥深いものだなと感じさせられます。
個人的には、特にトレーニー(トレーニングを行う人)が哲学的になりやすいというあたりに説得力がありました。格言めいたものを好きになりやすい、というのは身近で筋トレ好きな人がいたら「あの人もそうだな」と共感しやすいのではないでしょうか。
女性らしさとは?付きまとうジェンダーの問題
「我が友、スミス」はジェンダーの問題をうまく絡めた小説です。女性のボディ・ビル大会は美しさを競うものであり、主人公は同時に「女らしさとは何か?」を考えていきます。ネイルをしたり、ポージングのレッスンをしたり、してこれまで考えてこなかった女性としてのアピールについて向き合うようになるのです。
また、主人公の周囲の人間関係にジェンダーの問題が浮かび上がります。会社の同僚からは「彼氏でもできたの?」とそわそわした空気感があり、主人公は敏感にそれを感じ取ります。また母親からは筋肉をつけてムキムキになるのはみっともないと言われてしまいます。
作者の石田夏穂さんはジェンダーにもともと関心があったとインタビューで答えています。
小説を書き始めて以来、私の書くものは日常の違和感がテーマになることが多いのですが、今三十歳の自分が感じる一番の違和感は、やはりジェンダーに関することが多いように思います。そのため、今後書くものもジェンダーを意識させるかもしれません。
引用:集英社文芸ステーション
「我が友、スミス」で描かれたジェンダーの問題は、最後の主人公がとったある行動に行き着きます。こちらは次の章で詳しく話しましょう。
ラストに私がとった行動とは?心境の変化に迫る
ボディビル大会の当日。主人公の私(U野)は思わぬ行動に出ます。こちらはネタバレとなるので、一度作品を読んだ方だけチェックしてみましょう。
ネタバレしていいからさらに詳しい解説を知りたい方はこちらをクリック!
私がステージ上でとった行動は、以下のように記述されている。
スタッフが合図すると、先頭の選手が歩き出した。同時に、私は足首をぶんぶん振り回し、ハイヒールを脇へ脱ぎ捨てると、裸足になり、それに続いた。歩きながら、ピアスも外した。
引用:「我が友、スミス」本文より
ハイヒールにしても、ピアスにしても、女性らしさを演出する上での重要なアイテム。しかしそれを外したのは、女性らしい女性になる自分に抵抗があったのでしょう。その証拠に私はステージに登場する直前に以下のように考えています。
私に残ったのは、シンプルであり、そのため具体性に欠け、それでいて切実っぽい一つの望みだった。
曰く、ああ、私は、別の生き物になりたい。
引用:「我が友、スミス」本文より
上記は「女性は大変ですね」と言われたことを思い出し、考えてたどり着いた結論です。しかし今の自分は別の生き物になりたいと思ったのにもかかわらず、女性らしい女性を目指そうとしている。その葛藤の末に生まれた行動が、ステージ上での振る舞いにつながったのではないでしょうか。
「我が友、スミス」を読んでみた感想
ここからは「我が友、スミス」を読んだ上での感想を綴ります。またこの記事を書いているのが、芥川賞の受賞発表前ということで、果たしてこの作品が受賞するかどうかの受賞予想も併せて行います。
大会が始まるまでのトレーニングの日々がおもしろい
ボディビル大会というと、ただ体を鍛えておけばいいと安直に考えていた部分があったのですが、いろいろと準備する項目があるという点でまず驚きました。筋トレにそこまで詳しくなくても分かりやすいように書いてくれているので、最後まで楽しく読めます。
食事制限をしている人ってどういう心理状況なのだろうと不思議に思っていたので、その点も知れて良かったですね。減量に終止符が打たれ、久々に炭水化物を摂取するシーンでは、読んでいるこちらまで食べ物のおいしさが感じられました。
石田さん独特の文体で気にいったのが、文末に「っ」がつくこと。「頑張ってねっ」や「自信持ちなっ」など励ましている際に使われていることが多かったのですが、ストイックな練習で重苦しい雰囲気になりそうなところを、うまく中和しているなという印象でした。
「我が友、スミス」は芥川賞を受賞できる?予想してみた
「我が友、スミス」は芥川賞を受賞できるのか、予想してみます。筋トレや食事制限をガッツリ書いている小説は希少価値があり、最後まで読ませる力には一定の評価があるでしょう。
ジェンダーの問題を絡めているのも、現代らしい小説と言えます。しかし「ムキムキな女性にならないで」といった母親の主張や、職場での不当な処遇は昔からあるもので、あまり目新しいものではありません。
また最後の展開は予測できた流れで、やや物足りない印象でした。小説の中盤でトレーニーは哲学的になりやすいとあったので、独自の哲学を極めていった先にあるものを描いた作品を読んでみたいなとも思いました。
以上のことから今回の芥川賞受賞は難しいのではないか、というのが正直な感想です。
「我が友、スミス」読者の感想やレビューまとめ
最後に「我が友、スミス」を読んだ方々の感想やレビューをまとめました。
第166回芥川賞候補作(4/5)
石田夏穂「我が友、スミス」
一文一文に込められる過剰な修飾語から、連想したのは森見登美彦さん。執拗な解説ぶりに、読みながら吹き出すこともしばしばでした。題材も文体も独特で、選考委員がどう読むのか楽しみです。#芥川賞候補#読了— 東京小説読書会@第166回芥川賞・直木賞候補作読み比べ (@honnokai) January 16, 2022
森見登美彦さんのファンなら共感できるかもしれませんね。
「我が友、スミス」を今読んでいるんやけど、想像以上に面白い。筋トレに1ミリどころか1ナノも興味がなかったのに引き込まれる。
— 日々の栞@読書垢 (@shiori_everyday) January 7, 2022
そう、筋トレを好きになるかどうかは別として、作品にはぐいぐい引き込まれます。
石田夏穂「我が友、スミス」(in「すばる」2021年11月号)#読了
今期の芥川賞候補作。20代の女性が筋トレにハマり、ボディビルの大会に出場する話。
筋肉だけでなく美容に気をつけなくてはならない女性性の矛盾も面白いが、単純にボディビルの世界が興味深かった。大会本番のシーンでは泣いてしまった。 pic.twitter.com/WfwOmxG3wF— つかっちゃん読書垢@純文学ユーチューバー (@book_tsukatsu) January 5, 2022
大会本番のシーンに臨場感があります。
まとめ:「我が友、スミス」は震災の記憶にまつわる肖像画のような小説だった!
いかがでしたか?「我が友、スミス」の特徴を以下にまとめました。
・すばる文学賞佳作にして芥川賞候補作
・筋トレに興味がなくても楽しめる小説
・ジェンダーについて考えるきっかけになる作品
以上です。書籍化されたので、ぜひそちらをチェックしてみてください!
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