第169回芥川賞候補作に選ばれている、乗代雄介さん「それは誠」はもうチェックしましたか?今回は本作のあらすじや感想を紹介したあとに、タイトルの意味、ラストシーンのネタバレ考察などを行います。
【第169回芥川賞候補作】乗代雄介の小説「それは誠」とは
書名 | それは誠 |
作者 | 乗代雄介 |
出版社 | 文藝春秋 |
発売日 | 2023年6月29日 |
ページ数 | 184ページ |
初出 | 『文學界』6月号 |
「それは誠」の主人公は、高校二年生の僕(佐田誠)。複雑な家庭環境で育った僕が、修学旅行の自由行動の日に仲間を巻き込んで、おじさんに会いに行くという、青春ストーリーです。
作者の乗代雄介さんは、これまで「最高の任務」「旅する練習」「皆のあらばしり」で3度にわたり芥川賞の候補となっており、今作「それは誠」で4度目の芥川賞候補作品に選出されました。
※「それは誠」は以下に当てはまる人におすすめ!
・高校生たちの青春ストーリーを読みたい人
・複雑な環境で育った人
・第169回芥川賞の候補となった話題作をチェックしたい人
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3分で分かる「それは誠」のあらすじ【※ネタバレなし※】
高校生2年生の僕(佐田誠)は、修学旅行から帰った翌日に、その旅行の思い出を日記のような形で記そうとしている。東京への修学旅行で僕らはちょっとした冒険をした。
僕が学校を休んだ日に、修学旅行の班が決まっていた。班長の井上奈緒、特待生の蔵並研吾、男子から人気のある小川楓、吃音を持つ松帆一郎など、妙なメンバー7人で組まれた班だった。
自由行動の日に何をするか、僕らは話し合った。みんなが行き先の候補を出し合う中、僕は「うらわ美術館」を提案した。さらに「日野」に「勝手に一人で行く」と話した。
みんなからなぜ「うらわ美術館」に行きたいかと聞かれ、僕は亡くなった母親が好きだったからと答えた。僕はパソコンの画面上に文字を打ち込んで、自分の家の事情を明かした。僕が日野に行きたい理由は、おじさんに会いたいからだとも伝えた。
計画を立て先生から受理されたものの、集団行動を義務付けられている自由行動で、僕が単独行動をするのを嫌がる者がいた。特待生の蔵並だ。もしもの時に連帯責任を取らされるのが嫌らしい。また、松も僕についてきたいと言っている。
修学旅行で僕らはどうなるのか?僕はおじさんに会えるのだろうか?高校生たちの煌めく冒険が始まった……!
「それは誠」のネタバレ解説&考察まとめ
ここからは「それは誠」の魅力を深掘りするために、タイトルの意味、作品の魅力、ラストシーンのネタバレ考察などを行います。
煌びやかなイメージが伝わる風景描写が見事
作者の乗代雄介さんは、風景描写に定評がある作家です。これまでの作品だと特に「旅する練習」も優れた風景描写などが評価され、同作で第34回三島由紀夫賞および第37回坪田譲治文学賞を受賞しています。
今作「それは誠」にもハッとさせられるような風景描写が出てきます。一か所だけ引用しましょう。携帯電話で話していた誠が、ある感謝の気持ちを伝えられる場面です。
言葉が首筋を這って、耳の後ろに回りこんでいくような感じがした。瞬間、道を下ってきた車のライトに背後から照らされて、僕たちの影が足元からふいにのびた。
引用:「それは誠」本文より
いかがでしょうか。みなさんもぜひお気に入りの表現箇所をぜひ見つけてみてください。
タイトル「それは誠」の意味とは
タイトルの「それは誠」の、「誠」とは主人公の名前から来ているとはすぐ気づくと思うのですが、「それは誠」というフレーズ自体はどんな意味なのでしょうか。ネタバレを含むので、この続きが知りたい人は以下をクリックしてみてください。
ネタバレしていいからタイトルの意味を知りたい方はこちらをクリック!
主人公の僕は、最後におじさんと出会うことができました。僕は伝えたいことを話した後に、仲間の高校生を置いてその場を去るのですが、その仲間が言伝のようにしておじさんから聞いたフレーズが「それは誠」だったのです。
おじさんは吃音を持っているという大きな特徴があり、そのことが本作の主題にも大きくかかわってきます。「それは誠」はそんなおじさんが僕が小さいころによく歌ってくれた曲に出てきた歌詞の一節でした。なお、おじさんは歌うときには吃音は出なかったそうです。
ちなみに「それは誠」が歌詞に登場する曲は実在しており、その曲とは奥田民生の「花になる」です。「それは誠」の後に「強い男」と続き、自分自身を鼓舞するようなメッセージソングとなっています。本作のテーマソングのようにして、聞いてみるのもいいでしょう。
ラストシーンのネタバレ考察|僕がおじさんに会いに行った本当の理由とは
ラストシーンについて、考察していきます。おじさんと会えたかどうかなど、物語の核心に迫っているので、一度作品を読んだ人だけ以下をクリックしてみてください。
ネタバレしていいからラストシーンの考察を知りたい方はこちらをクリック!
