今回は恩田陸さんの小説『spring』に注目。本作のあらすじや感想を紹介しつつ、ネタバレ込みの考察(解説)、メインの登場人物・萬春(HAL)の魅力、映画化やドラマ化の可能性などの言及も行います。ぜひ最後まで読んでみてください。
【2025年本屋大賞候補作】恩田陸の小説『spring』とは
書名 | spring |
作者 | 恩田陸 |
出版社 | 筑摩書房 |
発売日 | 2024年3月22日 |
ページ数 | 448ページ |
恩田陸さんは、ミステリーをはじめ、青春小説、ファンタジー、ホラーなどさまざまなジャンルの作品を発表してきた実力作家です。これまで直木賞、本屋大賞、山本周五郎賞などの数々の文学賞を受賞しています。
【祝🎉】恩田陸さんのバレエ&振付家小説『spring』が2025年本屋大賞にノミネートされました✨🩰恩田さんから、ちょうど新しいメッセージが……
“『spring』は私にとって最高のエトワールです”
作家業30周年記念作品ともいえる本作。鮮やかに描かれた無二の天才ダンサーの姿をぜひ目撃して下さい📣 https://t.co/eQ5rvyv6ST pic.twitter.com/wsSsoq3t3I
— 筑摩書房 編集部・企画部 (@ChikumaHenshubu) February 3, 2025
『spring』は、天才振付家・舞踏家の萬春(よろず・はる)を巡る物語。バレエと出会った幼少時代から、仲間と切磋琢磨して成長していく青春期、そして振付家として集大成を迎える「春の祭典」の披露までの、成長を描いています。
※『spring』は以下に当てはまる人におすすめ!
・バレエに興味がある人
・『蜜蜂と遠雷』が好きだった人
・2025年本屋大賞の候補となった話題作をチェックしたい人
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3分で分かる『spring』のあらすじ【※ネタバレなし※】
天才バレエダンサーにして、その後振付家としても活躍する人物・萬春(よろず はる)。彼と関わった人から見た、その生き様とは?表現者としての凄さとは?
第1章 跳ねる
俺(深津純)は、バレエのワークショップに参加していた。このワークショップは、事実上のオーディションであり、一流のダンサーになるための重要なチャンスだ。
そこで俺はヤツと出会った。ゲスト講師のエリックにヤツは自分の名前の意味を聞かれ、「ten thousand spring」と答えた。俺はヤツと会ったとき、その目に惹き寄せられた。ヤツが何を見ているのかと聞いてみると、こう返ってきた。
この世のカタチ、かな。
引用:『spring』本文(16ページ)より
ワークショップの最終日、それぞれが課題を発表することになった。ヤツは発表のときに、俺を呼んだ。俺に協力してほしいことがあると言うが……。
やがて俺は一流のバレエダンサーとなり、ヤツは振付家としても成功のステップを踏んでいく。そんななか、俺とヤツは再会し、ヤツが俺にあてて振付をしてくれた。その作品は「ヤヌス」。公演の本番で俺はある真理にたどり着く。
第2章 芽吹く
私(久保稔)は、彼は美しい子供だったと振り返る。彼とは姉夫婦の子供である、春くんのことだ。もともとおとなしい子供だったが、彼にはずば抜けた観察力があり、不思議な魅力があると感じていた。
彼は姉と体操クラブに行ったが、興味は出たものの、自分の中で「カチッ」と鳴るものがなかったという。その帰り、彼はある運命の出会いを果たして……。
バレエを始めた瞬間、彼の胸は「カチッ」と鳴ったはずだ。
引用:『spring』本文(127ページ)より
これは彼がバレエに魅せられ、15歳で海を渡るまでの物語。バレエ教室を営む夫婦(セルゲイとつかさ)や、切磋琢磨した瀧澤美潮・七瀬姉妹と出会うことで、彼はまたさらに成長していった。
第3章 湧き出す
