純文学の作品を読んでみたいけど、「難解そう」「とっつきにくそう」などのイメージが先行し、どれから読んでみたらいいか迷いますよね。そこで今回はおすすめの純文学16作品をピックアップ!どんな人におすすめか述べた上で、各小説の簡単なあらすじや解説付きでご紹介します。きっとあなたが好きになる小説と出会えますよ!
- 簡単なあらすじやおすすめポイントを解説しつつ、純文学16作品を紹介します
- ①「推し、燃ゆ」著:宇佐見りん
- ②「コンビニ人間」著:村田沙耶香
- ③「あひる」著:今村夏子
- ④「愛のようだ」著:長嶋有
- ⑤「蹴りたい背中」著:綿矢りさ
- ⑥「ノルウェイの森」著:村上春樹
- ⑦「コインロッカー・ベイビーズ」著:村上龍
- ⑧「岬」著:中上健次
- ⑨「砂の女」著:安部公房
- ⑩「雪国」著:川端康成
- ⑪「人間失格」著:太宰治
- ⑫「山月記」著:中島敦
- ⑬「檸檬」著:梶井基次郎
- ⑭「城の崎にて」著:志賀直哉
- ⑮「羅生門」著:芥川龍之介
- ⑯「こころ」著:夏目漱石
- そもそも純文学とは?大衆文学との違いは「芸術性」を重視するかどうか
- とっつきにくい純文学を楽しく読むコツとは
- まとめ:お気に入りの純文学作品を見つけよう
簡単なあらすじやおすすめポイントを解説しつつ、純文学16作品を紹介します
純文学の起源といえば、二葉亭四迷の「浮雲」と言われています。そう考えると、純文学の歴史は100年と少し。今回は近代文学〜現代文学までを網羅し、その中でおすすめの純文学作品を紹介していきます。
筆者は大学に入るまでは小説をほとんど読んできませんでした。しかし大学時代に時間に余裕ができたこともあり、年間100冊以上の小説を読むように。とはいえ、純文学は難解な作品も多く、何度も挫折しかけることも。それでも最後まで読み進めると、物凄い感動が押し寄せてくる経験を何度かしました。
そこで今回はかつて読書嫌いだった筆者が、実際に読んで作品内容に感動できたものだけをピックアップしました。各作品を紹介する上で以下の内容を記しているので、参考にしてみてください。
・書籍の基本情報(発表年、出版社、一言ポイント)
・こんな人におすすめ
・簡単なあらすじ
・おすすめポイントを解説
①から新しい作品順に並べています。純文学を読み慣れてない方でも分かりやすいようにご紹介していますので、お気に入りの一冊をぜひ見つけてみてください。
①「推し、燃ゆ」著:宇佐見りん
発表年 | 2020年 |
出版社 | 河出書房新社 |
一言ポイント | 推しを推す切実な気持ちが伝わる! |
2021年第164回芥川賞受賞作。若い作家の芥川賞受賞(史上三番目の若さ)や、現代の若者が生きる社会をうまく表現した世界観が話題になりました。
【こんな人におすすめ】
・自分にも「推し」が存在するオタク気質な人
→自分が普段抱えている気持ちを代弁してくれる
・これから活躍する若手作家の作品を読みたい人
→著者はデビュー作でも三島賞を受賞し、これからの文壇で活躍を期待される作家
【簡単なあらすじ】
高校生のあかりは、アイドルの上野真幸を推している。「推しは私の背骨だ」というほど生活の中心にいる存在だが、ある日上野が暴力事件で炎上してしまう。学校でも家庭でも浮いている存在のあかりの生活は、推しの炎上とともに変化していき…。
【おすすめポイントを解説】
・推しに翻弄される主人公の姿
→主人公のあかりは推しである上野を精一杯「解釈」しようとします。ただのファンとしての行動ではなく、推しを推すことには生きる上で重要な意味があると分かります。
・SNS上で生まれるアイデンティティ
→あかりは学校や家庭では浮いた存在ですが、SNS上では推しを温かく見守る立場で、しっかり者の役割をになっています。こうした実生活で見せる面とSNSで現れる人間性との二面性があるのも、現代らしいテーマです。

