今回は「転の声」のあらすじや感想を紹介します。クリープハイプのボーカル・尾崎世界観さんによる小説。そんな本作のタイトルの意味や作品の魅力、評価の高いラストシーンのネタバレ考察、芥川賞の受賞予想などを行います。
【第171回芥川賞候補作】尾崎世界観の小説「転の声」とは
| 書名 | 転の声 |
| 作者 | 尾崎世界観 |
| 出版社 | 文藝春秋 |
| 発売日 | 2024年7月11日 |
| ページ数 | 168ページ |
| 初出 | 『文學界』2024年6月号 |
「転の声」は、転売ヤーが優位になった世界が舞台。バンドボーカルの以内右手は、稀代の転売ヤーに自分を転売してほしいと頼み込み、契約を勝ち取ります。表現者としての「声」と、世間からの「声」との2つの声に翻弄される苦悩が感じられる作品です。
作者の尾崎世界観さんは、人気バンド・クリープハイプのボーカル担当。これまでも文学作品を多数執筆しており、以前「母影」が芥川賞の候補になったこともあります。本作「転の声」はそれに続く、二度目の芥川賞候補作です。
※「転の声」は以下に当てはまる人におすすめ!
・バンド・クリープハイプが好きな人
・音楽フェスによく行く人
・転売をモチーフにした小説を読みたい人
・第171回芥川賞の候補となった話題作をチェックしたい人
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3分で分かる「転の声」のあらすじ【※ネタバレなし※】
ライブチケット転売への世間のイメージが変わり、転売されプレミアムが付くことがアーティストの一種のステータスになった現代。バンドボーカルの以内右手は今の現状を打破したいと考えていた。
もっと転売について知りたい。あわよくば有名な転売ヤーと繋がりたい。そうした願望は、今や焦りに変わりつつある。
引用:「転の声」本文より
そんな有名な転売ヤーの代表格が、エセケンと呼ばれる男・得ノ瀬券だ。彼は転売専門のマネジメント会社【Rolling → Ticket】の顔であり、転売ヤーとアーティストがどちらも利益を生み出す仕組みを確立させ、世間からももてはやされていた。
あるライブで、声が詰まり、不完全燃焼で終わった帰り道、以内右手はエセケンと遭遇する。そして思わず頼み込んだのだった。
「俺を転売してくれませんか」
引用:「転の声」本文より
転売ヤーに魂を売ったともいえる、以内右手のその後の運命とは……。
「転の声」のネタバレ解説&考察まとめ
ここからは「転の声」の魅力を深掘りするために、タイトルの意味、作品の魅力、ラストシーンのネタバレ考察などを行います。
タイトル「転の声」の意味とは
タイトルは「天の声」のもじりです。「転」は転売を意味しており、本作の大きなテーマとなっています。
また、「転の声」は本文中に出てくるSNSアプリの名前(通称)でもあります。正式名称は【Rolling → Voice】で、転売するうえで重要なツールとなっているアプリです。
主人公の以内右手は、SNSでのバンド及び自分への評価をかなり気にしています。また、転売においては、チケットを譲ることを意味する【譲】とチケットを求めることを意味する【求】の数にも執着するのです。
こういった、転売についての表現者の過剰な意識、そしてそうならざるを得ない状況などが、物語を楽しむうえでかなり重要になってきます。その点を意識して、ぜひ読んでみてください。
クリープハイプのボーカル・尾崎世界観さんだからこそ書けた小説
作者の尾崎世界観さんは、人気バンド・クリープハイプのボーカル。しゃがれた声でシャウトするような独特の歌唱方法が注目されており、本作でもそんな「声」が一つのテーマとなっています。
ボーカルが表現するときの「声」、世間からの評価を意味する「声」。2つの意味を持つ声が、本作を読み解くカギとなっており、それはどちらの声についても意識している尾崎さんならではの「世界観」が如実に表現されているといえます。
具体的にライブで表現するなかでの苦悩も描かれており、単純にこういった苦闘のすえにライブができているのだなと感心します。音楽好きやフェス好きな人には、特に読んでほしい作品です。
ラストシーンのネタバレ考察!最後に出てくる女性は絵萌井あお?
