3分で分かる『ラブカは静かに弓を持つ』のあらすじ&ネタバレ解説・感想まとめ【2023年本屋大賞候補作】

音楽小説×スパイ小説でおもしろいと話題の小説『ラブカは静かに弓を持つ』(著:安壇美緒)。今回はこの小説のあらすじや感想を紹介する他、実話(ヤマハとJASRACの話?)かどうかの検証、ラストシーンのネタバレ考察、映画化の可能性などをまとめました。本屋大賞の候補にもなった本作、ぜひチェックしてみてください。

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安壇美緒の小説『ラブカは静かに弓を持つ』とは

書名 ラブカは静かに弓を持つ
作者 安壇美緒
出版社 集英社
発売日 2022年5月2日
ページ数 312ページ

音楽小説とスパイものが融合した異色の小説『ラブカは静かに弓を持つ』。JASRACとヤマハのニュースを連想させる本作は、発売当初から話題になり大ヒット。第6回未来屋小説大賞や第25回大藪春彦賞を受賞し、さらに2023年の本屋大賞の候補にも選ばれています。

『ラブカは静かに弓を持つ』は、著作権を管理する会社の社員が音楽教室へと潜入する物語。音楽講師や生徒たちと交わり、チェロの演奏を通じて心を開いていく青年が、仲間を欺いて任務を遂行する葛藤に悩まされます。心温まるストーリー性と、スパイもの特有の緊張感を同時に味わえる傑作です。

※『ラブカは静かに弓を持つ』は以下に当てはまる人におすすめ!
・『蜜蜂と遠雷』や『羊と鋼の森』などの音楽小説が好きな人
・スパイものの映画や小説が好きな人
・JASRACとヤマハのニュースに関心があった人

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3分で分かる『ラブカは静かに弓を持つ』のあらすじ【※ネタバレなし※】

全日本音楽著作権連盟(以降:全著連)の地下の資料室に呼び出された橘樹は、上司の塩坪からミカサ音楽教室への潜入捜査を命じられる。音楽教室でも正規の著作権料を徴収するために、ミカサとの裁判で必要になる証拠を集める目的があった。

橘が潜入調査として向かったのは、ミカサのチェロ教室。講師として迎えたのは、浅葉桜太郎だった。浅葉はオープンな性格で、橘にも気さくかつ丁寧にチェロを教えてくれる。橘はスパイ活動のため、自分は公務員だと偽り、ポップスを習いたいと申し出る。

そんな橘は幼少時にチェロを習っていたが、ある事件の被害にあったことがきっかけで辞めていた。その時から橘は深海の悪夢をよく見るようになり、孤独感を抱いていた。

しかし浅葉の丁寧な指導や、同じチェロ教室に通う面々と接する内に、だんだんと閉ざした心を開いていく。そうして2年間と決められたスパイ活動は、あっという間に終わりへと近づいてくる。

やがてスパイ活動が終わり、法廷に自分が立って証言すれば、浅葉や他の演奏仲間への裏切り行為が明るみに出てしまう。せっかく演奏する喜びや、人と接する温かみを感じてきているのに…。そんな葛藤の中、橘がとった行動は?そして彼の運命は…?

『ラブカは静かに弓を持つ』の主な登場人物まとめ

『ラブカは静かに弓を持つ』の主な登場人物をまとめました。

全日本音楽著作権連盟
橘樹(たちばないつき):本作の主人公。幼少時にチェロを習った経験があるが、ある事件をきっかけに辞めている。上司から音楽教室への潜入活動を命じられる。
・塩坪信宏(しおつぼのぶひろ):橘の上司。樹に音楽教室への潜入活動を命じる。
・三船綾香(みふねあやか):総務部所属。才色兼備な人物。最近、橘に妙に絡んでくる。
・湊良平(みなとりょうへい):橘の先輩。三船に好意を抱いている。
・磯貝(いそがい):育休明けの女性社員。

ミカサ音楽教室二子玉川店
浅葉桜太郎(あさばおうたろう):チェロ講師。橘にチェロを教える。いい意味で講師らしからぬオープンな雰囲気。
・青柳かすみ(あおやぎかすみ):生徒。大学生で、幼児教育を専攻している。
・花岡千鶴子(はなおかちづこ):生徒。初老の魔女
・蒲生芳実(がもうよしみ):花岡の次に高年の生徒。品が良い。
:梶原正志(かじわらまさし):生徒。10歳の息子がいる。
・片桐琢郎(かたぎりたくろう):生徒。文系の大学院生。

