第167回芥川賞の受賞作が2022年7月20日に発表されます。そこで今回は発表前に、今回の受賞作がどれになるかを大予想!候補になったのが全員女性ということでニュースとなった今回ですが、果たしてどなたの作品が受賞するのでしょうか?
そもそも芥川賞とはどんな文学賞?
芥川賞は日本文学振興会が主催する、純文学の新人に与えられる文学賞です。年に2回選考会が実施され、受賞作が発表されます。これまでに松本清張、石原慎太郎、村上龍、小川洋子、川上未映子、綿矢りさなどが同賞を受賞しています。
国内の文学賞としては大々的にニュースで扱われ、最も話題になりやすい文学賞だと言えます。これまでにもお笑い芸人の又吉直樹さんが芥川賞を受賞して、大きなニュースとなりました。また第164回芥川賞作品となった、宇佐見りんさんの「推し、燃ゆ」は2021年で最も売れた小説となりました。
最新回の第166回芥川賞は、砂川文次さんの「ブラックボックス 」が受賞しました。非正規雇用として将来に漠然と不安を抱えたまま働く主人公が、暴力沙汰を起こす話。非常に現代的なテーマを扱った点や、鋭い描写力が高く評価されました。
第167回芥川賞受賞予想:前評判の高い年森瑛「N/A」が大本命
第167回芥川賞の候補となったのは、以下の五作品です。(並びは作家名の順)
作品名 | 作家名 | 掲載誌 | 候補回数 |
家庭用安心坑夫 | 小砂川チト | 群像6月号 | 初 |
ギフテッド | 鈴木涼美 | 文學界6月号 | 初 |
おいしいごはんが食べられますように | 高瀬隼子 | 群像1月号 | 2回目 |
N/A | 年森瑛 | 文學界5月号 | 初 |
あくてえ | 山下紘加 | 文藝夏号 | 初 |
今回は候補になった作家が全員女性なのは、芥川賞創設以来初めての出来事です。高瀬隼子さんが2回目の候補となった以外は、全員が初候補というフレッシュな顔触れになりました。
今回候補となった中で、最も知名度が高いのは鈴木涼美さんでしょう。慶應義塾大学在学中にAV女優として活動し、その後各メディアへの出演やエッセイ本の執筆など既に大きく活躍している人物です。今回、自身が書いた初の小説で、見事に芥川賞の候補入りをしました。
前評判が最も高いのは、年森瑛さんの「N/A」でしょう。選考委員満場一致で文學界新人賞に選ばれ、既に単行本化されています。同じく新人賞を受賞した小砂川チトさんの「家庭用安心坑夫」も新人離れした実力が評価されています。
各候補作のあらすじと講評 ※各作品読了後に随時更新します
ここからは、芥川賞候補になった各作品のあらすじを簡単に紹介します。ネタバレにならない程度にまとめていますが、より詳しいあらすじを知りたい方は各作品のところで紹介しているリンク先へ飛んでください。
また作品の講評及び受賞できるかどうかの予想も、併せて行います。
小砂川チト「家庭用安心坑夫」(『群像』6月号)
【あらすじ】
東京で暮らす小波は、尾去沢ツトムを度々目撃する。尾去沢ツトムとは小波の父とおぼしき人物であり、その実体は故郷の秋田のテーマパークにある坑夫を模した一体のマネキン人形だった。小波はツトムに会いに、故郷へ帰るが…。
⇒小砂川チト「家庭用安心坑夫」の詳しいあらすじや解説を読んでみる
【講評】
現実の中に妄想が入り込む小説。あらゆる人物がトレースされるような書き方で、ひきこまれた。第三人称を使った巧みな文章構造と、ユーモラスな擬音語・擬態語、極彩色で塗り潰したような現実の風景の描き方など、新人離れしている。高評価されるだろう。
⇒受賞予想:◯(対抗)
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鈴木涼美「ギフテッド」(『文學界』6月号)
【あらすじ】