中盤で息苦しい展開が続きますが、ラストには微かな希望が描かれています。
②「コンビニ人間」著:村田沙耶香
発表年 | 2016年 |
出版社 | 文藝春秋 |
一言ポイント | コンビニバイト一筋の女性から見える「普通」とは? |
第155回芥川賞受賞作。選考会において絶賛され、受賞直後から話題になりました。30以上の言語で翻訳され、全世界で累計100万部を超えるベストセラーになっています。
【こんな人におすすめ】
・コミュ障でうまく社会に馴染めないと感じている人
→自分と同じ境遇で勇気をもらえるかも
・現代に生きる人々のリアルな生活を深く知りたい人
→芥川賞選考委員の村上龍が「現代をここまで描いた受賞作は無い」と言うほどの作品。
【簡単なあらすじ】
子供の頃から変わり者だった主人公の古倉恵子は、大学卒業後に就職せずにコンビニのバイトをずっと続けていた。恵子はコンビニで働くことこそ自分の生きる道だと思うが、そんな時知り合った男性・白羽とひょんなきっかけから奇妙な同棲生活が始まるのだった…。
【おすすめポイントを解説】
・「普通」とは何かと考えさせられる点
→同棲している男性から提示された「普通」の生活とは何なのか?主人公のとった行動により、この「普通」という概念が大きく覆ることになるかもしれません。
・屈折した人間のユーモア溢れる言動
→世間一般の感覚からずれた主人公のとる行動に笑ってしまえる部分も。芥川賞選考委員の山田詠美も「候補作を読んで笑ったのは初めて」だと述べています。

著者も実際にコンビニでバイトをしていたこともあり、描写がリアルです。
③「あひる」著:今村夏子
発表年 | 2016年 |
出版社 | KADOKAWA |
一言ポイント | 可愛らしい語りから炙り出される理不尽な大人達の言動 |
「アメトーーク読書芸人」でオードリーの若林が単行本化される前から推していた小説。センス溢れる瑞々しい感覚に注目。
【こんな人におすすめ】
・何気ない文章なのにゾッとする、奇妙な読書体験をしたい人
→一見、ほのぼのとした世界観ながら徐々に奇妙な世界へと引き込まれる
・理不尽な大人達の言動が気になる、未成年の読者
→子どもの視点から見た、理不尽な大人達の言動に共感できるかも
【簡単なあらすじ】
我が家にやってきた、あひる。「のりたま」と名付けて飼うことになった。近所の子どもたちから人気で、両親は彼らを温かく迎える。しかしある日、のりたまの具合が悪くなり病院へ連れて行くことに。二週間後、帰ってきたのりたまは明らかに別のあひるのようだが…。
【おすすめポイントを解説】
・子どもの視点から見た理不尽な大人たちの言動
→不可解な嘘をついたり、敢えてその嘘に気付こうとしなかったり。現実から目を背けようとする大人たちの行動がピュアな子どもの視点から語られることで、哀れに描かれています。
・平易なことばで描かれる、得体の知れない恐怖
→子どもの視点ということもあり、かなり分かりやすいことばで表現されています。簡素な表現である部分、読者の想像に委ねている部分も多く、読者によってはそこで得体の知れない恐怖を感じるかもしれません。

