3分で分かる『藍を継ぐ海』のあらすじ&ネタバレ解説・感想まとめ【第172回直木賞受賞作】

今回は小説『藍を継ぐ海』(著:伊与原新)のあらすじや感想を紹介します。直木賞を受賞した本作の魅力、作品中に登場した名言、ラストシーンのネタバレ考察(解説)などもまとめたので、ぜひ最後まで読んでみてください。

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【第172回直木賞受賞作】伊与原新の小説『藍を継ぐ海』とは

書名 藍を継ぐ海
作者 伊与原新
出版社 新潮社
発売日 2024年11月27日
ページ数 272ページ

作者の伊与原新さんは、東京大学大学院理学系研究科の博士課程を修了し、科学の要素を盛り込んだ小説を多く発表している作家です。2023年に発表した『宙(そら)わたる教室』は読書感想文の課題図書に選ばれ、NHKでドラマ化されたことでも話題になりました。

⇒『宙(そら)わたる教室』のあらすじや解説などはこちらをチェック!

『藍を継ぐ海』は、徳島県の海辺でウミガメの卵をこっそり持ち帰り自分の手でふ化させようとする女子中学生の話(表題作)を含めた五つの短編からなる小説です。それぞれでその土地の文化や伝統工芸などをテーマとして物語が描かれます。

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3分で分かる『藍を継ぐ海』のあらすじ【※ネタバレなし※】

『藍を継ぐ海』は5編の短編からなる小説です。各章のあらすじについて簡単にまとめました。

夢化けの島

日本海に浮かぶ見島で地質調査を行う歩美は、島へ向かうフェリーのなかで不思議な雰囲気の男と会う。島内で再会し、彼が見島土を探していると知る。その土は伝統的な焼物「萩焼」に必要な土だった。なぜ、彼は見島土にこだわるのだろうか?

狼犬ダイアリー

フリーのWebデザイナー・まひろは、逃げるようにして和歌山県に移り住んでいた。小学生の拓己がニホンオオカミを見たと聞き、まひろもその遠吠えを聞いた。二人は紀州犬の飼い犬・ギンタを連れてオオカミを探しに行くのだが……。

祈りの破片

地方公務員の小寺は、長崎市に隣接する長与町の空き家で不審な青白い光があるとの相談を受け、現地に行った。そこには原爆資料館にあるような大量の資料があり、「加賀谷昭一」という名前が書かれていた。一体何者なのか?そして青白い光の正体とは?

星隕つ駅逓

北海道の白滝郵便局で働く信吾は、約半年後に迫る我が子の誕生を楽しみにしつつも、勤務先の郵便局の廃止が決まった義父のことが気がかりである。そんななか、近くで隕石が落ち、調査団が街に押し寄せ、泊まり込みで調査を続けていたのだが……。

藍を継ぐ海

女子中学生の沙月は、徳島県の海辺でウミガメの卵をこっそり盗んだ。自分の手でふ化させようと思ったのだ。ウミガメ監視員の佐和は沙月の仕業だと気づいたが黙ってくれている。そんななか、来月からALTで働くティムと出会い、ある物を見せられる。

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『藍を継ぐ海』のネタバレ解説&考察まとめ

ここからは『藍を継ぐ海』の魅力を深掘りするために、作品の魅力、登場する名言、ラストシーンのネタバレ考察などを行います。

科学とその土地に根付く伝統や文化を掛け合わせた物語

「夢化けの島」では焼き物の土や地質、「狼犬ダイアリー」ではニホンオオカミ、「星隕つ駅逓」では隕石など、科学技術や生物的なテーマが重要な要素となる物語が収められています。

作者の伊与原新さんの小説はこれまでも科学がテーマとなることが多かったですが、今作ではさらにその知識の幅を広げており、多様な作品となっています。単純にいろんな知識が身につくのが面白いうえに、それが物語にどう絡んでくるかも楽しみな一冊です。

『藍を継ぐ海』で印象に残った名言を紹介

『藍を継ぐ海』はどの章も最後は前向きな気持ちにさせてくれる短編が収められています。本文中には日常生活でも使えそうな格言がいくつか登場しますので、ここでいくつか紹介しましょう。

形ないものを形にして、新たな価値を生み出す。すべての生物の中で、ヒトをヒトたらしめている「仕事」というものの原点は、きっとそこにあるのだろう。
引用:『藍を継ぐ海』本文(51ページ)より

