今回は竹中優子さんの「ダンス」をピックアップ。本作のあらすじや感想を紹介したあとに、タイトルの意味、作品の魅力、ラストシーンのネタバレ考察を行います。芥川賞の受賞予想も行っているので、ぜひ最後まで読んでみてください。
【第172回芥川賞候補作】竹中優子の小説「ダンス」とは
書名 | ダンス |
作者 | 竹中優子 |
出版社 | 新潮社 |
発売日 | 2025年1月15日 |
ページ数 | 128ページ |
初出 | 『新潮』2024年11月号 |
作者の竹中優子さんは、歌人や詩人としても活躍する作家。これまで角川短歌賞や現代歌人集会賞、現代短歌新人賞、現代詩手帖賞などの数々の文学賞を受賞してきました。今作「ダンス」は第56回新潮新人賞を受賞し、同時に第172回芥川賞の候補作にも選出されています。
新潮新人賞受賞作にして第172回芥川賞候補作の竹中優子さん『ダンス』の本文ページ見本が出来上がりました。
〈今日こそ三人まとめて往復ビンタをしてやろうと堅く心に決めて会社に行った。〉… pic.twitter.com/TBHWheqaO4
— 新潮社出版部文芸 (@Shincho_Bungei) January 8, 2025
「ダンス」は、会社の同僚の三角関係に振り回される<私>が、同僚の下村さんに振り回されながら日々を送る物語です。部外者で「馴染んでいない」と思う<私>が過ごす日々、そして後半に十数年経った時代を描くという、構成の妙も光る作品となっています。
※「ダンス」は以下に当てはまる人におすすめ!
・なかなか周囲に馴染めず生きている人
・歌人や詩人ならではの秀逸なたとえや詩的表現を味わいたい人
・第172回芥川賞の候補となった話題作をチェックしたい人
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3分で分かる「ダンス」のあらすじ【※ネタバレなし※】
今日こそ三人まとめて往復ビンタしてやろう
引用:「ダンス」本文より
そう堅く決めて出社したはずが、三人とも休みだった。そのしわ寄せは、山羊こと係長と私に及んでいる。
三人とは、同僚の下村さん、田中さん(かまぼこ1)と佐藤さん(かまぼこ2)のことだ。下村さんは以前田中さんと付き合っていたが、今は別れ、その田中さんが佐藤さんと同棲しているという、三角関係となっている。
部外者の私は「馴染んでいない」ハンコが大きく押されたみたいで、すぐに弱気になるし、そんな自分に嫌気がさしている。私はそんな下村さんから会社の住宅手当をもらうための資料に書くべき理由を一緒に考えてほしいとお願いされて……。
「ダンス」のネタバレ解説&考察まとめ
ここからは「ダンス」の魅力を深掘りするために、タイトルの意味、作品の魅力、ラストシーンのネタバレ考察などを行います。
タイトル「ダンス」の意味とは
タイトル「ダンス」が作中に登場するシーンに注目してみましょう。一部引用します。
歩き出そうとしたところで、下村さんの方が私にぶつかった。
私はよろける。それを下村さんがけらけら笑う。
私は、いつの間にか踊りはじめた下手くそで才能がないダンスを笑われているような気がして、なんだかこそばゆいような心地が湧いてくる。’
引用:「ダンス」本文より
これは不器用な生き方をしている<私>を象徴しているシーンであり、そんな不器用なりに生きていく姿が本作の魅力となっています。
また対して下村さんのダンスについては以下のように形容しています。先ほどの文章に続く場面です。
ふたりの肩がまたぶつかる。それだけで楽しくて、声を上げてふたりで笑う。酒くさい下村さんが、いつものダンスを踊っている。いつまでも続く、下村さんのダンス。
引用:「ダンス」本文より
下村さんと<私>の対比に注目しながら、読み進めていくとよいでしょう。
歌人・詩人ならではの省略の仕方や秀逸なたとえに注目
作者の竹中優子さんは、歌人や詩人としても活躍している人物。本作の中でもそんな竹中さんの手腕が光る箇所が随所に出てきます。冒頭のシーンで同僚をかまぼこ、上司の係長を山羊と形容するところもいいですね。
またラストシーンではある人物が結婚し、その生活について以下のように書かれる場面があります。
ふたりのおでこを夏や冬の風が撫でて去っていく。
引用:「ダンス」本文より
後半にかけて時間が跳躍するのですが、そんな重要な場面を鮮やかに描いていて、感嘆しました。
このように引用したくなる表現は、作中に何度も出てくるので、ぜひ注意深く読んでみてください。
ラストシーンのネタバレ考察
ここではラストシーンについて考察した内容を記します。ややネタバレとなるので、最後まで読んだ人だけ下記をクリックしてみてください。
ネタバレしていいからラストシーンの考察を知りたい方はこちらをクリック!