「あひる」以外にも短編が2作収録されており、そちらもおすすめです。
④「愛のようだ」著:長嶋有
発表年 | 2015年 |
出版社 | 中央公論新社 |
一言ポイント | 普通の恋愛小説とは違った、変わった恋愛の形に注目 |
漫画や俳句などにも造詣が深く、多方面で活躍を見せる作家。独特のユーモアあふれる文体が評価されています。
【こんな人におすすめ】
・普通のベタな恋愛小説に飽きた人
→一風変わった中年男が抱く淡い恋心に注目。
・サブカルチャーが好きな人
→ドライブ中に流れるBGMの選曲や、懐かしいアニメ・漫画の話がオタク心をくすぶる!
【簡単なあらすじ】
戸倉は40歳にして初心者マークを付けて、ドライブへ出かける。友人の須崎、そしてその彼女の琴美と。車中で流れるBGMや、懐かしい漫画やアニメの話で盛り上がる中で、中年男が抱く淡い恋心が密かに育まれていき…。
【おすすめポイントを解説】
・物語の八割が車内で展開される不思議なロードノベル
→琴美は重病で入院するため、彼女と主人公が実際にドライブするのは第一章のみ。しかしそれでも後半にかけて車内の場面で、一つの物語がゆっくりと進行していきます。
・人間の可笑しさを筆者独自の視点で切り取ったユーモア
→長嶋有は日常の何気ないシーンを切り取る筆力が評価されています。時にユーモラスに、時に痛切に描かれる描写に、目が離せません。

中年の恋愛は青春時代のそれと違ってクセがありますよね。
⑤「蹴りたい背中」著:綿矢りさ
発表年 | 2003年 |
出版社 | 河出書房新社 |
一言ポイント | 瑞々しい感性で表現された描写に注目 |
第130回芥川賞を史上最年少で受賞した綿矢りささんの同賞受賞作品。金原ひとみさんと同時に若い作家の受賞となり、社会的ニュースにもなりました。
【こんな人におすすめ】
・学校で疎外された経験を持つ人
→狭いコミュニティーで生きる高校生たちの姿に共感できるかも
・若さ溢れる瑞々しい感性を感じとりたい人
→19歳という若さだからこそ表現できるものがあります
【簡単なあらすじ】
クラスで余り者扱いされている「わたし」ハツ。同じくクラスで浮いた存在のにな川はモデルのおりちゃんに惹かれているが、わたしが彼女と会ったことがあると話すと、興味を持たれる。ハツはにな川の家を訪れ、ある衝動に襲われる…。
【おすすめポイントを解説】
・冒頭文をはじめとする、瑞々しい感性が発揮された描写
→「さびしさは鳴る。」という書き出しから始まる小説。他にも蛍光ペンで印を付けたいくらい、瑞々しい感性溢れる表現が何度も出てきます。
・背中を蹴るという衝動に隠された心理とは?
→タイトルにもあるように、主人公はクラスメイトのにな川の背中を蹴りたい(願望だけでなく、実際に蹴る行動に出る)衝動に駆られます。なぜそういった心理に至ったのか。その過程や蹴った後の展開に注目です。

こじらせ女子の書き手である作者の原点が知れる一作です。
◯「蹴りたい背中」のあらすじについてはこちらの記事もチェック↓↓
3分で分かる『蹴りたい背中』のあらすじ&ネタバレ解説まとめ
⑥「ノルウェイの森」著:村上春樹
発表年 | 1987年 |
出版社 | 講談社 |
一言ポイント | 「生」と「性」に真っ向から対峙した文学性 |
ハルキストと呼ばれる熱狂的なファンを持つ作家・村上春樹の代表作です。日本人のノーベル文学賞最有力候補と言われ、発表シーズンになると毎回話題になっていますね。
【こんな人におすすめ】
・村上春樹の作品にまだ触れたことがない人
→村上春樹の代表作。レビューも多くて参考にしやすい。
・映画を見て気になっていた人
→文を読むのが苦手な人は、まずは映画を見た後に本小説を読むという流れも良い。
【簡単なあらすじ】
僕はビートルズの音楽を聴きながら、青春時代を思い出していた。高校時代に亡くなった友人の彼女だった直子と大学生時代に再会した。次第に僕らはデートをするようになった。そんな折、同じ大学の緑からも声をかけられ…。
【おすすめポイントを解説】
・「生」と「性」のテーマを深く掘り下げている点
→純文学でテーマにされやすいのが、「生」と「性」です。人間の本能とも呼べる、この命題と向き合い、深く掘り下げている点で文学的価値があります。
・心に引っかかるセリフの数々
→村上春樹の作品の特徴に独特なセリフがあります。「俺とワタナベの似ているところはね 、自分のことを他人に理解してほしいと思っていないところなんだ 」といったような、自己啓発書には出て来なそうな一見ネガティブそうな表現が、逆に魅力的だったりします。

