今回は小砂川チトさんの小説「猿の戴冠式」のあらすじや感想を紹介します。ボノボと人間のシスターフッドとして注目を浴びる一作。本作の魅力や、タイトルの意味、ラストシーンのネタバレ考察、さらに芥川賞の受賞予想も合わせて行います。ぜひ、最後まで読んでみてください。
【第170回芥川賞候補作】小砂川チトさんの小説「猿の戴冠式」とは
書名 | 猿の戴冠式 |
作者 | 小砂川チト |
出版社 | 講談社 |
発売日 | 2024年1月19日 |
ページ数 | 144ページ |
初出 | 『群像』2023年12月号 |
作者の小砂川チトさんは、群像新人文学賞を受賞した「家庭用安心坑夫」でデビュー。同作は芥川賞の候補作にも選出されました。今回紹介する「猿の戴冠式」は、デビュー二作目であり、さらに第170回芥川賞の候補作に選出されています。
「猿の戴冠式」は、レース中のある出来事により引きこもりになった競歩選手・しふみが、動植物園にいるボノボ・シネノと出会い、魂をシンクロさせていく異色のシスターフッドです。現実と妄想が入り混じった作風が魅力として挙げられます。
※「猿の戴冠式」は以下に当てはまる人におすすめ!
・動物園の動物に感情移入したことがある人
・現実と妄想が入り混じった不思議な世界観を味わいたい人
・第170回芥川賞の候補となった話題作をチェックしたい人
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3分で分かる「猿の戴冠式」のあらすじ【※ネタバレなし※】
競歩選手の瀬尾しふみは、ある試合でトラブルを起こし、そこから引きこもりになっていた。エゴサーチをして批判的な意見を読んで悩んでいるしふみは、セラピストとの面会の中で自身の発育が遅かったことも思い出す。
そんなしふみは、ある動物番組を見ているときに、自分とよく似たボノボが目に留まる。
あれはおねえちゃんだ
引用:「猿の戴冠式」本文より
そう感じたしふみは、動植物園に向かう。そこにいたのは、シネノという名前のボノボだった。しふみとシネノの間には二人しか通じないあるコミュニケーションの方法があった。
やがて、シネノは動植物園から抜け出す。脱走を伝えるニュース番組を聞いていたしふみは、「すみやかにヒナンするよう」という呼びかけを、避難ではなく非難の意味だと勘違いする。
しふみは何度もシミュレーションする。しふみは、なによりもまず、シネノになりきってみる必要があったのだ……。
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「猿の戴冠式」のネタバレ解説&考察まとめ
ここからは「猿の戴冠式」の魅力を深掘りするために、タイトルの意味、作品の魅力、ラストシーンのネタバレ考察などを行います。
前半のシネノ視点の話はどこまでが現実?
本作の前半は、ボノボのシネノ視点で話が展開していきます。ボノボが人間らしい感性を持っており、不思議な読み心地が楽しめるでしょう。
普通に読めば、これはしふみがシネノになりきった妄想の話といえます。ただ、作者の小砂川チトさんは、デビュー作の「家庭用安心坑夫」にもみられたように、現実と妄想をうまく混じらせた世界観を描くのが特異な作家です。本作もどこまでが現実で、どこまでが妄想か、その境界が曖昧な点がひとつの魅力といってよいでしょう。
タイトル「猿の戴冠式」の意味は?ラストシーンからネタバレ考察
タイトル「猿の戴冠式」を象徴するシーンは物語後半に登場し、特にラストではまさしく戴冠式の場面が描かれています。ややネタバレとなるので、それでも大丈夫な人だけ下記をクリックして読んでみてください。
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ラストシーンは脱走中だったボノボが捕獲された場面が描かれます。しふみは洗濯ネットに入れられたシネノが両手をあげて、まるで戴冠式が今まさに行われようとしていたと感じるのです。
いまあなたの王冠がわたしに、わたしの王冠があなたにさずけられたも同然だった。このまなざしはすでにもうどちらのものだか、見分けがつかなかったから。
引用:「猿の戴冠式」本文より
まず、’王冠を授けることは、失った尊厳を取り戻す意味合いを持っていると思われます。取り戻すというより、もはやもっと強い意味合いでいろんな経験を乗り越えたからこそ報われるべきだというくらいの気概もあるのかもしれません。
