3分で分かる『荒地の家族』のあらすじ&ネタバレ解説・感想まとめ【第168回芥川賞受賞作】

第168回芥川賞の受賞作に選ばれた佐藤厚志さんの「荒地の家族」。今回はこの小説のあらすじを紹介した上で、作品の魅力をネタバレありで考察・解説いたします。筆者の感想や読者の口コミ評価も紹介し、芥川賞受賞予想についても述べるので、ぜひ最後まで読んでみてください。

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【芥川賞受賞作】佐藤厚志の小説「荒地の家族」とは

書名 荒地の家族
作者 佐藤厚志
出版社 新潮社
発売日 2023年1月19日
ページ数 160ページ

「荒地の家族」は震災後の街が舞台の小説。植木屋を営む主人公が、震災により仕事道具を流され、その後妻の病死や後妻の流産などを経験しながら、辛い状況に立たされた友人などとともに生活を続けていく話です。

初出は『新潮 2022年12月号』。紹介文には「震災から十年過ぎねば書けなかった入魂の一撃」とあり、震災そのものというより、震災によって影響を受けた人々の生活にスポットをあてています。これまで世に出てきた震災小説とはまた違った味わいの作品です。

※「荒地の家族」は以下に当てはまる人におすすめ!
・東日本大震災にまつわる小説を読みたい人
・生と死について書かれた小説を読みたい人
・芥川賞を受賞した話題作を読みたい人

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3分で分かる「荒地の家族」のあらすじ【※ネタバレなし※】

植木屋を営む坂井祐治は独立して仕事が軌道に乗り出した直後に、東日本大震災に見舞われ、仕事道具やトラックを全て津波に流されてしまう。その後、妻が病気で亡くなり、再婚相手は流産した後に家を出ていった。祐治の同級生である明夫は中古車販売をしているが、どうも体がよくないようだ。死の気配が漂うこの土地で、祐治は震災後の生活を続けている…。

「荒地の家族」のネタバレ解説&考察まとめ

「荒地の家族」についてさらに作品の魅力を知るために、解説&考察をまとめました。少しだけネタバレを含みますが、それを知ったからといって作品を読む価値は落ちないので、安心してお読みください。

これまでにあまりなかった震災小説

東日本大震災が昨今の文学界に与えた影響は測り知れません。大津波が街を流し、多くの人の命を奪った大災害。日常が当たり前ではないと痛感させられた出来事でした。

これまで芥川賞の候補作になった作品も、東日本大震災をテーマに描かれた小説がいくつかありました。

・「想像ラジオ」いとうせいこう
・「影裏」沼田真佑
・「美しい顔」北条裕子
・「氷柱の声」くどうれいん

どれも傑作で、特に沼田真佑さんの「影裏」は第157回芥川賞を受賞し、その後映画化もされました。

「荒地の家族」も震災をテーマに扱った小説ですが、これまでの作品と少し違うのは震災そのものというより、震災が起きた後の日常生活を中心に物語を描いていることです。作中で死者は何人か登場するものの、震災そのもので亡くなった人はそこまで出てきません。

ただやはり震災をきっかけにして、死について見つめ直す作品ではあり、本作と震災は大きな関係性を持っています。こういった震災の扱い方が独特で、これまでにあまりなかった震災小説だと言えるでしょう。

生きている間の辛苦は本人と共有できるが、死は別だ。死だけは本人ではなく、側にいる人間が引き受け、近いほど強烈に感じ続ける。
引用:「荒地の家族」本文より

仙台市在住の作家が描くリアル

作者の佐藤厚志は仙台市在住。地元の書店に勤務しているそうです。Twitterではどこの書店に勤めているかまで明かされています。

新潮新人賞を受賞した「蛇沼」は宮城県の田園地帯が舞台。第34回三島賞候補となった「象の皮膚」でも東日本大震災が描かれています。

前章で例として出した、北条裕子さんの「美しい顔」は良作ながら現地を下調べせずに書いた点が低評価される節もありました。その点、佐藤さんは現地で生活する者ならではの鋭い観察眼で作品を構築しており、作品への信頼度が高まることでしょう。

「元」の生活はいつの頃か?作品の主題を読み解く

震災によって変わってしまった生活。しかし、それは本当に震災以前、震災以後とでがらりと線引きできるものなのでしょうか。本文には以下のように書かれています。

元の生活に戻りたいと人が言う時の「元」とはいつの時点か、と祐治は思う。十年前か。二十年前か。一人ひとりの「元」はそれぞれ時代も場所も違い、一番平穏だった感情を取り戻したいと願う。
引用:「荒地の家族」本文より

この文章が出てくる直前に描かれた出来事も、震災の出来事ではありません。祐治の幼少時に作業員が事故で亡くなった出来事が描かれていました。震災は人々に大きな衝撃を与え、確かに多くのものを奪いましたが、我々は日常生活の中でも日々喪失しているものがあるのかもしれません。そういった不可逆な時の流れによって起こる因果を、この小説は痛切に投げかけています。

抵抗できぬものと共存する辛さを描く

祐治は震災以前に造園会社に勤めており、そこでパワハラを受けます。上司や先輩に抵抗できずに苦心するも、やっと独立して仕事が軌道に乗ってきたと思った最中に震災が起こり、津波で仕事道具を流されてしまうのです。

そこでまた祐治は、かつて勤めていた造園業の社長の世話になります。さらに何もかもを流してしまった海を憎む祐治ですが、気分転換に釣りをしたり、かつての同級生が海で密漁を行ったりと、やはり海なしでは生きられない日々を送ることになるのです。

このように、パワハラをしてきた社長、何もかもを奪った海と、祐治は共存していく他ありません。震災の日には津波から逃げきれたものの、日々の生活ではあの大波から決して逃げられない状況に追い込まれているのでしょう。

こういった無情が最後まで貫かれており、非常に苦しい気分を強いられる小説となっています。ただラストには生きる強さを感じさせるような、一種の光明が見えます。未読の方は、ぜひ最後まで読みきってみてください。

「荒地の家族」を読んでみた感想

ここからは「荒地の家族」を読んだ筆者の感想、及び読者のレビューをまとめます。

【筆者の感想】心を亡くして日々を過ごすしかないという喪失感

読んでいて救いがなかなかなく、苦しいなと思いながら最後まで読みました。特に友人の明夫の結末はあまりに虚しいものでした。ただ、これが震災が及ぼした影響であり、現実なのかもしれません。

小説の中で祐治は現実から目を逸らすかのように、オーバーワークします。「忙」という字は「心を亡くす」と書きますが、そうすることでしか日々が過ぎるのに耐えられないという雰囲気がありました。

中盤でタイヤが溝にハマったのを、通りすがり(?)の人に助けてもらうシーンが印象的でした。現実社会において窮地を救うのは、往々にして家族や古い友人ではなく、意外とあまり関係性のない他人なのかもしれない、とも思った次第です。

【みんなの感想や評価】震災を知る者は特にリアルに感じた

まとめ:「荒地の家族」は震災のその後の辛い現実を描いた小説だった

いかがでしたか?「荒地の家族」の特徴を以下にまとめました。

・第168回芥川賞受賞作
・仙台市在住の作家が震災を描いたリアルな小説
・震災そのものよりその後の辛い現実を描いた小説

以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!

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