第168回直木賞の受賞作となった『しろがねの葉』。今回はこの小説のあらすじを紹介した後に、タイトルの意味やラストの展開などを考察します。さらに筆者や読者の感想もまとめました。ネタバレ部分は読んだ人だけが読めるようにしています。
【直木賞受賞作】千早茜の小説『しろがねの葉』とは
書名 | しろがねの葉 |
作者 | 千早茜 |
出版社 | 新潮社 |
発売日 | 2022年9月29日 |
ページ数 | 320ページ |
『魚神』で第37回泉鏡花文学賞を受賞し、これまで『あとかた』と『男ともだち』で二度の直木賞候補となった作家・千早茜さん。そんな彼女が初めて書いた歴史小説が『しろがねの葉』です。
『しろがねの葉』は家族のもとを離れ、石見銀山に辿り着いた少女・ウメが主人公。伝説の山師に拾われたウメは、銀を掘る男たちとともに働こうとするも、男社会の宿命や時代の流れに翻弄される、といった物語です。
※『しろがねの葉』は以下に当てはまる人におすすめ!
・石見銀山について興味がある人
・女性が男社会で生き抜く話を読みたい人
・直木賞を受賞した話題作をチェックしたい人
↓↓『しろがねの葉』を購入したい人は以下から↓↓
3分で分かる『しろがねの葉』のあらすじ【※ネタバレなし※】
時は戦国末期。農村で盗みを働き囚われそうになる家族のもとを離れ、石見銀山へ辿り着いた少女・ウメ。天才山師の喜兵衛に拾われ、銀山の知識や生き抜く術を教えてもらう中で、自身も銀を掘る男たちと共に働きたいと願う。
しかし間歩と呼ばれる、銀が出る暗い穴に女が入るのは危険であった。やがて喜兵衛は生きる気力を無くしていき、ウメは男たちの欲望の被害に遭う。自分を育ててくれた山師・喜兵衛、幼馴染の銀掘・隼人、そしてもともと捨て子だった弟分の龍。三人の男たちとウメの運命は…。
『しろがねの葉』の主な登場人物まとめ
ここで『しろがねの葉』の主な登場人物をまとめました。
ウメ:本作の主人公。幼少時に家族のもとを離れ、石見銀山に辿り着く。
喜兵衛(きへえ):銀の気が視える天才山師。ウメの面倒をみる。
宗岡(むねおか):銀山六人衆の一人。毛利の家臣。
隼人(はやと):ウメの幼馴染となり成長していく少年。
ヨキ:喜兵衛の手下。吊り目の謎めいた男。
岩爺:仙ノ山で一番長寿の銀掘。
多助(たすけ):しばしば悪態をつく銀掘。
おとよ:多助の女房。多助から暴力をふるわれている。
安原伝兵衛(やすはらでんべえ):銀を求めて石見へ来た元侍の山師。
おくに:温泉津で神楽舞を踊っていた巫女。
菊:おくにの側で控えていた童。
坪内(つぼうち):石切り場にいた石工の棟梁。
龍(りゅう):喜兵衛が引き取った、温泉津にいた捨て子。
満作(まんさく):おとよの新しい夫。
幸:おとよの新しい子。
喜一(きいち):ウメの子。
夕鶴(ゆうづる)隼人に恋をしている女郎。
希(まれ)ウメの二人目の子。
満次(まんじ):ウメの三人目の子。
『しろがねの葉』のネタバレ解説&考察まとめ
『しろがねの葉』の魅力をさらに深掘りするために、ここからは多少のネタバレを含みつつ、考察した内容を書いていきます。話の内容が分からないように肝心な部分は隠していますので、一度作品を読んだ方だけチェックするようにしてください。
『しろがねの葉』のタイトルの意味とは?
