第173回芥川賞を予想!「トラジェクトリー」が最有力か

第173回芥川賞の選考会が2025年7月16日に行われます。今回も事前に全て候補作を読み、受賞作を予想してみます。各作品のあらすじ・概要を紹介したのちに、講評を行い、最終的に予想作品を発表します。果たして予想は当たるのでしょうか?

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そもそも芥川賞とはどんな文学賞?

芥川賞は日本を代表する文学賞の一つ。年に2回(1月と7月)選考会が行われています。対象となるのは、新人作家の純文学作品。日本文学振興会が主催しています。これまでの主な受賞者は石原慎太郎、村上龍、松本清張、小川洋子、川上弘美などです。

お笑い芸人の又吉直樹さんが「火花」で受賞した際は大きな話題となりました。また第164回芥川賞受賞作となった宇佐見りんさんの「推し、燃ゆ」が、好きなアイドルを推している者の心情を表していると高く評価され、2021年で最も売れた小説となりました。

「推し、燃ゆ」のあらすじをチェックしてみる

最新回の第172回芥川賞は、安堂ホセさんの「DTOPIA」と鈴木結生さんの「ゲーテはすべてを言った」がW受賞しました。

「DTOPIA」のあらすじや解説をチェックしてみる

「ゲーテはすべてを言った」のあらすじや解説をチェックしてみる

第173回芥川賞候補作の紹介|今回は4作品が候補に

第173回芥川賞の候補となったのは、以下の四作品です。(並びは作家名の順)

作品名 作家名 掲載誌 候補回数
トラジェクトリー グレゴリー・ケズナジャット 『文學界』6月号 二回目
鳥の夢の場合 駒田隼也 『群像』六月号
踊れ、愛より痛いほうへ 向坂くじら 『文藝』春季号 二回目
たえまない光の足し算 日比野コレコ 『文學界』六月号

例年、候補作は五作品となる場合が多いですが、今回は四作品。そのうち、二度目の候補が二人で、あとの二人は初選出とあり、フレッシュな顔ぶれとなりました。

二回目の候補となったグレゴリー・ケズナジャットさんは、アメリカ出身の作家。同じく二回目の候補となった向坂くじらさんは、詩人やエッセイスト、アーティストとしても活動する作家です。

駒田隼也さんの作品は、群像新人文学賞の受賞作。また、2002年生まれの日比野コレコさんは気鋭の若手作家として注目されており、デビュー作の「ビューティフルからビューティフルへ」は、文藝賞を安堂ホセさんと同時受賞したことでも話題になりました。

各候補作のあらすじと講評

ここからは芥川賞候補になった各作品のあらすじを紹介します。また各作品の講評も合わせて行います。

「トラジェクトリー」グレゴリー・ケズナジャット(『文學界』六月号)

書名 トラジェクトリー
作者 グレゴリー・ケズナジャット
出版社 文藝春秋
発売日 2025年7月17日
ページ数 176ページ
初出 『文學界』2025年6月号

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【あらすじ】
アメリカで育ち、英語教員として日本へ来たブランドンは、自己成長しない毎日を受け入れて生活していく。しかし、仕切りたがりの高齢の生徒・カワムラとアポロ十一号が月面へ行くまでの記録を読み上げていくなかで、考えに変化が訪れる。

⇒「トラジェクトリー」のあらすじや感想をチェックしたい人はこちらから

【講評】
実態を掴みにくいグローバル化という概念と、自己のアイデンティティーとの対比が素晴らしい。さらに、排水溝のなかに見つけたパーソナルなスペースと、アポロ十一号へと向かう宇宙船の中が重なり合うようで、自分の居場所を確立させていく様が素晴らしい成長小説だと感じた。

「鳥の夢の場合」駒田隼也(『群像』六月号)

書名 鳥の夢の場合
作者 駒田隼也
出版社 講談社
発売日 2025年7月16日
ページ数 152ページ
初出 『群像』2025年6月号

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【あらすじ】
シェアハウスで同居する蓮見から「おれ、死んでもうた。やから殺してくれへん?」と依頼された初瀬。夢と現実、過去と現在が入り混じりながら、日々が進む中で、初瀬は蓮見と会話を交わしながら、どうすべきかを考えていく。

⇒「鳥の夢の場合」のあらすじや感想をチェックしたい人はこちらから

【講評】
独自の文体や世界観がどう評価されるか。タイトルにもあるように、鳥の夢として見た場合に捉えられる視点もあり、さまざまな読み方ができる。関西弁の生きた会話もおもしろいが、シェアハウスという空間にも可能性を感じさせるが、全体的に高い評価を得るのは難しそうだ。

「踊れ、愛より痛いほうへ」向坂くじら(『文藝』春季号)

書名 踊れ、愛より痛いほうへ
作者 向坂くじら
出版社 河出書房新社
発売日 2025年6月24日
ページ数 136ページ
初出 『文藝』2025年春季号

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【あらすじ】
幼い頃から理不尽なことがあると、頭が割れるアンノは、自分がいたために妹が中絶されたと知り、ショックを受ける。やがて親に反抗して、家の庭にテントを張って生活したアンノは、インターネットで知り合った恋人の祖母・あーちゃんと出会い……。

⇒「踊れ、愛より痛いほうへ」のあらすじや感想をチェックしたい人はこちらから

【講評】
詩人として活躍する作家ならではの、詩的な表現が効いていて、終盤、アンノに母が喪服を着させるシーンは特に印象に残った。ただ、生きられなかった者の分まで踊って懸命に生きようといった着地の仕方はやや類型的なようにも思え、テーマの「愛」への向き合い方がどう評価されるかがポイントだ。

「たえまない光の足し算」日比野コレコ(『文學界』六月号)

書名 たえまない光の足し算
作者 日比野コレコ
出版社 文藝春秋
発売日 2025年7月17日
ページ数 160ページ
初出 『文學界』2025年6月号

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【あらすじ】
「かいぶつ」と呼ばれる時計台で「とび商」として生計を立てている薗(その)は、異物を何でも口にする異食の道化師だ。同じとび商の抱擁師のハグと出会った薗だが、軟派師の弘愛とハグの間である事態が起こり、それぞれの運命が変わっていく。

⇒「たえまない光の足し算」のあらすじや感想をチェックしたい人はこちらから

【講評】
現実離れした設定だが、どこかトー横キッズを彷彿とさせる世界観の小説だ。若者たちの居場所の無さを暗示しており、全てを分け隔てなく愛そうという者の思考に訪れる一種のひずみのようなものもよく描かれている。ただ、こちらもラストの帰着の仕方がどう評価されるか。

【第173回芥川賞予想】「トラジェクトリー」が最有力か

四作品について触れてきましたが、ここで今回の予想を述べましょう。

・◎(本命):「トラジェクトリー」グレゴリー・ケズナジャット
・◯(対抗):「踊れ、愛より痛いほうへ」向坂くじら
・△(大穴):「たえまない光の足し算」日比野コレコ

今回は抜きんでた作品が無く、かなり予想が難しく感じました。発表は7月16日。果たして結果はどうなるのでしょうか。楽しみにして待ちましょう。

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