第167回芥川賞の候補作となった「ギフテッド」(著:鈴木涼美)は、夜の歓楽街を生きる人を鮮やかに描いた快作です!今回は今作のあらすじを紹介した上で、筆者なりのネタバレ解説や考察、そして感想を綴っていきます。芥川賞を受賞できるかどうかの予想もしていますので、最後まで読んでみてください。
鈴木涼美の小説「ギフテッド」とは
書名 | ギフテッド |
作者 | 鈴木涼美 |
出版社 | 文藝春秋 |
発売日 | 2022年7月12日 |
ページ数 | 120ページ |
「ギフテッド」は鈴木涼美さんが、文學界2022年6月号に寄稿した短編小説です。作家の鈴木涼美さんは、慶應大学在学中にAV女優としてデビューした経歴が衝撃的。大学卒業後には日経新聞の記者として働き、その後は作家として活動しています。
自身の経験を踏まえて書いた『「AV女優」の社会学』や『体を売ったらサヨウナラ』はヒット作に。その肩書きがよく話題になり、各メディアにも多数出演中です。
文學界6月号に「ギフテッド」書きました。母と娘の読書にぜひ。母の日ギフトにも。 pic.twitter.com/s2CeEIK8zc
— 鈴木涼美 (@Suzumixxx) May 4, 2022
今回紹介する「ギフテッド」は、自身の経験を踏まえて書かれた夜の住人たちにスポットをあてた小説で、歌舞伎町と思われる夜の世界を舞台に描かれています。本作は、第167回芥川賞の候補作に選ばれました。
※「ギフテッド」は以下に当てはまる人におすすめ!
・性産業で生きる夜の街の住人の話を読みたい人
・メディアで話題の鈴木涼美さんの小説を読みたい人
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3分で分かる「ギフテッド」のあらすじ【※ネタバレなし※】
私は17歳で家を離れて25歳の現在、夜の歓楽街でホステスとして働いている。ある日、私のもとへ重病の母が訪ねてきた。母はかつて詩集を何冊か発表するも、大成しなかった。死に瀕した母は、最後に一編の詩を書きたいと言って私の部屋へやってきたのだ。
そんな私の体にはある秘密があった。刺青の下の皮膚には変色した火傷の跡があるのだ。かつて母が私の肌を焼いたのだった。
母が倒れて病室に運ばれ、私は毎日通院することになった。私はこの夏に自殺した友人のエリを思い出していた。娼婦のエリは死にたいと口癖のように言っていたが、ある日本当に死んでしまった。私はエリがかつて相談役と呼んでいたホストに会いに行くことにした。
脳裏をよぎる友人の死、病室の母を訪ねてきた一人の男、そして確実に死に近づいていく母。死に瀕した母が、歓楽街に生きる私に残そうとしたものは何だったのか…。
「ギフテッド」のネタバレ解説&考察まとめ
夜の歓楽街に生きる人々の群像を見事に描いた「ギフテッド」ですが、純文学作品ゆえにやや意味が分かりづらいと感じた人もいるのではないでしょうか。ここからは作品をさらに深掘りするために、考察した内容を記していきます。
ただし作者の鈴木涼美さんは、「ギフテッド」は読み手によって様々な想像を膨らませて欲しいと語っています。よってここでの考察内容は、あくまで本記事の筆者の一つの意見として参考程度にしてください。
ネタバレしても作品の魅力が損なわれることはあまり無いですが、一応ネタバレ部分は隠しています。一度作品を読んだ方だけクリックして中身をチェックしてみてください。
タイトルの「ギフテッド」の意味とは?私が母から受け取ったものを象徴
「ギフテッド」を検索すると、Wikipediaに以下のように出ます。
ギフテッド(英: gifted)とは、一般的な人々と比較して先天的に顕著に高い知性と精神性、共感的理解、洞察力、独創性、優れた記憶力を持つ人々を指す。知的才能保持者。
引用:Wikipedia
しかしこの小説では上記のような意味合いは不自然ですね。ここでは「gifted」という言葉は「gift」の過去分詞という意味で受け取った方が良いでしょう。つまり「ギフテッド」とは「受け取った状態」を指しており、今回の場合は母から受け取った私自身(自分の価値)を意味していると考えられます。