あたし(瀧澤七瀬)は幼少期の頃、春ちゃんと一緒にバレエを習っていた。間近で春ちゃんを見ていると、彼が本物のダンサーだと感じた。あたしは春ちゃんの踊りにメロディーを感じ、無意識で鼻唄を歌っていたんだ。
そんなあたしは、ダンサーを辞めて、作曲家となっていた。ある日、突然春ちゃんから電話がかかってきて、春ちゃんのバレエにオリジナルで曲を書くことになった。
まさかこの先、全幕ものまで一緒に作ることになるとは全然予想もしていなかった。
引用:『spring』本文(127ページ)より
そう、これは春ちゃんと一緒に作った作品『アサシン』ができるまでを振り返っていく物語だ。ダンサーのヴァネッサやハッサン、そして芸術監督のジャン・ジャメとの出会いも、それまでの過程を色濃くしていった。
第4章 春になる
俺(萬春)は、ダンサーのフランツと深い仲だった。しかし、同時に俺は彼の母親・ユーリエにも惹かれ、そしてフランツよりもさらに深い仲へとなっていく。
俺はこれまでを振り返り、さまざまな人との出会いややりとりが、ここまで自分を連れてきてくれたと振り返る。
永遠の夢でただひとつの恋、がフランツにとってのバレエなら、俺にとってのバレエは「すべて」だ。
引用:『spring』本文(337ページ)より
最後に、俺は自分の集大成ともいえる『春の祭典』を振付、パフォーマンスすることとなった。クライマックスで彼はまた多くの人を魅了していく。
『spring』のネタバレ解説&考察まとめ
ここからは『spring』の魅力を深掘りするために、タイトルの意味、作品の魅力、ラストシーンのネタバレ考察などを行います。
タイトル「spring」の意味は?主人公の名前・萬春(HAL)以外の由来も
タイトルの「spring」は直訳すると、「春」。作者の恩田陸さんはこの名を付けた理由について、インタビューで以下のように語っています。
クラシック・バレエにとってもコンテンポラリーにとっても「春の祭典」(ニジンスキー振付、ストラヴィンスキー作曲・1913年初演)は重要な作品だと感じていて、そのタイトルから。
引用:恩田陸 バレエ小説「spring」連載直前インタビュー|恩田陸「spring」連載直前インタビュー|恩田 陸
また、春は人が出会って踊りたくなるような季節だから、ほかにも「泉」や「バネ」などの複数の意味があるから、という点も、タイトルに繋がっているそうです。
また、本作の主人公の名前は、萬春(よろず はる)。なお、別名義でHALというのもありますが、これにも由来が明かされています。
「HARU」ではなく、「2001年宇宙の旅」の宇宙船のコンピューターの名、HALだという。
引用:「spring」恩田陸著|日刊ゲンダイDIGITAL
『spring』のモデルは?作中作は実話のオマージュ?
『spring』に登場するダンサーは、誰かモデルがいるのでしょうか?作者の恩田陸さんがインタビューのなかで、主人公の萬春には特定のモデルはいないと明かしています。
ただし、『spring』のページ下部(左下)にあるパラパラ漫画のシルエットは、東京バレエ団の生方隆之介さんと南江祐生さんがモデルとなっているそうです。
また、作中の劇については、実話のオマージュとなっているわけではなく、恩田さんの創作とのこと。
私が勝手に、妄想で作った作品です
引用:Web版ほぼ日通信WEEKLY ~恩田陸さんインタビュー~ 本を読むたのしみは。 vol.2 芸術に「納得」はない。(ほぼ日刊イトイ新聞)
かなり完成度が高い作品なので、むしろ恩田さんが書いた劇が実写化される可能性もありそうですね。
『spring』のラストシーンをネタバレ考察!
ここでは『spring』のラストシーンについて考察していきます。ネタバレとなるので、最後まで読んだ人だけ下記をクリックしてみてください。
ネタバレしていいからラストシーンの考察を知りたい方はこちらをクリック!