【その他】
・小野瀬晃:主に映画音楽で人気の作曲家。
・精神科の医師:橘が通う精神科の医師。

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『ラブカは静かに弓を持つ』のネタバレ解説&考察まとめ

ここからは『ラブカは静かに弓を持つ』の魅力をさらに深掘りするために、実話かどうかの検証、読みどころの解説、ラストシーンの考察、映画化の可能性などを、作家・安壇美緒さんのインタビューなども参考にして、まとめました。一部ネタバレとなる箇所はクリックしないと読めない仕様にしているので、ネタバレしても大丈夫な方だけ読んでみてください。

『ラブカは静かに弓を持つ』は実話?ヤマハやJASRACとの関連は?

『ラブカは静かに弓を持つ』は、全日本音楽著作権連盟で働く主人公が、正規の著作権料を徴収するために音楽教室へとスパイ活動を行う話です。一時期、JASRACが音楽教室から著作権料を徴収するのはやり過ぎではないかと話題になったので、それを覚えている方は本作も実話なのでは?と思っているかもしれません。

作者の安壇美緒さんはインタビューのなかで、本作のテーマは編集者から提案されたと語っています。JASRACがヤマハへ潜入調査していたのは事実であり、本作はこの事件に着想を得て、創作されたようです。

音楽教室での演奏から著作権料を徴収しようとしている日本音楽著作権協会(JASRAC)が、職員を約2年間にわたって「生徒」として教室に通わせ、潜入調査していたことが分かった。9日には、両者の間で続く訴訟にこの職員が証人として出廷する予定だ。
引用:朝日新聞DIGITAL

ちなみにJASRACとヤマハの裁判は最高裁にて、音楽教室において生徒の生演奏から著作権料を取るべきではないとの判決が出ています。

ただし『ラブカは静かに弓を持つ』はあくまで創作なので、実話とは言えないでしょう。作品の最後にも以下のように書かれているので、その点を注意して純粋に作品を楽しむ程度にしましょうね。

本作品はフィクションであり、人物、事象、団体等を事実として描写・表現したものではありません。
引用:『ラブカは静かに弓を持つ』末尾の本文より

チェロの演奏や仲間との交流で心を開いていく様子が読みどころの一つ

『ラブカは静かに弓を持つ』の読みどころは、主人公の橘の心情がだんだんと変化していく点です。少年時代に巻き込まれたある事件のせいでトラウマを抱えていた橘ですが、講師の浅葉に教わりながら演奏していく過程や、同じチェロ教室に通う仲間と交流する内に、心を開いていきます。

作中で印象的な場面をいくつか引用しましょう。

曲を弾いていくうちに、少しだけ橘の気分は弾んだ。家と会社の往復では見られるはずもない大海原の景色が、頭の中にふっと広がる。
音楽というのは、不思議だ。
いま目の前にないはずの情景を呼び起こすことができる。
引用:『ラブカは静かに弓を持つ』47ページより

人の声に一番近いと言われている楽器がチェロだ。
(中略)
澄んだ弦の響きは、日常の些事で散りぢりになってばかりの意識を高いところでひとつに束ねた。
本当は、こういう音色を奏でることができる楽器なのだ。チェロは。
引用:『ラブカは静かに弓を持つ』54・55ページより

これらはチェロを自身が演奏したり、音色を聞いたりする中で、発見したことです。他にも浅葉先生が橘に指導する中で生まれた発言にも名言が生まれました。

曲を表現する時に一番、何が重要なのか?それはイマジネーションだ。的確なイマジネーションこそが、音楽に命を与える。プロもアマも関係ない。自分が育てた想像力を、この弦の上に乗せるんだ
引用:『ラブカは静かに弓を持つ』116ページより

ぜひ、こういった浅葉先生の言葉や、橘の心情の変化などに注目しながら読み進めてみてください。

スパイ活動の行く末は?ラストシーンをネタバレ考察

『ラブカは静かに弓を持つ』は、スパイ小説としてのスリリングな味わいも魅力です。裏切り行為を働いていると自覚する橘の運命はどうなったのでしょうか?まだ作品を読んでない人は読むまでのお楽しみですが、ここでは読んだ方に向けてラストシーンを考察する内容を書いていきます。

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橘は裁判の証拠を消すために、先輩社員に渡したデータの消去を試みます。先輩社員にバレないようにする展開は、とてもスリリングでした。この行為により、橘は会社を完全に裏切る形となりました。

