今回は「字滑り」(著:永方佑樹)のあらすじや感想を紹介します。さらに、タイトルの意味や、作品の魅力、ラストシーンのネタバレ考察(解説)なども行います。芥川賞の選考会はどう評価されるかも楽しみですね。
【第172回芥川賞候補作】永方佑樹の小説「字滑り」とは
書名 | 字滑り |
作者 | 永方佑樹 |
初出 | 『文學界』2024年10月号 |
作者の永方佑樹さんは、これまで「詩と思想新人賞」を受賞したほか、2019年には詩集『不在都市』で歴程新鋭賞を受賞するなど、詩人としても活躍する作家です。今作「字滑り」は『文學界』2024年10月号に掲載され、第172回芥川賞の候補作にも選出されました。
小説「字滑り」が『文學界』10月号に掲載されます。体験の中で体感される言葉の在り方を模索し続け、ようやく一つの形に仕上がりました。肉筆とデジタルの言葉、息と声、文字と身体の言語マジックリアリズム。商業文芸誌に掲載される初の小説となる字滑りワールド、読んで頂けると嬉しいです! #字滑り https://t.co/kRUD4ghIp7
— 永方佑樹/Nagae Yūki (@NAGAEyuk) September 4, 2024
「字滑り」は、実況のナレーションやSNSの書き込みが訓読みだけになるなど、日本語に歪な変化が訪れる局所的な現象をモチーフとした小説です。物語後半はある滞在施設を舞台にした民俗ホラーのような展開をしていきます。
※「字滑り」は以下に当てはまる人におすすめ!
・普段の日本語表現に違和感を持っている人
・民俗ホラーのような不思議な世界観の小説を読みたい人
・第172回芥川賞の候補となった話題作をチェックしたい人
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3分で分かる「字滑り」のあらすじ【※ネタバレなし※】
アナウンサーが訓読みでしか話せなくなり、SNSの書き込みも同様に訓読みだらけになるなど、時折発生しているのが「字滑り」という現象だ。
会社員のモネ、ブロガーの骨火、フリーターのアザミは、それぞれ安達ケ原で字滑りを体験できる滞在型施設の体験モニターへとやって来た。しかしなかなか字滑りは起きず、地元住民に聞き込みをしたり、ネットに繋げるために麓のコンビニを訪れたりするのだが、そのまま最後の夜を迎えてしまい……。
「字滑り」のネタバレ解説&考察まとめ
ここからは「字滑り」の魅力を深掘りするために、タイトルの意味、作品の魅力、ラストシーンのネタバレ考察などを行います。
「字滑り」のタイトルの意味とは
字滑りとはこの小説の世界で起きている現象を指し、一般的な言葉ではありません。冒頭で渋谷のテレビ中継を見ているとNHKのアナウンサーが訓読みでしか話せなくなり、それがSNSの書き込みでも同様の現象が波及するといったことが起こります。このように局所的に発生している現象ですが、詳しい原因などは分かっていません。
主な登場人物の三人(モネ、骨火、アザミ)はそれぞれ字滑りに興味を持っており、それが起きるという滞在施設の体験型モニターを受けるシーンが物語の大半となります。マジックリアリズムというべき、不思議な世界観の小説です。
普段の言葉遣いや表現の些細な違和感をついた作品
タイトルにもあるように、この作品の根底には「字」そのものであり、もっというと日本語の表現についての気づきがあります。
例えばフリーターのアザミは、ネットニュースをみると、「女(28)」や「人気アイドル◯◯(21)」「人気女優(49)」のように、性別や職業、人名の後に()書きで年齢が書かれていることに違和感を持ちます。
こういった日本語表現について、いろんな想像を膨らませてくれる作品です。
後半は滞在施設を舞台にした奇怪な物語へ!ラストシーンのネタバレ考察
中盤から字滑りが起きるという滞在施設を舞台にした物語が展開していきます。字滑り自体が不思議な現象ですが、ここではさらに不思議な体験をしていくことになるのです。特にラストはかなり歪んだ世界観となり、民俗ホラーのような展開となっています。
以下、ちょっとした考察ですが、ややネタバレとなるので、最後まで読んだ人だけクリックして読んでみてください。
