第168回直木賞の候補作が発表されました。さとなり編集部では候補作を全て読んで、どれが受賞するか予想致します。受賞作の発表は2023年1月19日。果たしてどの作品が受賞するのでしょうか?各候補作のあらすじ及び講評をまとめた上で、予想を行います。
そもそも直木賞とはどんな文学賞?
直木賞は芥川賞と並んで毎回注目される、日本を代表する文学賞の一つ。直木賞は大衆文学の新人〜中堅作家に与えられる文学賞で、これまでも人気・実力を兼ね備えた作家たちが受賞しています。主な受賞は宮部みゆき、東野圭吾、角田光代、池井戸潤、三浦しをんなど。
最新回の第167回直木賞は、窪美澄さんの『夜に星を放つ』が受賞しました。予想としては、大穴に選んでいたところが受賞するという、結果。三度目の候補となった窪美澄さんの短編小説が選ばれた形になりました。
第168回直木賞受賞予想:「締め殺しの樹」が大本命
第168回直木賞の候補となったのは、以下の五作品です。(並びは作家名の順)
作品名 | 作家名 | 出版社 | 候補回数 |
光のとこにいてね | 一穂ミチ | 文藝春秋 | 2回目 |
地図と拳 | 小川哲 | 集英社 | 2回目 |
クロコダイル・ティアーズ | 雫井脩介 | 文藝春秋 | 初 |
しろがねの葉 | 千早茜 | 新潮社 | 3回目 |
汝、星のごとく | 凪良ゆう | 講談社 | 初 |
全体を通して感じたのは、話題作が順当に候補作として選ばれたということ。どれが受賞してもおかしくないラインナップだと言えます。
初候補となった雫井脩介さんは既にミステリー業界で人気の作家。映画化された『クローズド・ノート』『犯人に告ぐ』など既に話題作を多く刊行しており、初候補ながら候補作家の中では最もベテラン作家だと言えます。
もう一人の初候補は凪良ゆうさん。映画化もされた『流浪の月』は第17回本屋大賞を受賞しており、特に書店員たちから評価の高い作家です。また今回の候補作は「王様のブランチBOOK大賞2022」と「キノベス!2023」第1位を獲得しており、注目を集めています。
凪良ゆうさんはBL(ボーイズラブ)出身の作家ですが、同様の経歴を持つのが一穂ミチさん。前回は一般小説デビュー作となった短編集『スモールワールズ 』が直木賞候補となりました。今回は長編小説で再び候補に選ばれています。
同じく二回目の候補となったのが小川哲さん。SF小説に定評のある作家で、今回の候補作は600ページを超える大長編となっています。第13回山田風太郎賞を受賞しており、既にSNSなどで「直木賞大本命」と前評判の高い作品です。
最後に紹介するのは、今回最も候補回数の多い千早茜さん。『あとかた』『男ともだち』に続く、三度目の候補です。著者が初めて挑んだ歴史小説。今回の候補作品の中で唯一の純粋な歴史小説でもあります。
各候補作のあらすじと講評
ここからは各候補作の簡単なあらすじと、作品の講評を紹介します。あらすじはネタバレにならない程度にまとめていますので、ご安心を。また各作品の講評をする際に、受賞予想を(◎:大本命、◯:対抗、△:大穴)合わせて記載します。
一穂ミチ『光のとこにいてね』(文藝春秋)
【あらすじ】
生まれた環境も育つ階級も違う二人の女性・小瀧結珠と校倉果遠は、7歳の頃に団地の片隅で出会った。運命に翻弄されながら出会いと別れを繰り返す二人の物語。去り際に彼女は言う、「光のとこにいてね」と。
【講評】
女性二人の友情とも愛情ともまた違った結束を描いた物語。「光」にまつわる風景描写や、それに伴う心理描写がとても緻密で、とても完成度の高い作品だと感じた。それぞれが所帯を持った女性をお互いに肯定する眼差しはこれまでの作品にあまりなかった捉え方で新鮮さもある。真っ先に推したいと思える作品だった。
受賞予想:◎(大本命)
小川哲『地図と拳』(集英社)
【あらすじ】
「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」