歓楽街で働く私のもとへ、重病の母が訪ねてきた。私の刺青の下にある火傷の跡は、詩人として大成せずにシングルマザーだった母によるものだった。母が歓楽街に生きる私に残したかったものは何か?私は自殺した友人のことを想いながら、母の看病を続ける…。
【講評】
変わった経歴を持つ作者の経験がしっかりと反映され、鈴木涼美にしか書けない小説という点は評価されそう。純文学然とした趣があり、扉や鍵が一つのアイテムとして効いている。ただしこれらがやや安直なメタファーと捉えられる可能性もある。
⇒受賞予想:ーー
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高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」(『群像』1月号)
【あらすじ】
大変な仕事はすぐに断るも、手作りのお菓子を持ち込んで上司や同僚に取り入れられる女性社員・芦川さん。頑張り屋だけど報われない後輩の長尾は、先輩の二谷と一緒に彼女へいじわるしようと企てるが…。
【講評】
前回芥川賞候補になった「水たまりで息をする」と比べると、主題が分かりやすくなった。会社にはびこる様々なハラスメントを取り上げ、その嫌らしさをうまく言語化している点は評価されそうだが、全体的にはもう一つといった感じか。
⇒受賞予想:△(大穴)
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年森瑛「N/A」(『文學界』5月号)
【あらすじ】
生理の血を見るのが嫌だという理由で、ほとんど食べなくなった高校生・まどか。かけがえのない他人を求めるために、うみちゃんとお試しで付き合い始めた。拒食症でもLGBTでもないのに、周囲はそれに合わせた対応をしてくる。何にも属さないまどかは、これからの高校生活をどう生きるのか…。
【講評】
選考委員満場一致で文學界新人賞を受賞したと、前評判の高い作品だったが期待以上だった。何にも属さない高校生を取り巻く周囲の対応はとても現代的だし、そんな主人公が後半思わぬ展開になる自然な流れも見事。規格外の新人作家で、今回はこれで間違いなさそう。
⇒受賞予想:◎(大本命)
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山下紘加「あくてえ」(『文藝』夏号)
【あらすじ】
あたしは90歳の憎たらしいばばあと、母親のきいちゃんと三人で同居している。悪態をつくばばあと、それに応酬するあたし。気弱なきいちゃんは間に入ってその場を取り繕おうとするが、ヘビイな日常はエスカレートするばかりだ。
【講評】
あたしとばばあの強烈なやりとりは面白いが、そこから読者に訴えかけてくるものが少ない。気弱な母との関係性がもっとクローズアップされていたら、作品に幅が出ていたのではないだろうか。
⇒受賞予想:ーー
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【結論】受賞予想大本命は年森瑛の「N/A」!新人作家の二作同時受賞の可能性も
いかがでしたか?受賞予想をまとめました。
◎(大本命):年森瑛の「N/A」
◯(対抗):小砂川チト「家庭用安心坑夫」
△(大穴):高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」
大本命は年森瑛さんの「N/A」ですが、小砂川チトさんの「家庭用安心坑夫」も完成度が高い作品です。新人作家の作品が二作同時受賞の可能性も十分あり得ます。なお、第158回芥川賞も、「おらおらでひとりいぐも」と「百年泥」がどちらも文芸誌の新人賞受賞作でありつつ芥川賞同時受賞となった過去があります。
受賞作発表は7月20日。発表されたらまた記事を更新します。果たして予想は当たるのでしょうか?
