第167回直木賞を受賞した「夜に星を放つ」(著:窪美澄)は、コロナ禍の今読みたい小説です。今回はこの本のあらすじを紹介し、一部ネタバレを含みながら作品の魅力を解説します。また筆者や読者の感想、さらには直木賞の受賞予想も行いますので、最後までぜひ読んでみてください。
窪美澄の小説「夜に星を放つ」とは
書名 | 夜に星を放つ |
作者 | 窪美澄 |
出版社 | 文藝春秋 |
発売日 | 2022年5月24日 |
ページ数 | 220ページ |
「夜に星を放つ」は、第167回直木賞の受賞作に選ばれた短編集。5篇の短編に共通するテーマは「喪失と再生」。星座を共通のモチーフとして、物語を紡いでいきます。コロナ禍を生きる人々の姿も描かれていて、混迷の時代の今、必要とされている小説です。
直木賞候補作となった窪美澄さんの『夜に星を放つ』。
窪さんの真骨頂五編。お楽しみください。 pic.twitter.com/XzJqewr7mZ— 文藝春秋 文藝出版局 (@BunshunBungei) June 16, 2022
作者の窪美澄さんは、これまで二度直木賞の候補に選出(第159回「じっと手を見る」・第161回「トリニティ」)されています。また映画化された「ふがいない僕は空を見た」や、「晴天の迷いクジラ」などのヒット作を連発している、人気作家です。
※「夜に星を放つ」は以下に当てはまる人におすすめ!
・コロナ禍における生きる希望を描いた小説を読みたい人
・星座に興味がある人
・第167回直木賞受賞作に選ばれた話題の本を読みたい人
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3分で分かる「夜に星を放つ」のあらすじ【※ネタバレなし※】
「夜に星を放つ」は5つの短編からなります。それぞれの短編のあらすじを簡単にまとめました。
【真夜中のアボカド】
私は婚活アプリで恋人を探し始めて半年経った頃に、麻生さんという好印象の男性と出会った。麻生さんとならうまくいくかもしれない、そう思ってた矢先にコロナ禍で自粛期間に入った。「アボカドの種から芽が出るかな」と思ったのも、その頃だった。
私には双子の妹の弓ちゃんがいたが、彼女は脳内出血で突然亡くなった。ある日、弓ちゃんの恋人だった村瀬くんから連絡が入り、久々に再会することに。そこで私は弓ちゃんもかつてアボカドの種を植えていたことを知る…。
【銀紙色のアンタレス】
16歳になったばかりの僕は、田舎のばあちゃんの家でこの夏を過ごすことにした。僕は海が大好きで、ばあちゃん家の近くの海で毎日夕方まで遊ぶ。夕暮れの海を眺めていた時、小さな赤ちゃんを抱っこしていた女の人が気になり、声をかけた。
僕が遊びに行っているばあちゃんの家に、一泊しに来ていいか?と幼馴染の朝日から連絡が入る。しかし僕は朝日よりも、浜辺で見た女の人が悲しげだったのが気になっている。そんな折、その女の人がばあちゃん家に来ていたのを知って…。
【真珠星スピカ】
交通事故で亡くなった母が、幽霊として生活に溶け込んでいる。父親には母親の姿は見えていないようだ。父には母の幽霊が見えているとは言わずに、私は無言の母と家の中で生活している。
私は学校で「狐女」と罵られるなど、いじめの標的にされている。ある日いじめグループの主犯格の女子が、私に対してこう言った。「この子のそばになんかいる。」そうしてクラスメートが私に接する態度が変わっていき…。
【湿りの海】
僕の別れた妻と娘は今、アリゾナに住んでいる。妻の浮気が原因で離婚して、今は日曜の深夜に娘とビデオ通話するだけの関係になっていた。遠くで生活している2人のことを僕は度々思い出し、未練がましい日々を送っている。
そんなある日、隣の部屋にシングルマザーと女の子が引っ越してきた。女の子は僕の娘と歳が近く、名前も似ている。僕はやがて日曜に、その二人と公園で過ごすようになる。海に行きたいと嘆く女の子を、僕は車で連れて行く約束をした。