映画と併せてチェックしてみるといいですね。
⑦「コインロッカー・ベイビーズ」著:村上龍
発表年 | 1980年 |
出版社 | 講談社 |
一言ポイント | コインロッカーで生まれた二人の少年の「生」への希求 |
現在は経済番組「カンブリア宮殿」の司会としても活躍する村上龍の代表作。デビュー作「限りなく透明に近いブルー」も衝撃作でしたが、今作は三作目の作品です。
【こんな人におすすめ】
・孤独な少年が戦う冒険譚を読みたい人
→コインロッカーで生まれた二人の少年の冒険にドキドキ
・退屈な毎日から抜け出したいと思う人
→退廃的な街からの解放を求める、主人公たちのエネルギーに刺激される
【簡単なあらすじ】
コインロッカーで生まれた、キクとハシ。母親を探して失踪したハシを追い、上京したキクは鰐を飼う不思議な少女・アネモネと出会う。犯罪者が集まる薬島が異様な存在感を放つ退廃的な街で、キクは「ダチュラ」を使い世界を破壊しようとあがく…。
【おすすめポイントを解説】
・荒廃した街や人間の醜い姿の描き方が秀逸
→犯罪者や浮浪者が集まる薬島が出てきます。周辺の地域の治安を良くするために、犯罪者を隔離するための場所です。薬島には狂った人間ばかりが集い、そこで描かれる荒廃した街並みや醜い人間の描き方が秀逸だと感じます。
・解放を求める少年たちの圧倒的エネルギー
→コインロッカーで生まれた者たちが、社会の底辺とも言える場所で生活する者たちと出会ったことで、「生」への希求が生まれます。そこで発生するエネルギーに読者は圧倒されることでしょう。

「生きろ、そう叫びながら、心臓はビートを刻んでいる」という名言に感動!
⑧「岬」著:中上健次
発表年 | 1978年 |
出版社 | 文藝春秋 |
一言ポイント | 複雑な血縁関係に悩む者の苦悩を描いた力作 |
宇佐見りんが好きな作家として名前をあげるなど、現代の若手作家に大きな影響を与えている作家。戦後生まれ初の芥川賞作家による、同賞受賞作品です。
【こんな人におすすめ】
・複雑な人間関係を描いた力作を読破したい人
→人間関係が複雑でやや読みにくいが、読後には一種の感動を得られます
・現代の若手作家に影響を与えている作家の作品を読みたい人
→読点の多い文体など小説家志望の人にとっては書く際のヒントになるかも
【簡単なあらすじ】
主人公の秋幸は紀州において、血縁関係のある者たちに囲まれて複雑な人間関係のもとに生活していた。一緒に暮らす父は、母が再婚した義父だ。実父にはあくどい噂があり、秋幸はいつか報復したいと考えていた…。
【おすすめポイントを解説】
・「血縁」の抗えない宿命に翻弄される主人公の息苦しさ
→父に復讐するつもりが、徐々に自分の言動にも父のような許せない一面があると重なって見えてきます。そうして無情にも、自分にも父の血が流れていると悟っていくのです。宿命の逆らえない主人公の息苦しさがこちらにも伝わってきます。
・フリージャズに影響された文体や、秀逸な比喩表現
→中上健次本人がフリージャズの影響ではないかと言っている、独特の文体に注目。読点が多く、それが心地よいリズムを生んでいます。また「岬」を男根の比喩として登場させるなど、スケール感が大きい比喩表現も秀逸です。

