第172回芥川賞の選考会が2025年1月15日に行われます。今回も事前に全て候補作を読み、受賞作を予想してみます。各作品のあらすじ・概要を紹介したのちに、講評を行い、最終的に予想作品を発表します。果たして予想は当たるのでしょうか?
そもそも芥川賞とはどんな文学賞?
芥川賞は日本を代表する文学賞の一つ。年に2回(1月と7月)選考会が行われています。対象となるのは、新人作家の純文学作品。日本文学振興会が主催しています。これまでの主な受賞者は石原慎太郎、村上龍、松本清張、小川洋子、川上弘美などです。
お笑い芸人の又吉直樹さんが「火花」で受賞した際は大きな話題となりました。また第164回芥川賞受賞作となった宇佐見りんさんの「推し、燃ゆ」が、好きなアイドルを推している者の心情を表していると高く評価され、2021年で最も売れた小説となりました。
最新回の第171回芥川賞は朝比奈秋さんの「サンショウウオの四十九日」と松永K三蔵さんの「バリ山行」がW受賞。アーティストとしても活躍する尾崎世界観さんの作品は惜しくも受賞できずという結果でした。
第172回芥川賞受賞予想|個性豊かな面々が候補に
第172回芥川賞の候補となったのは、以下の五作品です。(並びは作家名の順)
作品名 | 作家名 | 掲載誌 | 候補回数 |
DTOPIA | 安堂ホセ | 『文藝』秋季号 | 三回目 |
ゲーテはすべてを言った | 鈴木結生 | 『小説トリッパー』秋季号 | 初 |
ダンス | 竹中優子 | 『新潮』十一月号 | 初 |
字滑り | 永方佑樹 | 『文學界』十月号 | 初 |
二十四五 | 乗代雄介 | 『群像』十二月号 | 五回目 |
最も多い五回目の候補となったのが、乗代雄介さん。前回候補となった「それは誠」は選考委員の川上弘美さんや奥泉光さんから強く支持されており、今回の作品でいよいよ受賞かの期待も高まります。
三度目の候補となったのが、安堂ホセさん。文藝賞を受賞したデビュー作がいきなり芥川賞候補作にも選出され、デビュー時から高い評価を受けている作家です。
そのほか、初候補が三人。主要文芸誌以外の『小説トリッパー』掲載作が候補となった鈴木結生さん。「詩を行為する」表現を展開し、初めて中編小説を発表した永方佑樹さん。そして、歌人や詩人など幅広く活躍しながら新潮新人賞を受賞した竹中優子さん。バラエティー豊かなラインナップとなっています。
各候補作のあらすじと講評
ここからは芥川賞候補になった各作品のあらすじを紹介します。また各作品の講評も合わせて行います。
「DTOPIA」安堂ホセ(『文藝』秋季号)
【あらすじ】
恋愛リアリティショー「DTOPIA」新シリーズの舞台はボラ・ボラ島。ミスユニバースを巡ってMr.LA、Mr.ロンドン等十人の男たちが争う──時代を象徴する圧倒的傑作、誕生!
引用:Amazon
【講評】
序盤は変わった恋愛リアリティーショーの模様を描いていたと思いきや、中盤からある人物のバックボーンを巡る話となる。筆者がこれまで描いてきたミックスルーツの話に加え、ジェンダーや犯罪などが複合的に絡み、難解な部分で込み入りすぎている気もするが、重厚感を感じた。
↓↓『DTOPIA』を購入したい人は以下から↓↓
↓↓「DTOPIA」が掲載されている『文藝』秋季号を購入したい人は以下から↓↓
「ゲーテはすべてを言った」鈴木結生(『小説トリッパー』秋季号)
【あらすじ】
高明なゲーテ学者、博把統一は、一家団欒のディナーで、彼の知らないゲーテの名言と出会う。
ティー・バッグのタグに書かれたその言葉を求めて、膨大な原典を読み漁り、長年の研究生活の記憶を辿るが……。
ひとつの言葉を巡る統一の旅は、創作とは何か、学問とは何か、という深遠な問いを投げかけながら、読者を思いがけない明るみへ誘う。
若き才能が描き出す、アカデミック冒険譚!