最後にラストシーンについて、少し考察してみましょう。ネタバレとなるので、全部読んだ人だけ以下をクリックしてみてください。
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ラストシーンは以内右手の新しいバンドが無観客ライブをするシーンで終わります。告知していた場所(豪徳寺、梅ヶ丘)は、演者も主催者もいないというのに、人がごった返すという異常事態が起きています。
一方、以内右手は、下北沢のライブハウスでステージに立っています。フロアにはマネージャーを含めた四人だけ。うち、一人の女性がこちらを見つめています。ステージに向けられる彼女の目は「定価の目」で、そんな彼女に優しく見つめられるというシーンで終わるのでした。
【考察】
最後の描写のなかで、何度も「馬鹿だ。」という表現が繰り返されること。これはあまりに「転の声」に執着し過ぎて、表現者としての本質を見失ってしまっていた自分への戒めだと捉えられるかもしれません。
また、最後に出てくる女性は、絵萌井あおなのか?という疑問も出てくるでしょう。たしかに彼女はブログのなかで、たまに失敗するのも見どころと語っていたり、定価について言及していたりしているので、最後の描写と絵萌井あおの人物像は重なるところがあります。
ただし、その女性=絵萌井あおと名言されていないので、そこは読者の想像に委ねられているのかもしれません。それどころか、この女性の存在は、以内右手が妄想で作り出した人物なのではないかと考察することもできそうです。皆さんはどう思いますか?
「転の声」を読んでみた感想
ここからは「転の声」を読んでみた感想を書いていきます。筆者の感想では、芥川賞の受賞予想もあわせて掲載。また読者のレビューや口コミについても、まとめました。
【筆者の感想】転売にすがる以内右手の苦悩が生々しかった
転売が優位となるという設定がまず面白かったです。たしかに世間の評価を一番重視しているのは転売ヤーかもしれません。だからこそ転売ヤーの声が世間に響くという設定は、かなり説得力がありました。
転売にすがる以内右手の言動はとても生々しかったですね。世間の声もリアルで、SNS独特の文法や口調もよく再現されていました。また、筆者は音楽フェスが好きでよく行くのですが、今作で表現者の苦悩を知ったあとでは、見る目がだいぶ優しくなりそうです。
さて、本作は芥川賞の候補作に選出されているので、ここで受賞予想もしておきましょう。前回の候補作「母影」に比べて、本作はアーティストが主人公であり、尾崎さんにとってより身近な世界が舞台となっています。その分、かなり生々しい描写は、評価されそうです。
懸念点は、後半の無観客ライブの設定がやや無理やりすぎて呑み込みにくいこと。それと、風景描写が少なく、作品の世界観が広がっていきづらいことかもしれません。例えば芥川賞を受賞した又吉直樹さんの「火花」は、風景描写が巧みに取り込まれていることで、作品に奥行きが感じられました。これらの懸念点がどう働くかで、評価が分かれそうです。
受賞予想:△(大穴)
(全候補作を読み終えた段階でもう一度予想してみます)
【みんなの感想やレビュー】ラストシーンが高評価!
続いて、読者ががSNSやレビューサイトに投稿した感想や口コミを紹介します。
芥川賞候補を少しずつ読み始めている。
掲載時から早く読まなければと思っていた尾崎世界観『転の声』。突き刺さる面白さのある作品だったので、ぜひ読んでほしいと思いながら投稿している。ラストの一頁の描写の美しさに思わず少し涙が出たけど、それは私も馬鹿だったからか。
— 葉月 (@w__ya) June 26, 2024
尾崎世界観さん『転の声』(文學界)、変だけど本当にあるかもしれない…という設定がだんだんゆきすぎていく感じと、エゴサを通したSNSの声やライブでのお客さんをひとりずつほどいていくような描写がとっても濃厚でおもしろかったです。尾崎さんにしか書けないなあといろんな箇所で思いました。 pic.twitter.com/Gg6y5TqWeS
— 三好愛 (@344ai) May 8, 2024
尾崎世界観【転の声】読了。
Xの民がこの世界を動かしてる。
ラストも良い!本質を見失わず突っ走れ。 pic.twitter.com/2kkg9lmrUk— tiina (@tiina37839395) June 26, 2024
文學界2024年6月号掲載の尾崎世界観『転の声』、「おもしろい」を超えて「すごい」やつだ、これ。「チケットの転売」をテーマにした仮想現実的なフィクションで、「今ライブの現場にいるバンドマンである」という意味でも、文才や発想力や「虚に実を混ぜる」能力の点でも、尾崎にしか書けない小説。 pic.twitter.com/KJ4Ph4CBBz
— 兵庫慎司 (@shinjihyogo) May 16, 2024
まとめ:「転の声」は転売が優位な世界での表現者の苦悩が描かれた小説だった
いかがでしたか?「転の声」の特徴を以下にまとめました。
・第171回芥川賞候補作(受賞予想は△:大穴)
・転売ヤーが優位な世界という設定が見事
・喉が不調で表現者の「声」と、世間の「声」に揺れる表現者の苦悩が描かれる
以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!
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