本作の続編となる『枯木灘』『地の果て 至上の時』も名作です!
⑨「砂の女」著:安部公房
発表年 | 1962年 |
出版社 | 新潮社 |
一言ポイント | 砂穴に閉じ込められた男が行き着いた境地とは? |
カフカなどの外国語文学から影響を受け、高度経済成長期に活躍した作家の代表作。海外からも高い評価を受けています。
【こんな人におすすめ】
・ミステリーは得意だけど純文学はまだ苦手という方
→謎めいた書き方がミステリー好きな方には読みやすく思える
・人間社会で閉塞感を抱いている人
→砂穴に象徴される小さな社会に、人間社会で生きる意味を見出せる
【簡単なあらすじ】
昆虫採集へ行った男が、砂穴の中に閉じ込められる。砂に埋もれる家を守るために、住人の女が男を引き止める。穴からの脱出を試みる男だったが、女と同居し、砂穴での生活を続けいく内に、ある心境の変化が訪れ…。
【おすすめポイントを解説】
・「自由」とは何かを考えさせられる点
→砂穴に閉じ込められた男は、穴からの脱出を試みます。男にとっては砂穴は「不自由」な場所で、外の世界が「自由」な場所でした。しかし男は砂穴での生活を続けていく内に、「自由」についての価値観が変わっていきます。本当の自由とは何か、考えさせられます。
・外国語文学に影響を受けた世界観
→安部公房は影響を受けた作家にカフカの名を挙げています。実際に安部公房は東欧旅行の際に、カフカの故郷であるプラハを訪れているのです。今作をはじめ、安部公房の作品にはカフカの影響を受けたであろう世界観が表現されています。

読後には砂のざらざらとした感じが残っているような気分になります。
⑩「雪国」著:川端康成
発表年 | 1948年 |
出版社 | 新潮社 |
一言ポイント | 雪国で深まる男女の深い情念を鮮やかに描く |
ノーベル文学賞を受賞した作家の代表作。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。」という書き出しはあまりにも有名ですね。
【こんな人におすすめ】
・まずは有名作品を読みたいと考えている方
→ノーベル文学賞を受賞した際の審査対象となった作品
・美しい日本語表現を堪能したい方
→「夜の底が白くなった」など美しい表現に感動!
【簡単なあらすじ】
雪深い温泉まちを訪れた島村は、そこで芸者の駒子と会う。東京に妻子を残して旅する島村だったが、ひたむきに芸者として生きる駒子とゆきずりの恋に墜ちる。それ以上の深い関係を築こうとしない島村に対し、駒子の情念はだんだんと強くなり…。
【おすすめポイントを解説】
・登場人物の視点を介した美しい風景描写
→雪国の美しい街並みなどの風景描写が見事。ただ風景をそのまま描くのではなく、恋の情念に駆られた男女の視点を通して風景を描くことで、唯一無二の光景を描くことに成功しています。
・島村を想う、駒子の深い情念の描き方
→島村を想う、駒子の情念が深く深く描かれています。話し方や仕草はやや乱雑なところがありますが、それが逆に人間らしさをよく表現しており、島村への強い想いも併せて感じられます。

世界で日本文学が注目されるきっかけになった重要作品です。
⑪「人間失格」著:太宰治
発表年 | 1948年 |
出版社 | 新潮社 |
一言ポイント | 人間の本来あるべき姿を究極まで考えさせられる |
入水自殺をした太宰治の遺書とも捉えられている作品。晩年の作者自身の想いを綴った捨身の問題作です。
【こんな人におすすめ】
・人間の本来あるべき姿を自問自答したい人
→赤裸々な所見を綴った男の手記に迫ってくるものがある
・お笑い芸人&作家の又吉直樹のルーツを知りたい人
→又吉直樹が好きだと公言する作家の世界観がよく分かる一冊
【簡単なあらすじ】
「恥の多い生涯を送って来ました」と始まる、男の手記で明かされる事実。道化のようにして自分を偽ってきた自分は、大きな過ちを犯してきたと言う。孤独ながらも人を向き合おうとした男が辿った末路とは…。
【おすすめポイントを解説】
・人間の生きる意味の根源を問うところ
→なぜ主人公の大庭葉蔵は他人に対して道化のようにふるまい、人を欺く必要があったのか?人と向き合おうとした葉蔵が、心中未遂事件を起こしたのはなぜか?その理由を突き詰めて行こうとすると、人間の生きる意味を深く考えさせられます。
・本作をもとにした映画や漫画を楽しめる
→本作は舞台が昭和。これを現代らしくアレンジした作品も多く出版・発表されています。生田斗真主演の映画「人間失格」や古屋兎丸作画の漫画「人間失格」も併せて読むと、さらに本作を楽しめるでしょう。