最後に引用した記述からも、しふみはシネノに自己投影をしているのは明白で、しふみはシネノを通じて、またアスリートとして再起しようとしているように描かれています。
「猿の戴冠式」を読んでみた感想
ここからは「猿の戴冠式」を読んでみた感想を書いていきます。また読者のレビューも合わせてまとめました。
【筆者の感想】地の文にも確かな描写力がある
作者・小砂川チトさんのデビュー作「家庭用安心坑夫」が好きで、芥川賞を受賞してほしいなと思っていました。現実と妄想が入り混じった世界観を構築するのが見事で、今作でもそんな作家の魅力が存分に感じられました。
特に後半から文体に勢いがあり、何度もリフレインさせてリズムを作るなど、特異な世界観の描写だけでなく、しっかりと地の文を書く強さがあるなと感じます。たまに感じられるユーモアセンスもうまいなと感心させられました。
本作は第170回芥川賞の候補作にも選ばれていますが、はたして受賞はあるのでしょうか。猿と人間のシスターフッドを見事に作り上げている点は、大きく評価されるでしょう。こんな小説、今まで読んだことありませんでした。
一方で構成の点でややマイナスな評価に繋がりそうな点もあります。前半がボノボ視点で描かれるのですが、しふみが競歩選手であり挫折しているという点の説明が乏しく、やや読者に不親切なのかなと感じました。もう少しヒントになる描写もしくは、先にしふみ主体の章があってもよかったのかなと。
また、前作が妄想の場面がうまく物語に組み込まれ、疑似家族を作り上げている点も不気味でスケール感がありよかったのですが、それに比べて今作はスケール感がありそうで意外と狭いとも感じます。
そう感じる背景は、現実と妄想の描写が近すぎることが挙げられるのではないでしょうか。しふみとシメノがシンクロし過ぎて、小さくまとまってしまっている印象があります。その点が気になるので、本命にはなかなか推しきれないという所感です。
受賞予想は対抗(〇)にしておきます。
【みんなの感想や評価】勇気と希望をもらえる作品
続いて、読者がSNSに投稿した感想もいくつか紹介します。
小砂川チト「猿の戴冠式」#読了
競歩の選手であるしふみはある事件を起こして謹慎中。動物園にいる猿のシネノは言葉を話せるように実験された過去を持つ。この2つの動物は互いにシンクロして個ではなく母に戻ることで双方の傷を埋めていく。しかし豪雨の日にシネノが脱走して…。対象関係論的な世界。 pic.twitter.com/94QK46wT30— つかっちゃん読書垢@純文学ユーチューバー (@book_tsukatsu) January 2, 2024
小砂川チト『猿の戴冠式』#読了
これはかなり勇気と希望をもらえる作品なのでは、と思った。
「自分は他のやつらとは違う」とみんながそれぞれ思っていたとしても、わたしたちはわたしたち自身の特別な王冠を人から貰うのではなく自ら戴くことができるいきものなのだから。第170回芥川賞候補作。 pic.twitter.com/3OXPgCTqhn
— マヤ@文学淑女 (@Mayaya1986) December 28, 2023
猿の戴冠式/小砂川チト #読了
面白かった。人間の女性と類人猿ボノボの精神的な交流。視点の移り変わりや、どこまでが現実でどこまでが想像なのかわからないふわふわとした空気感が良い。いい子のかんむりは/自分で/自分に/さずけるもの。 pic.twitter.com/UbDcxo0El6— りま@読書 (@rima_reading) December 22, 2023
小砂川チト「猿の戴冠式」
誰かが決めた軸に沿って生き、誰かに教えられた言語を使って会話をして、通じ合えたと思って嬉しくなって、自分自身が解釈したことを、まごう事なき正解のように語り、賞賛し、批判して、抹殺して、エンターテインメントとして消費して、それを正義だとか何だとかーー#読了 pic.twitter.com/xcuY7bUmlp— 【ひとりビブリオバトル】マイス (@thsht_bb) January 2, 2024
まとめ:「猿の戴冠式」はボノボと人間の異色のシスターフッドだった
いかがでしたか?「猿の戴冠式」の特徴を以下にまとめました。
・第170回芥川賞候補作
・ボノボと人間がシンクロしていく描き方がおもしろい
・現実か妄想か分からない独特の世界観がある
以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!
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