今回は『嘘と隣人』のあらすじや感想を紹介します。人気作家・芦沢央さんによる第173回直木賞候補作。タイトルの意味や、ラストシーンのネタバレ考察、ドラマ化される平良正太郎シリーズの詳細などもまとめました。
【第173回直木賞候補作】芦沢央の小説『嘘と隣人』とは
書名 | 嘘と隣人 |
作者 | 芦沢央 |
出版社 | 文藝春秋 |
発売日 | 2025年4月23日 |
ページ数 | 256ページ |
作者の芦沢央さんは、2012年に「罪の余白」で第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞して作家デビュー。これまで『火のないところに煙は』『汚れた手をそこで拭かない』『神の悪手』など、ミステリ小説を中心にさまざまな作品を発表してきました。
<『カインは言わなかった』公式>あらため、<『噓と隣人』>公式に生まれ変わりました!
発売したばかりの芦沢さんの最新短編集『噓と隣人』、よろしくお願いします。https://t.co/Gm2eiI5w5a
— 『噓と隣人』(芦沢央)公式 (@nono_cain) May 16, 2025
『嘘と隣人』は、退職した元刑事の平良正太郎が主人公。妻や娘の家族と穏やかな隠居生活を送る予定だったが、ふとした時に現役時代を思い出したり、思わぬトラブルに巻き込まれたり、隣人から相談事をされたりと、元刑事ならではの日々を送っていきます。
※『嘘と隣人』は以下に当てはまる人におすすめ!
・身近で社会的なテーマのミステリー小説を読みたい人
・イヤミス系の小説が好きな人
・第173回直木賞の候補となった話題作をチェックしたい人
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3分で分かる『嘘と隣人』のあらすじ【※ネタバレなし※】
『嘘と隣人』は、5編の短編からなる小説です。どの作品も、元刑事の平良正太郎が主人公ですが、それぞれの話は独立しています。各作品のあらすじを簡単に紹介しましょう。
かくれんぼ
正太郎は歯医者の帰りに「司くんのおじいちゃんですよね?」と話しかけてきた女性に、自転車を貸してくれと頼まれた。その女性は娘・歩美のママ友で間違いないようだが、彼女にはある秘密があった。
アイランドキッチン
家を買おうと考えた正太郎は十一年前の事件を思い出す。当時、自殺したとされた豊原実玖を巡るトラブルだ。ストーカー被害に端を発した事件だったが、正太郎はそのなかで当時見落としていた側面があると気づく。
祭り
引っ越し作業中に、正太郎は六年前の事件を思い出す。引越センターで働くベトナム人の実習生が殺害された事件だ。事件の真相とは? そこにはベトナム人が働く苦しい環境が関係していた。
最善
妻・澄子が登戸駅乳児転落事件のニュースを見ている。実は同時刻に起きた痴漢被害で友人の夫が逮捕されたという。痴漢被害について調査していくなか、事態は思わぬ方向に転がっていき……。
嘘と隣人
同じマンションに住む住人から、篠木という知人がSNSトラブルに巻き込まれていると相談を受けた。篠木の投稿にアンチコメントを付けてくる者がいて、嘘だと断言してくる。アンチコメントの犯人は誰なのか? そして、その投稿が思わぬ波紋を呼び……。
『嘘と隣人』の主な登場人物まとめ
『嘘と隣人』の主な登場人物についてまとめました。ネタバレにならない程度で簡単な説明も添えています。
【全編共通】
・平良正太郎:元刑事。退職して気ままな隠居生活を送っていたはずだが……
・澄子:正太郎の妻
・孝則:正太郎の息子
・歩美:正太郎の娘
・司:正太郎の孫
【かくれんぼ】
・柴崎:正太郎が慕っていた先輩刑事
・リョウマ:司と同じ保育園に通う子ども
・リョウマの母:正太郎に自転車を貸してほしいと頼む
・日浦陽平:殺人未遂容疑で逮捕された男
【アイランドキッチン】
・山中昭弘:宅地建物取引士
・豊原実玖:自殺したと思われる28歳OL
・有吉勝吾:受注ミスの商品を届ける途中に脳卒中で死亡
・有吉希美:勝吾の妻。実玖に怒り、執拗に抗議する
・原口家:豊原が住んでいたマンションに住む家族
【祭り】
・松島光夫:死体で発見された認知症の男
・阮文勝:死体で発見されたベトナム出身の男
・阮文徳:阮文勝の同僚。事件後に失踪した
・河合浩次:引っ越しセンターの現場リーダー
・中川:刑事
・大崎朋子:阮文徳の元実習先のオーナー
・樋口俊:引越しセンターのバイト大学生
【最善】
・水口沙知:正太郎の妻の友人
・水口大悟:沙知の夫。痴漢で逮捕された
・野田一志:痴漢から逃げた男が出した名刺の人物
【嘘と隣人】
・岡野:702号室の住人。篠木の件を相談してきた
・篠木理絵:SNSトラブルに巻き込まれた女性
・吉羅:正太郎の元同僚で、現在は探偵
・林:現役の警察官
『嘘と隣人』のネタバレ解説&考察まとめ
ここからは『嘘と隣人』の魅力を深掘りするために、タイトルの意味、ラストシーンのネタバレ考察、シリーズドラマ化の話題の詳細などを行います。
タイトル「嘘と隣人」の意味とは?