僕はおじさんに会うことができ、そこで実はおじさんが吃音を持っていたこと、僕が松のことをよく気にかけるのはおじさんの存在があったからだと分かります。僕は松の母親から感謝の気持ちを述べられ、そこでこう思うのです。
僕はこの世界のために孤独なんだ。そう信じることで、何かし続けるなら、僕は世界を、世界は僕を、共に支えることができるだろう。それをやさしいと勘違いするなら、勝手にすればいい。
引用:「それは誠」本文より
さらに最後の場面、電車で小川と会話をするシーンで、小川から実は僕が笑っている写真を何枚撮れるか競っていたと知らされます。僕は何かこみあげてくるものを感じたうえで、こう明かします。
僕は自分の知らないところで何かが起こってるのだけがうれしいんだ。それでずっと一人でも平気なんだ。
引用:「それは誠」本文より
[考察]
最後に引用した箇所は、「僕はこの世界のために孤独なんだ」という箇所を踏まえた一つの答えを明示していると思われます。
また、さらに大きくいうと、これは作家という職業特有の矜持ともとらえられるかもしれません。作品が作者から手放されたとき、それが読み手にどう読まれ、どう感じられるか。それを作者は感じられるからこそ、作家を続けているともとれるのではないでしょうか。
「それは誠」を読んでみた感想
ここからは「それは誠」を読んでみた感想を書いていきます。また読者のレビューも合わせてまとめました。
【筆者の感想】伏線回収がすばらしい!
修学旅行に行った誠たちの班は7人とも個性的で、最後まで楽しめました。誠がおじさんのところへ行く行動を蔵並が認めるきっかけとなったできごとも高校生らしくてほほえましい気持ちになりました。
また伏線の回収の仕方もうまいなと感じました。ラストシーンにつながる流れや、冒頭のパソコンで文字を打ち込んでいる様子もそうやって後から効いてくるのかぁとただただ感心しました。
また、今作は第169回芥川賞の候補作に選ばれていますが、この記事を書いているのはまだ受賞作発表前なので、少し予想を含めた感想も記しておきましょう。
候補回数でいうと最も多く、受賞に一番近い作家ともいえます。ただ結論からいうと、芥川賞受賞は少し難しいのかなと思います。純文学というより、エンタメ的要素が強くて、物語がやや都合よく進みすぎている気もするからです。
もしかしたら乗代さんは、長編か連作短編を書けば、そちらで評価されて後々は直木賞を受賞するかもしれません。それほどストーリーテリングと心理描写、風景描写に優れた作家だと思います。
【みんなの感想や評価】苦しくて楽しい読み心地だった
続いて、読者がSNSに投稿した感想をいくつか紹介しましょう。
すっごく良かった…。
誠ら4人は修学旅行を抜け出して、叔父さんに会いにいく。その日の出来事を、誠は思い返す。溺れている人、一緒に溺れる人、助け出す人。行為の真意はわからない。でも、誰かがそれを優しいと思ったのなら、誰かがちょっぴり救われたなら。きっと、それは誠。 pic.twitter.com/mHlVYVtDfY— とも@読書垢 (@tomobook_panda) July 6, 2023
それは誠#読了
行動の真意は人にはわからない。心からの善意ではなくても、救われている人がいるならそれでいいよね
とても素敵な作品だった!
ただのクラスメイトから友達へと変化していく空気感がしっかり伝わってきて懐かしかった、ラストもとてもいい
グッときた!#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/lAtkwfpjr0— オーさん@読書 (@W6kZ3) July 9, 2023
乗代雄介先生「それは誠」読了。
修学旅行を抜け、2年前に別れた叔父に会いに行く主人公たちの姿を描く。青春って爽やかなだけじゃない。
鬱屈さや作為的な面も当然あって、驚くぐらいの無垢さや単純さもある。
そんな全てが詰まってて、“苦しくて楽しい”読み心地だった。先生の他作品も読みたい。 pic.twitter.com/Z7DRwIVwiS
— K (@K73127065) July 2, 2023
#乗代雄介 さんの #それは誠 を読みました。修学旅行中の自由行動の1日を私的な理由で使うことにした主人公と同じグループの高校生たちの様子を描いた作品です。やり取りの中の巧みな描写や区別の仕方に、細かな技術を感じます。今月発表される #芥川賞 の結果も楽しみになりました。#読了#文藝春秋 pic.twitter.com/RcmEXmGH8n
— くるぶし📖 (@kurubushi7) July 2, 2023
まとめ:「それは誠」は風景描写や心理描写が巧みな青春小説だった
いかがでしたか?「それは誠」の特徴を以下にまとめました。
・第169回芥川賞候補作
・高校生の修学旅行を舞台にした冒険小説
・登場人物の高校生がみな個性的な青春ストーリー
・伏線回収がすばらしく、ラストには感動させられる
以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!
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