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ここで考えておきたいのは、母と私がどちらも歓楽街を生きていたということ。自分のカラダに商品価値がつく状況にどちらも存在していたのです。ここで物語の詳しいあらすじに触れておきましょう。
【詳しいあらすじ】
ある日、母の病室へ来客があった。その男は、母がかつて裸同然でクラブシンガーとして歌っていた頃に、何度も通っていたファンだった。私はその男から、かつての母が自分のカラダに商品価値がつくことを拒絶していたのだと、知らされる。
中学生の頃に母が突然、私の肘に煙草の吸い殻を押し当ててきた。さらに着ていたTシャツを燃やし、その際に皮膚を火傷した。その上からきれいに刺青を入れた私だが、カラダを売るには商品価値が無くなったと思っていた。
以上のあらすじをみて分かる通り、母と私のカラダの商品価値については対照的に描かれています。
・母:良い体つきをしていたが、自分のカラダに商品価値がつくことを拒絶している
・私:母が肌を焼いたせいで、自分のカラダに商品価値が無くなったと思っている
ここで重要なのは、なぜ母は私の肌を焼いたのかという問いです。それについては「ラストの場面で母が娘に残したかったメッセージとは」の章で詳しく話していきます。
外の世界と内の世界を繋げる「鍵」や「扉」が一つのモチーフに
「ギフテッド」を読んでいると、「鍵」や「扉」という言葉がよく登場していることに気づきます。特にこの二つが鳴らす音に主人公の「私」は敏感になっています。冒頭の部分を一部抜粋しましょう。
夜ごと、この二つの音を聞いて帰ってくる。その、扉の蝶番が軋んで鳴る音と、古いピンシリンダーキーの回転の途中で鳴る音の間隔が、長すぎても短すぎても安心感がない。
引用:ギフテッド 文學界6月号 | ちょい読み – 本の話
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「私」が自殺した友人・エリが生前仲良くしていたホストの部屋へ行った場面をみても、「扉」と「鍵」(特に、その二つがもたらす音)が象徴的に描かれています。
このことから「扉」と「鍵」は、外の世界と内なる世界を分け隔てる一つのアイテムとして機能していると思われます。ここで一つ頭に入れておきたいのが、「私」が生きる場所が混沌とした歓楽街であることです。歓楽街ではまともなことが通用しない街だという記述が多くあります。
・身内が死にかけている話は、よくある冗談だと受け取られる。
・職場を平気で飛ぶ人間が多い。
・200万を持ち歩く女は腐るほどいる。死にたいと言う女も同じくらいいる。
こんな歓楽街との境界を示すために、扉と鍵があるのでしょう。そして「扉」はラストの場面でも活きてきます。母が死ぬ前に残した最後の詩のタイトルが「ドア」だったのです。この点については、次章で詳しく述べていきます。
ラストの場面で母が娘に残したかったメッセージとは
ラストで母が私に残したかったものは何だったのでしょうか。
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母がなぜ娘の私の肌を焼いたのでしょうか。直接の答えは書かれていません。ここからは筆者の想像ですが、おそらく母親は怖かったのではないでしょうか。
歓楽街で生きた母は、自分のカラダに商品価値がつくことを拒絶していました。そんな母は素行が悪くなる娘の姿を見て、いずれ彼女も同じような人生を送ると悟ったのです。そこで娘の「私」のカラダの商品価値を無くして、同じような想いをさせたくなかったのだと思います。
母は死ぬ直前に「私」と会話して、以下の2つの言葉を残します。
わからないことを、わかっちゃダメだ
引用:「ギフテッド」本文より
わかることだけを、わかりなさい
引用:「ギフテッド」本文より
様々な欲望が飛び交う歓楽街において、分からないことを分かろうとするとどんどん疲弊していきます。そんな気苦労をさせたくないという母のメッセージが込められていると、筆者は感じました。
これは母が最後に残した詩「ドア」にも、同様の意味が見て取れます。
ーーもうすぐ夜がやってきます。
ーーいいですか?