精神的に参っているときに読むと危険かも!元気なときに読みましょう。
⑫「山月記」著:中島敦
発表年 | 1942年 |
出版社 | 岩波書店 |
一言ポイント | 李徴はなぜ虎になったのか?キーワードは「自尊心」 |
わずか33歳で若くして亡くなった中島敦。中国古典をベースにした、幻想的な小説は不思議な味わいを残します。
【こんな人におすすめ】
・自意識高い系男子の気持ちを理解したい人
→主人公はいわゆる自意識高い系男子に分類できます
・漢文調の読みづらい文体に敢えて挑戦したい人
→言葉の勉強にもなります
【簡単なあらすじ】
李徴はとても優秀な若者だったが、詩人としては才能が発揮できず、挫折していった。地方の下級役人となるも、プライドが邪魔して発狂し、山へと消えた。ある日、李徴の旧友である袁傪が山で虎と出会う。袁傪はその虎が実は李徴が変身した姿だと気づくのであった…。
【おすすめポイントを解説】
・李徴はなぜ虎へ変身したのか?理由を考察したくなる点
→今回のように幻想的な話は、その背景で読者に投げかけたいメッセージが含まれています。今作で李徴は虎に変身しても、自尊心は捨ててないと言います。自尊心を保つために、人間の姿を捨てて虎に変身したのだと読み取ることができます。
・自尊心とは何か?大人になって読むとまた違った捉え方ができるかも
→「山月記」は国語の教科書に頻出する物語ですが、小学生の頃に読んでも「不思議な話」「漢字ばかりで読みにくい話」という印象しか残っていなかったかもしれません。しかし大人になって自尊心を意識する年齢になって再読すると、また違った捉え方ができるでしょう。

カリスマ塾講師の林修先生も激推ししている小説です。
⑬「檸檬」著:梶井基次郎
発表年 | 1925年 |
出版社 | 新潮社 |
一言ポイント | 鮮やかな詩的表現がいつまでも心に残る名作 |
31歳の若さで亡くなり、その死後に評価が高まった作家・梶井基次郎による一作。「不朽の古典」と称された作品群の中で、梶井基次郎らしさがよく表現されている代表作です。
【こんな人におすすめ】
・詩的な作品を読んで感動したい人
→檸檬の鮮やかな描写が目を惹きます
・長い作品は苦手で、まずは短い作品を読みたい人
→10分もあれば読めます
【簡単なあらすじ】
鬱々とした気分で暮らす私は、あてもなく街を彷徨っている時に、八百屋で鮮やかな檸檬を見つけた。私は檸檬を買い、久しぶりに本屋・丸善に寄った。そこでまた憂鬱な気分に襲われた私は、ある行動に出る…。
【おすすめポイントを解説】
・得体の知れない不安を優れた文学的表現で浮かび上がらせている点
→「得体の知れない不吉な塊」という表現が出てきますが、主人公の鬱々とした気持ちがよく表れています。あてもなく街を彷徨うシーンや、丸善で画集を次々に見ても気分が晴れない様子など。
・ラストの突飛な行動に隠された謎
→ラストで主人公の私が出た行動が意味するところは何なのか、これまで多く議論されています。人によって捉え方が違うので、レビューや書評を読んでその人なりの考え方・捉え方を知ると良いでしょう。