「夢化けの島」より。仕事の本質をついているような名言ですね。何のために仕事をしているのか分からなくなったとき、この言葉を思い出すと、活力が生まれるのではないでしょうか。

一人でいたいとき、いるしかないときは、孤高のオオカミを気取る。
(中略)
寂しくなったり、何かに行き詰まったりしたときは、従順な犬になる。
引用:『藍を継ぐ海』本文(105,106ページ)より

「狼犬ダイアリー」より。これも生きるうえでのヒントになりそうな言葉ですね。強く生きようとする気持ちは大事だけど、無理せずに甘えるときは甘えてもいいというのは、特に頑張りすぎる人にとって大きな気づきを与えてくれそうです。

好きなところで、気に入った場所で、生きたらええの。生まれた土地に責任がある人なんて、どこにもおらんのよ
引用:『藍を継ぐ海』本文(262ページ)より

表題作の「藍を継ぐ海」より。これも同じように責任感を強く持ちすぎる人にとって、支えになる言葉でしょう。こちらはラストシーンの内容にもかかわってくるので、この点は次章で深掘りしていきましょう。

『藍を継ぐ海』のラストシーンをネタバレ考察

ここでは『藍を継ぐ海』の最後に収録されている表題作のラストシーンについて考察した内容を記します。ネタバレとなるので、最後まで読んだ人だけ下記をクリックしてみてください。

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沙月が佐和と育てて海に放った子ガメは、ティムが生活していた北アメリカの西岸へ辿り着いていた。祖先が日本人で自分にもその血が流れているかもしれないと語るティムが、時を経てこうして日本に来た境遇を、ウミガメと重ね合わせる。

沙月は、東京で生まれたと嘘をつかれて育った姉の未月が一人東京へ出て音信不通(既読だけはつく)となっているのが気がかりで、同時に自分の行く末も不安になっていた。しかし、ウミガメたちが海へ出ていく姿を見たり、これまでの出来事を振り返ったりするうちに、生まれた土地に責任を持ち過ぎずに、最終的に好きなところで気軽に生きたらいいという結論に至るのだった。

【考察】
ラストは家族の話も交えて、重層的な物語になっていました。本の帯で「数百年後に帰ってくるかもしれない。懐かしい、この浜辺にー」と描かれていますが、その意味がひしひしと伝わるラスト。スケール感のある終わり方に思わず息をのみました。

『藍を継ぐ海』を読んでみた感想

ここからは『藍を継ぐ海』を読んでみた感想を書いていきます。また読者のレビューも合わせてまとめました。

【筆者の感想】読みやすくて多くの知識を得られる

伊与原新さんの小説は、さまざまな科学技術に関する事柄を小説に落とし込むのがうまく、また読者に分かりやすく解説してくれるので、読みやすいうえに多くの知識を与えてくれる良い作家だと感じます。

また、今作は各地域を舞台にしており、北海道、長崎、和歌山、徳島、山口と、バラバラなので自分の住んでいる近くの地域をテーマにしていて、関心を持てる人も多いのではないでしょうか。

個人的には2番目に収録されている「狼犬ダイアリー」が一番ぐっときました。というのもこの語り手の境遇が自分と近く、感情移入しやすかったのも引き込まれた要因かもしれません。そう考えると、登場人物も公務員や中学生、大学助教などバラエティに富んでますね。

【みんなの感想や評価】心の栄養になる本

続いて、読者がSNSやレビューサイトに投稿した感想や評価をいくつか紹介します。

どの物語も最後には心が温まるような終わり方で、読み終えた後、自然に触れたくなるような気持ちが湧き上がりました。
自然科学に詳しくなくても十分に楽しめる内容で、専門的な知識がなくてもスムーズに読み進められます。短編集としてのまとまりが良く、心の栄養になる一冊です。
引用:Amazon

まとめ:『藍を継ぐ海』は土地の伝統や文化と科学を絡めた小説だった

いかがでしたか?『藍を継ぐ海』の特徴を以下にまとめました。

・第172回直木賞受賞作
・土地の伝統や文化を科学とうまく絡めた小説
・心の栄養になり、永久保存したい名言も登場

以上です。まだチェックしていない方は、ぜひ読んでみてください!

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