3分で分かる『逃亡者は北へ向かう』のあらすじ&ネタバレ解説・感想まとめ【第173回直木賞候補作】

今回は『逃亡者は北へ向かう』(著:柚木裕子)のあらすじや感想を紹介。直木賞の候補作なった本作について、タイトルの意味や、ラストシーンのネタバレ考察(解説)、登場人物のまとめ、直木賞の受賞予想などをまとめました。

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【第173回直木賞候補作】柚月裕子さんの小説『逃亡者は北へ向かう』とは

書名 逃亡者は北へ向かう
作者 柚月裕子
出版社 新潮社
発売日 2025年2月27日
ページ数 384ページ

作者の柚月裕子さんは、岩手県釜石市出身の小説家。2008年に『臨床真理』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞して、デビュー。これまで『検事の本懐』『孤狼の血』『盤上の向日葵』『ミカエルの鼓動』などのヒット作を多く発表してきました。

『逃亡者は北へ向かう』は、東北を襲った大震災の直後に、二つの殺人事件を起こした青年の逃亡を巡る物語です。不運な人生を送った青年視点の逃亡劇に加えて、家族を失いながらも事件を追う刑事や、行方不明になった息子を捜す父などの視点を交えて描かれています。

※『逃亡者は北へ向かう』は以下に当てはまる人におすすめ!
・東北大震災の被害を身近に感じている人
・生きる意味を問うクライムサスペンスを読みたい人
・第173回直木賞の候補となった話題作をチェックしたい人

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3分で分かる『逃亡者は北へ向かう』のあらすじ【※ネタバレなし※】

幼い頃に家族から見捨てられて育った22歳の工員・真柴亮は、同僚の工員と行ったクラブで半グレの男たちとの喧嘩に巻き込まれる。病院へ移った亮は、刑事の陣内康介から喧嘩を受けて取り調べを受けた。

東北で大規模な震災が起こり、多くの人が行方不明となった。陣内の娘も同様に居場所が分からなくなっていた一人だ。しかし、同時に殺人事件が起き、そちらの捜索も余儀なくされる。陣内は娘の捜索より事件の調査を優先したことで、妻から恨まれてしまう。

また、漁師の村木圭祐も、妻と息子の行方を捜していた。やがて、妻が遺体となって見つかる。しかし、息子の直人はまだ発見されていない。一縷の望みをかけて、圭祐は直人を捜し続ける

警察関係者が追っている殺人事件の犯人は、真柴亮だった。亮は喧嘩した半グレの男と再会し、殺すつもりはなかったが、結果的にその男を死なせてしまう。しかも逃亡中に出会った警察官も撃ってしまい、2人の殺人事件を起こした犯人となった。

人を殺してしまった亮は、一枚の手紙をもとに、北へと向かう。逃亡中に家族と離れた無口の少年と出会うが……。さらに、刑事の陣内は亮の行き先について、ある考えが浮かび、別の調査も始める。

事件を追う者、父を追う者、息子を追う者。それぞれが行きついた先にあったものとは……。

『逃亡者は北へ向かう』の主な登場人物まとめ

『逃亡者は北へ向かう』の主な登場人物についてまとめました。

【警察関係者】
陣内康介:刑事。本作の語り手の一人。娘を震災で亡くすが、娘の捜索より仕事を優先したことで妻から恨まれている
・郷田剛:岩手県警本部捜査一課長
・目黒:刑事。指揮の補佐役を務める
・藤島:刑事
・里館:県警本部の管理官。真柴亮逃亡事件の指揮をとる
・大綱昭二:会津山志田駐在所の巡査長。亮から撃たれ、死亡
・理代子:陣内康介の妻。娘より仕事を優先した夫を憎む
・麻利:陣内康介の娘。津波により亡くなった

【真柴亮の関係者】
真柴亮:22歳の工員。本作の語り手の一人。一般人男性と警察官を殺害して逃亡している重要指名手配犯
・甲野明:亮と同僚の工員。半グレの男たちと喧嘩した
・奥下和哉:亮たちと店で喧嘩した半グレの男。その後、亮に殺された
・赤重智久:喧嘩の際に亮が顔を傷つけた男。入院中に津波で亡くなった
・高田大樹:亮たちと喧嘩になった半グレの男
・日沼正行:真柴亮の父親。飲酒運転事故を起こし、その後家族を見捨てる

【村木圭祐の関係者】
村木圭祐:漁師。本作の語り手の一人。震災で妻と息子と離れ離れになる
・朋子:圭祐の妻。津波により亡くなった
・直人:圭祐の息子で、無口な少年。震災で行方不明となる

『逃亡者は北へ向かう』のネタバレ解説&考察まとめ

ここからは『逃亡者は北へ向かう』の魅力を深掘りするために、タイトルの意味、作品の魅力、ラストシーンのネタバレ考察などを行います。

タイトル「逃亡者は北へ向かう」の意味とは?