タイトルにある「しろがねの葉」は、銀がたくさん埋まっている穴を見つけるための目印となる植物のこと。石見銀山といってもその全てに銀が眠っているわけでなく限られた場所にあるので、まずは山師と言われる者たちが銀を探り当てる必要があります。
ウメが山師の喜兵衛と出会ったシーンにおいても、ウメは「しろがねの葉」を所持しており、それがきっかけで銀山の男たちに迎え入れられるようになります。(ただし、その当時はウメは銀山について知識がなく、ただきれいな葉だと思って所持していただけ)
このしろがねの葉は、本の表紙にもイラストで描かれている植物です。全体的に暗闇が支配する世界の中で、しろがねの葉は強烈な光を測っており、銀山で生きる者たちの希望を示す象徴としても機能しているように思われます。
『しろがねの葉』は実話?基本はオリジナルのストーリー
『しろがねの葉』は戦国末期の石見銀山を舞台にした時代小説ですが、はたして実話なのでしょうか?これについては作者の千早茜さんがインタビューで言及しており、基本的な物語はオリジナルの創作だと語っています。
ただし物語の途中で「おくに」と呼ばれる人物が登場します。これは出雲阿国(いずものおくに)をモデルとした人物のようです。
ほとんどが創作でありながら、現地へと足を運んで自然の険しい場所で取材をしたことや、資料を読み込んだことを語っています。初めての時代小説とは思えないほど、ディテールまでしっかり描かれた力作で、感心させられました。
人はなぜ生きるのか?『しろがねの葉』のラストで描かれる主題とは
『しろがねの葉』の大きな主題は「人はなぜ生きるのか?」というところでしょう。銀山で銀を掘る男たちの寿命は短く、ほとんどの者が30歳を待たずに亡くなるそうです。そんな命短き男性を支える女性の視点で語られる物語に、なぜ生きるのか、というテーマを深く考えさせられます。以下、ラストの場面について少し言及します。
ネタバレしていいからラストの場面をさらに詳しく知りたい方はこちらをクリック!
夫の隼人が銀掘特有の病で苦しみながら亡くなり、残されたウメ。幼少時から弟分として慕ってきた捨て子の龍には同じ運命を歩んでほしくないと思い、海の方へ逃げろと促します。
しかし龍は銀山の山師に拾われ、そこで育ったことで、銀山で生涯を終えることを決意します。ラストの場面ではそんな龍も亡くなり、最後に再びウメだけが生き残るのです。ウメは薄れゆく記憶の中で、これまでの人生を振り返ります。暗く思われた人生にも輝く物があったと悟り、そうしてこの宿命の中生きていくしかないと思うのでした。
ラストまで読んで、どうして生きるのかを改めて考えてみるとよいでしょう。一人一人に違った答えが浮かぶと思いますが、作者自身もインタビューで、そのように思われることが本作を書いた意義だと語っていました。
『しろがねの葉』を読んでみた感想
ここからは『しろがねの葉』を読んだ上での筆者の感想と、読者の評価やレビューをまとめました。
【筆者の感想】官能的な場面が多くなる後半に作者の持ち味が光る
男社会に挑む構造の前半と、家族を持って女性として生きる後半とで大きく別れた印象でした。前半は「暗闇が玩具」だと思っていた幼少期のウメが、銀山の暗闇の中で活躍する様がたくましく、興味をひきました。
官能的な場面が多くなった後半は千早茜さんらしい作風というか、作家の持ち味が出ているなと思いました。特に遊女の夕鶴には存在感がありました。穴の中でウメと夕鶴が対峙する場面には緊張感があり、この場面が最も好きでした。
【みんなの感想や評価】男と女、支配する側とされる側の対比が素晴らしい
千早茜『しろがねの葉』読了。
戦国時代末期の銀山が舞台。
伝説の山師に拾われた少女ウメは、銀堀の仕事に憧れるようになるが…性差の壁、銀山で働く男を飲み込む闇に立ち向かうウメに目頭が熱くなりました。
「足掻きましょう、無為に思えても」#読書 #読了 pic.twitter.com/knteeQgfLs
— KOSUKE@読書垢 (@KOSUKE_books) January 8, 2023
間歩の暗闇と銀の輝き、男と女、支配する側とされる側、さまざまな対比を通じて、作者は時代を超越した人間存在の不条理と、そして生の尊さを訴えているように感じた。自分自身の中で、ウメは戦乱の世を強くしなやかに生き抜いた実在の人物として刻み込まれている。
引用:Amazon
生きることの大変さ、理不尽さ、無常さが銀山を通して描かれている。
銀山の情景、季節の移り変わり、心の機微などの描写が生々しく目に浮かび、物語に浸ることができた。
読後感は清々しい。
引用:Amazon
『しろがねの葉』千早 茜
男たちは命を賭して穴を穿つ。山に、私の躰の中に――。
「生」と「性」と「死」の繋がりと、
生きる中で男性が女性に求めるのはなにか、
女性が男性にしてあげられることはなんなのかを感じました。
やっぱり、千早さんの作品好きです!#読了 pic.twitter.com/I5WJ55ATn5— INAMI / 読書垢 (@INAMI1726) January 3, 2023
まとめ:『しろがねの葉』は石見銀山を舞台に性と死を描いた物語だった
いかがでしたか?『しろがねの葉』の特徴を以下にまとめました。
・石見銀山を舞台にした時代小説
・性と死を描いた物語
・第168回直木賞受賞作
以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!
↓↓『しろがねの葉』を購入したい人は以下から↓↓
コメント
[…] ⇒『しろがねの葉』のあらすじを詳しく読んでみる […]