本作は5つの短編からなる小説ですが、どの作品も隣人がついた嘘が物語を動かす大きな鍵となっています。善良そうに見えて、実はそんな一面があったのだと知ると、背中が凍るような恐ろしさを感じるでしょう。
ただ、そういうと、一見イヤミスのような小説かと思われるかもしれませんが、そういった小説とはまた違った魅力もあるように感じます。人間の違う一面を知ることで、見方や捉え方が変わることもあると気づかせてくれる一面がおもしろい小説ではないでしょうか。
『嘘と隣人』のラストシーンをネタバレ考察!
『嘘と隣人』のなかでも「最善」のラストシーンについて、考察した内容を記していきます。ネタバレとなるので、最後まで読んだ人だけチェックしてみてください。
ネタバレしていいからラストシーンの考察を知りたい方はこちらをクリック!
【ラストシーンまでのあらすじ要約】
水口大悟は実は登戸駅乳児転落事件の犯人だった。痴漢で捕まった方が、罪が軽くなるととっさに判断したため、捕まっていた真犯人を逃がして、自分が痴漢したと名乗り出て、捕まったのだ。
【考察】
5作品のなかでは、最も結末が予想しやすい短編だったかもしれません。ただ、痴漢側の犯人を追っていくうちに、乳児転落事件の結末まで分かるように辿る場面に緊迫感があり、楽しめました。
また、正太郎目線で親切心のつもりで調べていたつもりが、結果的に妻の知人の家族を壊すことになったという、ちょっとした葛藤が描かれているのも良かったです。
さらに、細かな点でいうと、結末部分で容疑者である水口大悟の名前が明かされる(それまでは水口沙知の夫としか書かれていなかった)のも、工夫されているなと感じました。
平良正太郎が登場するドラマや続編も要チェック!
本作の主人公である平良正太郎は、芦沢央さんのほかの小説にも既に登場しています。それが2022年に発表された『夜の道標』。現役時代の正太郎が描かれており、第76回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門を受賞しました。
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さらに、『夜の道標』は2025年9月よりWOWOWにてドラマ化が予定されています。主演は吉岡秀隆さんです。また、続編である「コールバック」が、オール讀物2025年7・8月号に掲載されているので、ぜひそちらも併せてチェックしてみてください。
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『嘘と隣人』を読んでみた感想
ここからは『嘘と隣人』を読んでみた感想を書いていきます。また読者のレビューも合わせてまとめました。
【筆者の感想】退職した元刑事という設定がおもしろい!
筆者が感心したのは、主人公が退職した元刑事という設定です。穏やかな隠居生活を送っているからこそ、人間らしい生活を経て感じる物の見方や捉え方ができるようになったのでしょう。事件を振り返り、新たな側面に気づくというのがおもしろかったです。
昭和の現役バリバリの緊張感ある現場とはまた違った展開や空気感が現代らしさを表しており、ミステリ小説の新たな境地になる可能性を感じました。
直木賞の選考会も上記の点が評価されるのではないかと思います。ただ、その企みが成功しているかというと、もっとできることがあるのではないかと注文を付けられるかもしれません。
さっそく『オール讀物』で続編も発表されているので、今後、退職した元刑事ならではの価値観や捉え方を軸により個性的な世界観が確立されていけば、受賞が近いのではないでしょうか。
受賞予想:ー(なし)
(全候補作を読み終えた段階でもう一度予想してみます)
【みんなの感想や評価】悪意に触れてヒヤッとする
続いて、読者がSNSやレビューサイトに投稿した感想や評価を紹介しましょう。
嘘と隣人/芦沢央
定年退職した元刑事の平穏な日常に思いかけない事件が降りかかるミステリ連作短編集
二転三転する展開でどれも想像の上をいく結末で面白かった!
嘘の裏側に隠された人間の弱さや悪意に触れてホラーとは別の怖さと僅かな後味の悪さが癖になる作品#読了#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/9pCl3t4kev— さらさ🕊️読書垢 (@sras_book) June 15, 2025
#読了 嘘と隣人
定年退職した平良正太郎。日常にある、小さな悪意。かくれんぼ、祭り、最善、がすき。最善は特にひやっとする。いろんな形の悪意があって驚く。きっと現実にも気付いてない悪意がたくさんあるんだろうな。 pic.twitter.com/gHI46yM7MK— みょん_読書映画 (@Xxxxx90789834) June 23, 2025
どの話も最後は思わず唸ってしまうくらいの「意外な真実」がありますが、特に最後の、本のタイトルにもなっている「嘘と隣人」では、SNSでのちょっとした発言が、思いもよらぬ場面で、そして思わぬ形でいろんな人に深く影響することが分かり、唖然としてしまいました。
引用:Amazon
芦沢央『嘘と隣人』退職した刑事のもとに寄せられる事件。元刑事として推理したり助言したり。連作短編のミステリー。真相はどうなのかと興味をひかれながらぐいぐい読んだ。人間の持つ自己本位な部分がちょっぴり怖かった。#読了 pic.twitter.com/zNs8bSWAJS
— ミサ (@hyokofuji) June 29, 2025
まとめ:『嘘と隣人』は隣人の嘘が暴かれるミステリ小説だった
いかがでしたか?『嘘と隣人』の特徴を以下にまとめました。
・第173回直木賞候補作(受賞予想はー:なし)
・隣人の嘘から始まる展開がおもしろい
・主人公の元刑事という設定が見事
以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!
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