【星の随に】
小学四年生の僕は、新しいお母さんのことをいまだに「お母さん」と呼べずに「渚さん」と呼んでいた。春に弟が生まれたけれど、僕は弟にも渚さんにもずっとぎこちなくてもどかしい気持ちを抱いている。
ある日、僕は家の鍵が閉まっていて、帰れなくなっていた。渚さんが弟を寝かしつけたまま、家を閉め切っていたせいだった。そんな僕の姿を見て、同じマンションに住んでいるおばあさんが夕方まで僕の面倒を見てくれることになった。
「夜に星を放つ」のネタバレ解説&考察まとめ
「夜に星を放つ」の各短編のあらすじを簡単に紹介しました。ここからは、この作品の魅力をさらに深く解説していきましょう。
5篇の短編のつながりは?共通する「星座」のモチーフ
「夜に星を放つ」は連作短編集ではないので、収録された5つの短編はそれぞれ直接的なつながりは持っていません。登場人物も背景も全てバラバラです。ただし共通するモチーフとして、各短編で「星座」がモチーフとして登場してきます。
例えば最初の短編の【真夜中のアボカド】では、双子座が登場します。主人公の「私」が双子で、一卵性双生児の妹が亡くなったというエピソードと絡めて、双子座の話が大きな意味を持ってきます。
作者の窪美澄さんは、インタビューで以下のように語っています。
星占いの先生と一緒に本を作ったことがあり、その時、星座は人間が物語るためのものなのだと強く実感しました。星を勝手に線で結んでストーリーを作るなんて面白いですよね。実はこの本では、小説の内容と各星座の伝説とが、少しリンクしています。
引用:本の話
星座のことを意識しながら物語を読み進めると、より深い味わいが感じられるでしょう。各短編を読んだ後に、本書のタイトル「夜に星を放つ」の意味合いをぜひ考えてみてください。
喪失と再生…コロナ禍の今、読むべき小説
「夜に星を放つ」では、コロナ禍で生きる人々の姿が度々描かれます。特に【真夜中のアボカド】はマッチングアプリで知り合った男性と、自粛期間中になかなか会えないもどかしさなどが描かれています。
他人とすぐに出会いにくくなり、人との繋がりが当たり前ではないと感じられるようになった今の時代。コロナ禍で生きる人々の心情を的確に表現しており、自粛期間中に読めばとても共感できる内容になっていると思います。
『星の随(まにま)に』、『真夜中のアボカド』では、設定として取り入れました。積極的にコロナ禍を描きたいとは思っていませんが、今回の短編集では、結果的に過渡期を捉えることができましたね。
引用:本の話
「夜に星を放つ」を読んでみた感想
ここからは、「夜に星を放つ」を読んだ上での筆者の感想や、読者のレビュー・評価をまとめました。
【筆者の感想】個人的には「湿りの海」が一番好きだった
これまで読んだ窪美澄さんの作品は、青年の心の内面を抉るようなアクの強い作風が魅力的だったのですが、今回はその点で少し物足りなさを感じました。といってもほとんどの小説で小さな子ども目線で描かれているので、敢えてそういう趣向にしているのだとは思います。
私が個人的に好きだったのは、「湿りの海」。傷心の主人公と、シングルマザーがだんだんと距離を近づけていくところが丁寧に描かれていて、ひきこまれました。私自身も小さな娘がいるので、共感できる内容が多かったです。
窪美澄は児童文学としても素晴らしい作品を書けそうだと思えたのも、一つの新たな発見でした。風景描写や心理描写が巧みなので、この人の文章がいずれ教科書に載ったり、入試で使われたりしそうだなとも感じました。
【みんなの感想や評価】切ないけど胸が温かくなる小説
『夜に星を放つ』窪美澄 #読了
心にポッカリと穴が空いてしまった人達の、5話の短編集。
哀しみで空いたその穴が、少しでも小さくなれば…と願った✨
5話目『星の隨に』は号泣💧
佐喜子さんの言葉、忘れない…どのお話も全て心に沁み過ぎた。
切ないけれど胸が温かくなる。