日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野……。奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。ひとつの都市が現われ、そして消えた。
日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲の名もない都市で繰り広げられる知略と殺戮。日本SF界の新星が放つ、歴史×空想小説。
引用:Amazon
【講評】
とにかくスケール感の大きな作品。他の候補作と比べても圧倒的に分厚く、力が感じられる。歴史小説にSF的要素が詰め込まれ、空想小説の楽しさと切実な雰囲気を併せ持った作品だと思った。
受賞予想:◯(対抗)
雫井脩介『クロコダイル・ティアーズ』(文藝春秋)
【あらすじ】
陶磁器店を営む老夫婦の息子が殺害された。犯人は逮捕されたが、息子の嫁が殺害に関わったのじゃないかという疑念が拭えない。家族を信じたい夫、疑いがどんどん募る妻。そんな中、店で大事にしていた陶磁器が盗まれる事件も発生し…。
【講評】
サスペンス風ミステリーとしてラストまで緊張感を持って読める。信じたい夫と疑ってしまう妻との対比がおもしろいが、なぜそんな心情になるのかをもっと突き詰めないと弱いとされてしまうかも。
受賞予想:ー
千早茜『しろがねの葉』(新潮社)
【あらすじ】
少女・ウメは家族のもとを離れて、石見銀山にたどり着く。伝説の山師・喜兵衛に拾われ、銀山で生き抜く術を教わるも、だんだんと喜兵衛は生きる活力を無くしていく。ウメは銀山の男たちと接する中で、どう生き抜いていくのか…。
【講評】
男勝りの少女・ウメが、銀山の穴の暗闇の中で逞しく生きる前半。幼馴染の男性と結婚し、家庭を築く後半。ガラッと変わり、どちらも良さがあるが、後半の方がより千早茜さんらしさが出ている。前半魅力的だった喜兵衛がいきなり生きる力を失っていくようで、そこの書き方が甘いとされるかもしれない。
受賞予想:△(大穴)
凪良ゆう『汝、星のごとく』(講談社)
【あらすじ】
母子家庭で育った青埜櫂。島で生まれ育った井上暁海。どちらも親の不貞に振り回されていた二人が出会い、東京に出ていこうと誓う。やがてすれ違い、それぞれの道を歩むが、また新たな分岐点が訪れる。
【講評】
人気のBL出身作家の作品。一穂ミチさんもBL出身だが、同じカテゴリーでみると、一穂さんの方が圧倒的に良いと感じた。ちょっと人物造形や、ラストの展開などがご都合的だとされてしまいそう。
受賞予想:ー
大本命は『光のとこにいてね』!『地図と拳』の二作同時受賞の可能性も
いかがでしたか?さとなり編集部では以下のように予想してみました。前評判では小川哲さんの『地図と拳』が高かったですが、作品を読んだ上だと一穂ミチさんの『光のとこにいてね』が感動したので、できれば同時受賞してほしいです。
◎(本命):一穂ミチ『光のとこにいてね』
◯(対抗):小川哲『地図と拳』
△(大穴):千早茜『しろがねの葉』
受賞作発表は1月19日。また発表後に記事を更新いたします!
【結果発表】対応と大穴予想の二作が受賞する結果に…
第168回直木賞の選考会が1月19日に行われ、以下のような結果になりました。
第168回直木三十五賞は、小川哲さんの『地図と拳』と千早茜さんの『しろがねの葉』の二作に決定しました。小川さん、千早さん、おめでとうございます! #直木賞
— 日本文学振興会 (@shinko_kai) January 19, 2023
本命に予想していた一穂ミチ『光のとこにいてね』は受賞を逃しました。残念…!ただし、対応と大穴にあげていた作品が二作同時受賞する結果に。大外しというわけではないので、五分五分くらいの結果と言っていいんじゃないでしょうか。
一穂ミチさんの『光のとこにいてね』は、直木賞選考会翌日に発表された本屋大賞にノミネートされていることが分かったので、ぜひ本屋大賞でリベンジしてほしいですね!
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