ラストのクライマックスは自身が振付した『春の祭典』を披露する場面です。踊る中で、萬春は、今まで出会った仲間たち、そして過去の自分を投影していきます。
踊ることに対してもさまざまな形容がなされますが、なかでも「踊ることは祈りだ」という表現が印象的でした。
本の帯に書かれている「俺は世界を戦慄せしめているか?」は、最後の1ページに登場するフレーズです。過去を振り返り、春にはいまだにその答えがつかめぬものの、ある境地にたどり着きます。それが最後の一文です。
俺はこの名に、一万もの春を持っているのだから。
引用:『spring』本文より
タイトルの「spring」に呼応する秀逸なラストですね。
『spring』は映画化・ドラマ化される?主役は誰なのか?
『spring』はさまざまなイメージを膨らませてくれる小説ですが、やはりバレエの踊りは映像でも見たいという人もいるのではないでしょうか。2025年2月時点では映画化やドラマ化の噂はありませんが、以前『蜜蜂と遠雷』が映画化されたように、今回も期待したくなりますね。
そこでもし映像化されたら気になるのが、主役を誰にするかでしょう。『蜜蜂と遠雷』では原作が天才ピアニストの風間塵が主人公の立ち位置だったのに対し、映画では松岡茉優さん演じる栄伝亜夜が主役に配置されました。
そう考えると、本作でも映画では萬春じゃない人物を主役にする可能性があります。ただ前作よりも今作の方が、主人公の内面が描かれているので、やはり今回は萬春が主人公のままかもしれません。
このあたりは原作と映画をどう変えるか、もしくは変えずに忠実にやるのか、といったところで物語の構造ががらっと勝ってくるでしょう。
『spring』の感想やレビューまとめ
ここからはSNSやレビューサイトに寄せられた『spring』の感想をまとめました。
#読了 恩田陸さん『spring』
本屋大賞ノミネート作 ちょうど読んでました
バレエの世界🩰
4人のモノローグで淡々と、しかし熱く語られる「春」について
天才達の世界で、悪役も大きな挫折もなく、互いにリスペクトしあい成長していく清々しい物語✨#本屋大賞2025 pic.twitter.com/hq8uxKWdrk— 空の上のゆず (@soranouenoyuzu) February 4, 2025
恩田陸『spring』
唯一無二のバレエ界の天才、萬春をかたる4つの物語。
実際のバレエ界の情報量の凄さもさることながら、(恐らく)オリジナルの舞台装置のアイデアとか振付とか、リアリティの厚みにも圧倒される。そしてそのバレエを文章だけで鮮やかに表現してしまうのだから本当に凄い…!#読了 pic.twitter.com/uqS8q3IcVH
— さつき 読書垢 (@satsukiread) February 6, 2025
バレエの入門書として役立つ。例えば、クラシック・バレエとコンテンポラリーとの違いを、素人にも分かりやすく説明している。パートナーを組んで男女2人で踊るときの当人たちの気持ちが、とてもよく想像されていて、あゝ、そうなんだ、という気持ちで納得できる。
引用:Amazon
spring/恩田陸#読了
恩田先生のバレエ愛とたくさんの知識が詰まっていてかなり読みごたえがあった。
バレエの知識が全くない私だけど、文字の向こうで踊るダンサーの姿が見えた。
恩田さんの表現力本当にすごい…!
バレエの知識があればもっと楽しめたと思うと悔しい。観に行ってみたい。 pic.twitter.com/vBlVKZ70Cm— ぴのち@読書📚 (@pinopinochicchi) February 9, 2025
spring/恩田 陸♯読了
繊細な羽生結弦さんをイメージさせる
天才的な振付師「HAL」そんな彼をヤツや彼と呼ぶ才能溢れるJUNや七瀬、指導者を通じて芸術的で繊細なバレエの世界を恩田さんが描ききった一冊
天才ハルの溢れ出る才能に遭遇した時のライバルや恩師の心の声が綴られる
かなり中性な匠です pic.twitter.com/JyrPcZd5n7— YONDE TARO (@kazupapa1109) September 30, 2024
一部つまらないという意見も見られましたが、おおむね好評なレビューばかりでした。また、映画化を望む声も挙がっていました。
まとめ:『spring』は圧巻のバレエ小説だった
いかがでしたか?『spring』の特徴を以下にまとめました。
・2025年本屋大賞候補作
・バレエの世界観を見事に小説で表現している
・映画化やドラマ化など、映像化にも期待したい本
以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!
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