素晴らしいよ〜😭 pic.twitter.com/Fu38Eel3nf— コキアっ子 (@kokiakko28) July 19, 2022
佐喜子さんとは、主人公の「僕」と同じマンションに住む女性のことです。学校が終わって夕方になるまで彼女の部屋を訪れるのですが、そこでのやりとりがとてもハートウォーミングで心に残ります。
夜に星を放つ / #窪美澄
コロナ禍の“今”の日本。
進みたくても、八方塞がりに感じる瞬間。
そんな時にちょっとした人の繋がりが光となって、救われることってあるよなぁ。
その瞬間の心の動きに鋭さと優しさがあって、静かに響く。かなり好き。☆直木賞候補作☆#読了 #読書 #文藝春秋 pic.twitter.com/QRqU6IgdZ1
— さら (@sarah_bookmovie) July 19, 2022
おうち時間で読みたい一冊です。
【夜に星を放つ】窪美澄
それぞれの物語が心に空洞を作って、淋しいけれど温かい風が通っていくようなイメージだった。
心の内に秘めた思いがいつか放たれるといいな。
『叶わない未来かもしれない。だけど、もしその未来が来なくても大丈夫なように、僕はもっともっと強くなりたかった。』#読了 pic.twitter.com/elLj74GYZh— sweetcloud (@spica_book66) July 9, 2022
喪失によってぽっかり空いた穴を埋める、とまではいきませんが、ほんのり優しい気分にさせてくれる小説です。
人生の中で傷ついた出来事があっても、それを乗り越えられる光が見える希望が見え心穏やかに読める。
辛いことがあるけど前向きに少しづつ進もうとする今の時代に沿った内容である。
引用:Amazon
読後感がとても良い小説だと言えます。
「夜に星を放つ」は直木賞を受賞できる?ズバリ大予想!
「夜に星を放つ」は第167回直木賞候補作に選ばれています。この記事を書いている時は、まだ直木賞の発表前なので、受賞予想を行っていきましょう。
個人的にとても好きな作家なので、作品を読む前は候補作中でこれが一番期待値が高かったのですが、少し物足りなさを感じてしまったのが正直なところです。よくまとまっていて良いとは思いますが、作者の良さがどうしても薄れてしまっている印象があります。
ただこれまでと違って、子ども目線でもしっかり物語を丁寧に描けることは評価されるかもしれません。これが1回目の候補だと難しいと思うのですが、これまでの作品と合わせて合わせ技で作者自体を評価する声があがれば、受賞の可能性も少しあると思います。
⇒受賞予想:△(大穴)
【7/20更新】第167回直木賞を受賞しました!!
第167回直木賞の選考会が7/20に行われ、「夜に星を放つ」が受賞作に選出されました。
第167回芥川賞と直木賞の選考会が東京で開かれ、直木賞に窪美澄さんの「夜に星を放つ」が選ばれました。https://t.co/Xzpnn8lLpT
— NHK科学文化部 (@nhk_kabun) July 20, 2022
選考委員の林真理子さんは、講評で以下のように述べています。
コロナから逃げておらず、そして婚活アプリという現代的な素材を使った短編もある。それが実にさりげなく、なめらかで、改めて窪さんの文章力、構成力、作家としての資質に敬服した。
引用:毎日新聞
コロナ禍で生きる人の姿を真正面から書いたことが、高評価に繋がったようですね。
まとめ:「夜に星を放つ」はコロナ禍の今、読みたい小説だった
いかがでしたか?「夜に星を放つ」の特徴を以下にまとめました。
・第167回直木賞受賞作
・コロナ禍の今、人との繋がりを再確認できる小説
・星座がモチーフとなった短編集
以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!
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