タイトルにある逃亡者とは、二つの殺人事件を起こした真柴亮を指していると考えられます。亮は受け取った手紙をもとに、北(宮城県から岩手県)へと逃げていきます。

彼がなぜ逃げているのか、震災の跡が残る道をどうやって逃げるのかといったところが、読みどころになってくるでしょう。

さらに、もう一つの読み方として、語り手の一人・陣内もある意味「逃亡者」といえるかもしれません。陣内は犯人を追う刑事ですが、津波で行方不明となった娘の捜索よりも仕事を優先したために妻から責められています。

妻からの非難を受け、家族の父としてどう生きるべきか、刑事としてどう生きるべきか、そんな自分自身のあり方を自問しつつも、それから逃れるようにして犯人を追っているように見えるのです。陣内が犯人を追い詰めるシーンで、どのような境地に至るのかも注目して読んでみてください。

『逃亡者は北へ向かう』のラストシーンをネタバレ考察!

本作では『逃亡者は北へ向かう』のラストシーンについて考察した内容を記します。ネタバレとなるので、最後まで読んだ人だけ以下をクリックして読んでみてください。

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【ラストシーンまでの大まかなあらすじ】
警察に追われ続けた亮は、最終的に直人を引き連れて避難所に立てこもる。父の日沼正行から預かっていた手紙を陣内から渡され、そこで幼い頃に父が家族を見捨てたのではなく、家族を守るために仕方なく行動していたこと、そして今の父の率直な想いを知った。

もともと避難所の者たちに危害を加えることなく、直人と新しい生活を考えていた亮だったが、最後は直人には父親のもとへ帰ってほしいと伝える。しかし、亮の行動が一般人に危害を与えようとしたと誤解され、SATから狙撃されて、命を落としてしまう。

陣内は、避難所で亮を追いつめていた際に、妻から電話がかかってくる。娘より仕事を許さないと言われつつも、死なないでとも言われる。もう誰にも死んでほしくないと言うのだ。

また、直人は圭祐のもとへ戻ってきた。前より話すようになって、二人の関係性が希望を表すようになり、物語は終わる。

【考察(解説)】
最後は、亮が死んでしまうというあまりにも悲しい終わり方でしたが、ひょんなことからとは言え、人を二人も殺して逃げていたため、そのまま捕まっていても極刑は免れなかったかもしれません。

それでも、作中で陣内が「救いは、ある」と言うように、救いを信じたい気持ちにさせられます。その救いとは作中では直人と圭祐の関係性にも象徴されていますが、それ以外にもあるのではないでしょうか。

本書の作者・柚木裕子さんは、震災で両親を失ったとのこと。本書を読んだ読者のなかで、大切な者を守りたくなる気持ちが強くなれば、救いに変わるのではないかという、作者の気持ちが込められているように感じます。

『逃亡者は北へ向かう』を読んでみた感想

ここからは『逃亡者は北へ向かう』を読んでみた感想を書いていきます。また読者のレビューも合わせてまとめました。

【筆者の感想】重苦しくも先が気になるクライムサスペンス

真柴亮の不遇な人生を知り、終始悲しい気持ちで読み進めました。また、筆者にも娘がいるので、小さな娘を震災で失う苦しみははかり知れません。さらに、生き残った者たちも苦しいという描写が、読んでいるこちら側のことを言っているのではないかという気さえして、心が重くなりました。

まず、ここまで感情を揺さぶってくる長編を書けるのがただただ凄いなと感じます。クライムサスペンスとしての趣もあって緊張感のある描写が続くため、重い中でも先が気になりますし、トータルしてこれがエンタメ作品としての資質を備えていると思います。

直木賞の選考会では、全体的なバランスでいうと、最初の取り調べのシーンがやや物足りなく、そのため、陣内が亮にこだわる理由にもう一つ共感しづらいところがマイナス評価になるかもしれません。

とはいえ、鬼気迫った文章と、これまでの作者が直木賞の候補作に何度も選ばれていて成長の跡が見て取れるところが評価されて、本作が受賞するのではないでしょうか。

受賞予想:◎(大本命)

【みんなの感想や評価】生々しい記憶を呼び起こさせる

続いて読者がSNSやレビューサイトに投稿した感想や評価をいくつか紹介しましょう。

生まれながらに、お父さんと何もかも、
すれ違い、愛されなかった思い込んだ
彼の人生があまりにも切ない。
最後に寄り添ってくれた、少年の人生が
幸せであってほしい。どれだけの人が、
かの東日本大震災で、涙を流しただろうか、
と今更ながら、思います。
引用:Amazon

まとめ:『逃亡者は北へ向かう』は震災と犯罪の苦しみを描いたクライムサスペンスだった

いかがでしたか?『逃亡者は北へ向かう』の特徴を以下にまとめました。

・第173回直木賞候補作(受賞予想は◎:大本命)
・東日本大震災を彷彿とさせる震災の惨さを描く
・緊張感のある描写で先が気になる物語

以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!

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