引用:Amazon
⇒「ゲーテはすべてを言った」のあらすじや解説をチェックしてみる
【講評】
ゲーテの名言にまつわる冒険譚で、上品かつアカデミックな嗜みを楽しめた。作者はまだ若いのにここまで造詣が深いとは驚きだ。ただ原稿用紙270枚とかなり長いうえに、特に序盤の進行が遅い感じがするので、やや冗長と捉えられるかもしれない。結末の繋がり方もやや出来すぎな感がある。
↓↓『ゲーテはすべてを言った』を購入したい人は以下から↓↓
↓↓「ゲーテはすべてを言った」が掲載されている『小説トリッパー』秋季号を購入したい人は以下から↓↓
「ダンス」竹中優子(『新潮』十一月号)
【あらすじ】
同僚三人が近頃欠勤を繰り返すのが気に入らない私は、その一人の先輩女性下村さんに、彼らの三角関係を知らされる。恋人を取られた下村さんの気ままな言動に翻弄される私の日々を描く、新潮新人賞受賞&芥川賞候補作。
引用:Amazon
【講評】
作者は歌人や詩人としても活躍しており、小説でもその省略の仕方をよく心得ている。短くてあっさり読めるが、とても丁寧に緻密に作られており、新人離れした実力を感じた。終盤で時間が飛躍し、序盤で散々振り回されてきた人物から「どうだった。三十代は?」と聞かれるシーンも良い。
↓↓『ダンス』を購入したい人は以下から↓↓
↓↓「ダンス」が掲載されている『新潮』十一月号を購入したい人は以下から↓↓
「字滑り」永方佑樹(『文學界』十月号)
【あらすじ】
テレビ中継のアナウンスやSNSの書き込みが全て訓読みになるなどの現象・字滑りが局所的に発生している。モネ、骨火、アザミの三人は、字滑りが起きるという滞在施設の体験モニターに参加することになった。特に何も起きないまま、最終日の夜を迎えて……。
【講評】
ひらがな、カタカナ、漢字が入り混じる日本語についての違和感がみなが共感しやすく、いかにも文学的なテーマ。着眼点がよく、後半の民俗ホラーのような展開になる構成もおもしろいですが、テーマについてもっと深掘りしてほしいとか、別の書き方の方が向いているなどの意見が出そうです。
↓↓「字滑り」が掲載されている『文學界』十月号を購入したい人は以下から↓↓
「二十四五」乗代雄介(『群像』十二月号)
【あらすじ】
大事な人が、かつてここにいた
確かなしるしを何度でも辿る──喪失を抱えたまま生きていく、祈りの記録。
ロングセラー『旅する練習』の著者がはなつ待望の新作。「これは、叔母がどんなに私を思ってくれていたかということを、その死後も巧妙なやり方で繰り返しほのめかされ時には泣かされたところでぴんぴんしている、根深い恨みである。」
実家を出て二年、作家になった二十四五の私は弟の結婚式に参列するため、仙台に向かっている。
五年前に亡くなった叔母の痕跡を求めて、往復する時間の先にあるものとは。
引用:Amazon
【講評】
デビュー時から書かれてきた、阿佐美景子シリーズ。語り手と叔母との強い絆は健在で、今作でも叔母の偉大さが感じられる。また、乗代雄介さんらしい優れた風景描写も魅力で、特に終盤の古墳を訪れる場面の描き方が印象に残った。ただ本作の魅力が評価されるのは、芥川賞というより、エンタメ系に寄せて直木賞の方が向いているかも。
↓↓『二十四五』を購入したい人は以下から↓↓
↓↓「二十四五」が掲載されている『群像』十二月号を購入したい人は以下から↓↓
第172回芥川賞受賞予想!大本命は安堂ホセの「DTOPIA」
第172回芥川賞を受賞するのはどの作品なのでしょうか。予想していきましょう。
大本命は安堂ホセさんの「DTOPIA」。過去の芥川賞選考会では一定の評価を得つつも、選考委員の一人からは「ハッテン場の外の世界を書いてほしい」と言われていましたが、その期待に応えたのか、今作の舞台は日本すら飛び出しています。筆者がこれまで扱ってきたブラックミックスの話を基本に、より重層的な仕上がりとなっており、その意欲は高く評価されるのではないでしょうか。
個人的に最も好きなのは竹中優子さんの「ダンス」。省略の仕方をよく踏まえており、まとまったなかで、ハッとするようなシーンが多く、物語の流れもしっかり緻密に考えられている点は評価されそうです。ただ全体的なインパクトに欠けるので票が集まりにくいかもしれず、新人作家なのでもう一作待ちたいという意見も出そうで、そのへんはもどかしい思いがします。
「二十四五」は、乗代さんが既に五度候補となっており、合わせ技で受賞かという期待もしたくなりますが、単体だとやや弱いというか、これまでの候補作の方がむしろよかったこともあり、受賞は難しいのではないでしょうか。
まとめると、
◎大本命:「DTOPIA」
◯対抗:「ダンス」
△大穴:「二十四五」
です。果たして予想は当たるのでしょうか。
コメント