しかし、橘は予期せぬハプニングにより、レッスン最終日に浅葉先生に潜入活動していたことがバレてしまいます。言い逃れできない状況になった橘は、開き直ったような態度をとり、浅葉を激昂させてしまいます。

既に証拠を消して、裁判の証拠として提出するつもりはないと言い切れれば、物語の展開は変わっていたかもしれません。しかし前々から引け目を感じていた橘が真実を言い出せずにいたのは、ある意味で橘らしい結果だったと思います。

再び孤立してしまった橘ですが、それでも最後の場面では再度浅葉のもとに橘がレッスンを申し出る展開となります。橘が会社を辞めたこと、師匠は浅葉しかいないと断言すること、そして何よりチェロの演奏によってつながった強固な結びつきにより、誤解が溶けていく様が描かれています。

ラストは、やはり人間同士の信頼、そして音楽の持つ可能性を改めて呈示したした場面だと読み解けます。一貫したテーマが描かれており、このラストシーンからも本作が秀逸な小説であると感じられますね。

『ラブカは静かに弓を持つ』はドラマ・映画化が確実?

『ラブカは静かに弓を持つ』が持つ、チェロの演奏する場面の美しさ、深海をイメージさせる壮大さ、心温まる物語性、スパイ小説特有の緊張感などは、映画化すると魅力的に表現できそうですね。

本作を読んでメガホンをとってみたいと感じる映画監督は多いのではないでしょうか。しかも本屋大賞の候補となり、話題も集めているので、映画化は必至でしょう。

そこでここではもし映画化(スペシャルドラマ化の可能性も?)された時に、キャストがどうなるか予想してみました。

【全日本音楽著作権連盟】
橘樹:北村匠海
・塩坪信宏:賀来賢人
・三船綾香:芳根京子
・湊良平:井之脇海
・磯貝:谷村美月

【ミカサ音楽教室二子玉川店】
浅葉桜太郎:竹内涼真
・青柳かすみ:森七菜
・花岡千鶴子:宮崎美子
・蒲生芳実:石丸幹二
:梶原正志:野間口徹
・片桐琢郎:坂東龍汰

皆さんの予想はいかがでしょうか?映画化やドラマ化されるのが楽しみですね。

『ラブカは静かに弓を持つ』を読んでみた感想

ここからは『ラブカは静かに弓を持つ』を読んだ上での感想をまとめました。先に筆者の感想を述べ、その後に読者がSNSやレビューサイトに載せた感想をいくつか紹介します。

【筆者の感想】小さい頃のピアノ教室を思い出した

筆者も小さい頃にピアノ教室へ通っていたのですが、その時のピアノの先生とのやりとりを思い出しました。最初は難しそうに見えていた楽譜も、だんだんと弾けるようになって、心が軽くなっていく、あの感じ。その時の心情が蘇り、懐かしく感じました。

また演奏会での独特の緊張感や高揚する気持ちも、うまく表現されていたと思います。筆者も演奏会では、間違っても気にせずに弾ききることが大事だと教わりました。また普段はあまり交わることがない、教室に通う人たちと話せることも新鮮でうれしかったですね。

小説の中で特に魅力的だと感じたのは、チェロ講師の桜太郎。大人が通う音楽教室の講師というと、品があってどこか気難しそうな人柄のイメージがありましたが、どちらかというと真逆の雰囲気で親しみが持てました。

それ故にすれ違う終盤は心苦しいものですが、ラストでは一種の救いが描かれていてよかったです。安壇美緒さんの小説は大衆向けですが、純文学的な味わいもあり、個人的に好みでした。他の作品も読んでみたいと思います。

【みんなの感想や評価】ドキドキしながら読んだ

今、大人で音楽を習っている方は、講師との関係や練習する気持ちが、とても上手く表現されていて、納得できるのでは。
また、主人公の仕事の進展でドキドキさせられる。
引用:Amazon

まとめ:『ラブカは静かに弓を持つ』は異色のスパイもの×音楽小説だった

いかがでしたか?『ラブカは静かに弓を持つ』の特徴を以下にまとめました。

・音楽小説の楽しさとスパイものの緊張感が味わえる傑作
・2023年本屋大賞候補作
・実話ではないが、ヤマハとJASRACのニュースに着想を得ている
・主人公が音楽の演奏や仲間との交流を通じて心を開いていく点が魅力

以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!

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