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なかなか字滑りが起こらず日が経ちますが、ラストではアザミだけが字滑り(もっと根本的な別の現象?)を体験することになります。アザミの名前について展開していき、もともとはカタカナでアザミの名前となったり「字見」でアザミと読ませたりするのです。
こういった名前をとる、という行為で、ジブリ映画の「千と千尋の神隠し」を思い出しました。ほかにもどこかジブリのような世界観もあって、もしかしたら本作はジブリ好きの人も興味を持てる内容なのかなと考えました。
いずれにせよ、ラストシーンはやや難解でいろんな読み方ができるように思います。もしこんな読み方あるよ、などご意見ある方はぜひコメント欄で教えてください。
「字滑り」を読んでみた感想
ここからは「字滑り」を読んでみた感想を書いていきます。また読者のレビューも合わせてまとめました。
【筆者の感想】着眼点がよく、いろんな想像ができる
読む前は、字を見ていたらだんだんその字が変に歪んで見えてくる現象、いわゆるゲシュタルト崩壊について書いているのかなと思いました。しかしよくよく読んでみると、もっと日本語のフレーズ(ひらがな、カタカナ、漢字を踏まえた表現)がテーマになっていると分かります。
深い歴史的背景を持つ日本語は、最近はネットでのスラングも一般的に使われるようになりさらに多様化しています。そこに着目して、物語を展開しているところがいいなと思いました。いろんな想像ができるモチーフだと思います。
ただ、その分、書き切れていないのではないか、逆にもっと煮詰めた方がよかったのではないか、などという評価が出そうな作品でもあります。今作は第172回芥川賞の候補作にも選出されていますが、その部分が指摘され、あまり多くの票は集めきれないかもしれません。
受賞予想:ー(なし)
(全候補作を読み終えた段階でもう一度予想してみます)
【みんなの感想や評価】詩的表現のつるべ打ちに感嘆
続いて、読者がSNSに投稿した感想やレビューを紹介していきましょう。
小説『字滑り』読了。みずみずしい詩的表現のつるべ打ちに舌を巻く挑戦作。「字滑り」と呼ばれる言語異常現象が社会に影響を及ぼす様子が描かれる序盤、SF的な設定に興味をひかれたが、物語はローカルに閉じた民俗ホラーへと舵を切っていく。怪しげなコンビニの存在がやや唐突で、結末には力技を感じる pic.twitter.com/rzyBoVLqdE
— touch (@o_kilo_byte) January 14, 2025
『字滑り』(永方佑樹 著/「文學界」24年10月号)わず。「詩を行為する」表現者ならではの文章は、言葉の手触りが感じられ、独特の読書体験ができた。言葉を物理的に扱うシーンは、男性ブランコの”音符運び”ネタを連想してしまったのだけど、同じこと考えた人いないかな?笑#読了 #芥川賞候補作 pic.twitter.com/VBds90hpXi
— 日々の読書会 (@daily_readin) January 8, 2025
永方佑樹さん
『字滑り』言葉が五感を刺激する。鮮やに輝き出す文字に目が眩み、透きとおった文字の音色が響きわたり、馥郁たる文字が香り立ち、まったりした文字の余韻が口に広がり、優しい文字の温もりが手に残る。自分にも字滑りが起きていたかも知れない。字滑り体験小説。#読了#芥川賞候補作 pic.twitter.com/uhgexuZyny
— 山崎はじめ (@goemoncinnamon) January 12, 2025
字滑り/永方祐樹 #読了
とても良かったー!!揺れたり滑ったり生々しく生き物の様に変化する文字や言語。失われていく言語と意図せず残されていく言語。異世界に紛れ込んでしまった不思議な感覚で物語に浸れる。ホラー要素もあるけどラストは神秘的で美しい。 pic.twitter.com/DwS5N41lX6— りま@読書 (@rima_reading) December 22, 2024
まとめ:「字滑り」は日本語の違和感をテーマにした小説だった
いかがでしたか?「字滑り」の特徴を以下にまとめました。
・第172回芥川賞候補作|受賞予想はー(なし)
・日本語(ひらがな、カタカナ、漢字)の違和感がテーマ
・後半は民俗ホラーのような展開に
以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!
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