【オマケ】第167回芥川賞の候補作も予想してました
この記事を最初に書いた、2022年6月10日時点では、まだ候補作が発表されていません。
またこの季節がやってきました。次の第167回 #芥川賞 #直木賞 の候補作は、6月17日(金)午前5時に当アカウントでお知らせします。候補作家のプロフィールについては、同日午前8時に当会公式サイトにて公開いたします。選考会は7月20日(水)16時より行います。
— 日本文学振興会 (@shinko_kai) June 8, 2022
6月17日に候補作が発表されるので、その前に本記事でどれが候補作に選ばれるか予想してみます。
芥川賞の候補作は、ここ半年間に刊行された文芸誌(今回でいうと1月号〜6月号)に掲載された短編〜中編小説の中から選ばれます。主要な文芸誌は以下の五つです。
・文學界
・新潮
・群像
・文藝
・すばる
主にこの中から候補作品を選んでいきます。
前評判が圧倒的に高いのは、文學界新人賞の「N/A」(著:年森瑛)
今回圧倒的に前評判が高いのが、年森瑛さんのデビュー作「N/A」(『文學界』5月号)です。文學界新人賞において選考委員から満場一致で選ばれた作品。既にかなり話題になっており、単行本化が決定しています。
芥川賞を主催する文藝春秋社が発刊する『文學界』からは、毎回少なくとも一作は選ばれます。よって年森瑛さんの「N/A」の候補入りは間違いないと思います。
また既に書籍化された小説でいうと、高瀬隼子さんの「おいしいごはんが食べられますように」(『群像』1月号)が挙げられます。高瀬隼子さんは第165回芥川賞でも「水たまりで息をする」で候補に入りました。前回の評価も高かっただけに、今回も候補入りの可能性は高そうです。
乗代雄介さんの「パパイヤ・ママイヤ」の候補入りは難しいか
同じく既に書籍化されている小説に、乗代雄介さんの「パパイヤ・ママイヤ」があります。こちらは主要文芸誌ではなく、『STORY BOX』3月号という文芸誌に掲載された小説です。
乗代雄介さんはこれまで三度芥川賞の候補となっている実力作家ですが…結論からいうと今作での候補は難しいのではないかと思います。小説のエンタメ性が高く、純文学のフィールドでは評価されにくいと思うからです。
寧ろ乗代雄介さんはこの路線でもう少し長い作品を書いて、直木賞を狙いにいく方が合っているのかもしれません。同じようなに芥川賞候補を経て直木賞を受賞した作家は、これまで山田詠美さんや角田光代さんや島本理生さんなどがいます。
過去に候補入りした作家が中心に候補入りの可能性を考える
他の候補でいうと、過去に候補入りした作家の作品が中心になりそうです。有力と思われる作品は以下。寸評付きで紹介します。
・温又柔「祝宴」(『新潮』5月号)
→言語の壁を超える意欲作として高く評価される。候補入りの可能性が高い
・石田夏穂「ケチる貴方」(『群像』3月号)
→前作が新人賞佳作ながら芥川賞候補という異例のできごとだった。
・島口大樹「遠い指先が触れて」(『群像』6月号)
→前作が候補入り。今作はより実験的な試みが強く、どう評価されるか。
・戌井昭人「田舎のサイケ野郎」(『文學界』3月号)
→これまでに五度の候補入り。筆者が個人的にとても好きな作家だが…
・舞城王太郎「短篇七芒星」(『群像』2月号)
→過去に「短篇五芒星」が候補入りした際に、短篇連作という形式を認められないという意見が合ったので、今回は難しいか…
上記の中では、温又柔「祝宴」が頭ひとつ抜けており、候補入りの可能性が高そうです。
候補作予想はズバリこの五作品!
毎回だいたい5作品ほどが候補になるので、今回も5作品に絞ってみました。
・年森瑛「N/A」(『文學界』5月号)
・高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」(『群像』1月号)
・温又柔「祝宴」(『新潮』5月号)
・石田夏穂「ケチる貴方」(『群像』3月号)
・山下紘加「あくてえ」(『文藝』夏号)
予想したラインナップでは大型新人の年森瑛さんに、女性作家4人が挑むという構図になりました。いずれにしても年森瑛さんの小説が第167回芥川賞の目玉とみていいのではないでしょうか。
芥川賞の候補作が発表!5作品中3作品が的中しました
6/17の朝5時に芥川賞の候補作が発表されました!
・小砂川チト「家庭用安心坑夫」(『群像』6月号)
・鈴木涼美「ギフテッド」(『文學界』6月号)
・高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」(『群像』1月号)
・年森瑛「N/A」(『文學界』5月号)
・山下紘加「あくてえ」(『文藝』夏号)
年森瑛さん、高瀬隼子さん、山下紘加さんは予想的中しました。今回は高瀬隼子さんが二度目の候補になった以外は初候補ばかりと、フレッシュな顔ぶれとなりましたね。さらに候補作家が全員女性であり、これは芥川賞史上初のできごととなりました。
芥川賞候補、初の全員女性 直木賞も男性は1人https://t.co/Eef7Zpb0dV
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) June 17, 2022
女性の社会進出が叫ばれる現代において、社会的意義の高いニュースとなりそうですね。個人的に意外だったのは年森瑛さんが女性だったこと。名前が「あきら」なので男性なのかなと感じていたので、意外でした。
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