(中略)
ーードアがばたりとしまりますよ。
ーードアがしまるとき、かいせつは いりません
ーーできれば、しずかにしまるといい。
引用:「ギフテッド」本文より
夜が来るとき、ドアの外側の世界は見ないようにした方が良いという意味ですね。
「ギフテッド」を読んでみた感想
ここからは「ギフテッド」を読んだ上での筆者の感想と、読者の感想や評価をまとめていきます。
【筆者の感想】作者の経験が活かされた、歓楽街で生きる人の姿に感心した
最近は紗倉まなさん、戸田真琴さんなどの現役のセクシー女優が文芸誌に小説を掲載しています。そんな中、元セクシー女優という肩書が話題として先行しそうな小説ですが、作者・鈴木涼美さんの経験を踏まえつつ、しっかりとした純文学作品に仕上がっていて感心させられました。
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重病の母は最後に詩を書きたいと言って「私」のもとを訪ねてきますが、結局書けずに死んでしまいます。その辺りがうまいなと感じましたね。「最後の一編を、」というとその詩が意味を持ちすぎてしまいそうですが、その前に母は詩を既に書いていたという着地が、作品に幅を与えていると思いました。全てを書きすぎないという、一つの手法がうまく機能しているのではないでしょうか。
またラストに主人公への希望が出てくる、読後感がよかったです。セックスをして生理がきたことで女性として生きる意味を再発見するシーンでは、村上龍さんが残した名言「自殺よりセックス」を思い出しました。
生と死、性、というテーマをうまく昇華し、鈴木涼美さんにしか書けない世界観を構築されていると感じました。
【みんなの感想や評価】母と娘の関係性を考えさせられた
続いては皆さんの感想を。文學界に掲載された時点での小説を読んだ方の投稿ばかりです。
ギフテッド*鈴木涼美
文學界6月号#読了母との物語を読むといつも凄くしんどい。母と娘って特殊な関係性だよね。女同士であるが故に多面的な部分まで感じとってしまう。でもわからなくて、寂しくて、怖い。
だけどこの話は読後救われたような気持ちになる。言葉に出来ない想いを静かに飲み込めた。— りみ@読書垢 (@motonekotatsu) June 16, 2022
鈴木涼美さんの『ギフテッド』を読んだ。
歓楽街での暮らしや病院への訪問。なんだか全体的に息苦しさを感じる作品だった。— コウ (@C0C82) June 19, 2022
文學界6月号掲載、鈴木涼美さんの「ギフテッド」を読んだ。
ある種の諦念が混ざっている暗いまなざしで、世界を冷静に見つめながらも耳を澄ましている娘に送る、母親からの救いの言葉が胸に響く。
物語に起伏はないけれど、じわりと染み込んでくる文章だった。語り手と文章の相性がいい。よかった。— ゆき (@snow_now_s) May 19, 2022
全体的に、母と娘の関係性に注視しながら読んだ方が多かったようですね。息苦しい展開ですが、最後に描かれる一種の救いに安心した、という感想が伝わってきます。
「ギフテッド」は芥川賞を受賞できる?ズバリ大予想!
この記事を書いている現時点では、まだ芥川賞の受賞作は発表されていません。ここでは、「ギフテッド」が芥川賞を受賞できそうかズバリ予想します。
歓楽街に生きる者たちが見えるところだけを見ようとする視点は、ある意味でメッセンジャーの視点から小さな世界を描いた砂川文次さんの「ブラックボックス 」(第166回芥川賞受賞作)を彷彿とさせる部分があります。この作品と比べると描写力は劣りますが、作者にしか書けない世界を正確に描こうとしている点は評価されるでしょう。
また母と娘の関係性を描いたという点では、これも第166回芥川賞で候補作となった「スクールガール」(著:九段理江)を連想させます。こちらは男性の芥川賞選考委員3名が推した実績があり、「ギフテッド」もおじさん受けしそうな雰囲気があります。
逆にいうと、女性の選考委員からどう評価されるか、というのが受賞できるかどうか決める要素になりそうです。
結果としては受賞の可能性も大いにあり得ますが、今回は他に良い作品があるので、相対的な評価で当落線ギリギリと言えます。最終的には、全候補作を読んだ上で予想しますが、現時点では△(大穴)評価です。
⇒受賞予想:△(大穴)
まとめ:「ギフテッド」は歓楽街に生きる人の姿を描く傑作だった
いかがでしたか?「ギフテッド」の特徴を以下にまとめました。
・異色の経歴を持つ作家による小説
・第167回芥川賞候補作
・夜の歓楽街に生きる人の姿を鮮やかな描写で表現している
・「鍵」や「扉」が一つのモチーフになっている
・死にゆく母と娘の関係性が美しい
以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!
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