最後は語り手が四十歳になり、下村さんと久々に再会する場面が描かれます。下村さんは<私>にこう聞いてくるのです。
どうだった。あなたの三十代は?
引用:「ダンス」本文より
結婚、そして離婚を経験した<私>は、最後に夫にビンタをした。三十代は人を別人にするという感慨を持ち、「いい三十代だった」と振り返るのだった。
【考察】
いろんな読み方ができるラストでもあると感じます。もしかしたら序盤から中盤にかけての下村さんとのやりとりは、全て語り手の<私>によって都合よく書き換えられた過去だったのではとすら思います。
<私>が語ったことを下村さんが忘れてしまっていることや、以下のように書かれているところがその理由です。
私だって都合の悪いところは忘れて、勝手に書き換えて、あの頃の記憶を自分勝手な何かにすり替えているのかもしれない。
引用:「ダンス」本文より
まあどう捉えるかは読者の皆さんの自由ですし、本当か嘘かすらどうでもいいと思えるくらい、爽快なラストになっていると感じました。
「ダンス」を読んでみた感想
ここからは「ダンス」を読んでみた感想を書いていきます。また読者のレビューも合わせてまとめました。
【筆者の感想】さりげない伏線の張り方も見事
一読して、新人作家とは思えないような完成度で驚きました。それもそうで作者の竹中優子さんは、これまで短歌や詩の世界で活躍していたと知り、納得しました。きちんとした省略の仕方を抑えている良い作家だと思います。
また、作中の伏線の張り方も巧みで、それを伏線とは思わせなくてもよいというさりげない書き方をしているのも、好みです。お風呂が重要なモチーフの一つとなっていて、冒頭で下村さんのことを考えてお風呂に入れなかった<私>が、いきなり老夫婦が来てお風呂を貸したというエピソードを踏まえ、最後には下村さんのお風呂を借りるようになります。
ほかにも「風」の書き方など、随所に丁寧な書き方が垣間見え、あっさり読める作品の中で細部がよく練られていると感じました。芥川賞の選考会もこの部分が高く評価されてほしいなと思います。
全体的なインパクトに欠けることや、新人作家のデビュー作でもう一作待ちたいという意見が出そうなことが懸念点ですが、個人的にかなり好きな作品なので受賞してほしいです。予想は◯(対抗)としておきます。
受賞予想:◯(対抗)
(全候補作を読み終えた段階でもう一度予想してみます)
【みんなの感想や評価】読解できる行間が広くて深い
続いて読者がSNSに投稿した感想や、レビューを紹介します。
入社3年目になっても会社に馴染めない“私”と、同僚に彼を奪われても馴染もうとする下村さん。社会や誰かと協調したダンスも大事かもだけど、2人がそれぞれのペースとステップで、自分のダンスを踊れていたら嬉しい。読解できる行間が広くて深そうな小説。すこし短歌みがある気がする。 pic.twitter.com/FbHAqYyT07
— とも@読書垢 (@tomobook_panda) January 1, 2025
「ダンス」竹中優子
読了。凄いというより「抜群にうまい作品」です。「ビンタ」という言葉が頻繁に出てくる。ある場面で「ビンタ」という言葉が光ってみえた。うーん、完成度が高いなあ。
著者の書き方にまったく力みが感じられない。いい小説だ。 pic.twitter.com/cPN53cII3c— 落合伴美→ばんび(山本) (@hazakurano) November 14, 2024
竹中優子「ダンス」読了。ひさしぶりにひとつの留保もなく「良い」と思った。とくに大島渚と野坂昭如の殴打事件(?)が主人公と下村さんの関係をうまく現してるように思う。このままハッピーエンドか、と思わせてつつ、終盤の思いきった展開もじつに見事。
— 谷村順一 (@tani61) December 22, 2024
竹中優子【ダンス】読了。
書き出しから好きになった🤍💜
同僚の社内恋愛により仕事のしわ寄せがきたことを怒っている私。お仕事小説かと思ったけど違ったね、、後半ちょっと変わっちゃったけど、送別会や30代の下りも感情移入しちゃって面白かった🕺🕺 pic.twitter.com/O41yfLzs9G— tiina (@tiina37839395) December 16, 2024
まとめ:「ダンス」は馴染めない<私>が振り回されながら生きる小説だった
いかがでしたか?「ダンス」の特徴を以下にまとめました。
・第172回芥川賞候補作|受賞予想は◯(対抗)
・なかなか他人と馴染めない人に読んでほしい作品
・歌人・詩人として活躍する作家の手腕が光る小説
以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!
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