詩的表現に優れ、何度でも読みたくなる名作です!
⑭「城の崎にて」著:志賀直哉
発表年 | 1917年 |
出版社 | 新潮社 |
一言ポイント | 白樺派の志賀直哉による、私小説の代表的作品 |
武者小路実篤や有島武郎らと共に白樺派と呼ばれる志賀直哉による一作。自らの経験をもとに綴った私小説の代表的作品です。
【こんな人におすすめ】
・エッセイが好きな人
→エッセイに似た半自伝的な私小説という形式なので馴染みやすい
・事故などで死に瀕した経験がある人
主人公と近い境遇なので、死生観に共感できるかも
【簡単なあらすじ】
交通事故にあった「自分」は、療養するために城崎温泉を訪れる。死に瀕した「自分」は、部屋の窓辺を飛んでいた蜂が一匹死んでいるのを見つけ、死への親しみを感じる。またある日には投げた石が当たりイモリが死ぬ様を見て、「自分」はある感慨を持つ…。
【おすすめポイントを解説】
・私小説が持つ親しみやすさやリアリティー
→作者が実際に体験した出来事を題材にしているため、日常の出来事の描写にリアリティーがあります。作者の性格や感慨がよく伝わってきますね。志賀直哉は私小説の書き手として有名で、他にも父との和解を書いた「和解」もおすすめです。
・生きるとは?動物たちの死から生きる意味を問うところ
→死ぬ間際を経験した作者ならではの死生観にはっとさせられます。日頃から動物たちの死骸を見かけることは少なくありません。それらの光景を目にした時、生きる意味を考えるきっかけを本書は与えてくれます。

作品を読んだ後に実際に城崎温泉を訪れてみるのもいいですね。
⑮「羅生門」著:芥川龍之介
発表年 | 1915年 |
出版社 | 新潮社 |
一言ポイント | 生きるための悪とは?究極のエゴイズム小説 |
純文学の新人登竜門である芥川賞のモデルとなった人物。『今昔物語集』の作品を当時の風潮に合わせて書き換えたものが本作です。
【こんな人におすすめ】
・小学校で習った時はただ不気味な小説としか印象が残らなかった人
→大人になった今改めて読むと印象が変わってくるかも。
・生きるか死ぬかの臨場感溢れる文章を読みたい人
→飢饉で苦しむ街で必死に生きる者たちの姿に注目。
【簡単なあらすじ】
天災や飢饉が続けて起こり、さびれた街となった京都。仕事を解雇された下人が羅生門の下で途方に暮れていると、上の階に人の気配を感じて興味本位で上がってみた。そこでは身寄りのない死人の髪を一本一本抜いている老婆の姿があり…。
【おすすめポイントを解説】
・下人の行動に隠された人間の本質とは
→奇抜な行動をする老婆の印象が強烈ですが、それを目撃した下人の行動にも注目すべき。解雇されて途方に暮れた下人がなぜ死人ばかりがいる羅生門の階上へ行ったのか?そして老婆のある言葉を聞いて、勇気が出た下人の心理状況とは?彼の心理変化を追って文章を読むと、人間が生きる本質が垣間見えます。
・読み手が得られる感慨の変化
→教科書頻出の短編ですが、ほとんどの小学生が「おぞましい」という印象しか残らないのではないでしょうか。しかし大人になって再読すると、生きるための「悪」というべき行動に一定の理解が得られるようになっていると気づきます。小説を読んで自己成長を感じられるはずです。

青空文庫と呼ばれるネット上の電子図書館でも閲覧可能です。
⑯「こころ」著:夏目漱石
発表年 | 1914年 |
出版社 | 文藝春秋 |
一言ポイント | 日本で一番売れている名著! |
最後に紹介するのは、誰もが知っている名作中の名作。日本人なら一度は読んでおくべき作品です。
【こんな人におすすめ】
・誰もが知っている名著を読みたい人
→日本で一番売れている本をまずは読んでみましょう!
・読みやすい近代文学作品を探している人
→難しい語彙や表現が少なく、近代文学の中では比較的読みやすい作品
【簡単なあらすじ】
私は鎌倉の由比ヶ浜で先生と出会った。先生にはある過去を抱えており、私宛に届いた手紙から、先生が親友と恋人との間で葛藤があったことを知る。先生は長年罪悪感を抱いており、私のもとには遺書が送られてきた…。
【おすすめポイントを解説】
・先生の「こころ」の変化
→親友Kと恋人の間で感じていた葛藤。そしてKの自殺。そして私への独白。それぞれの行動を通じて先生のこころがどう変化していくのか、丁寧に読み取っていきましょう。
・レビューや書評を通じてみんなの感想や捉え方を知れる
→日本で一番読まれている小説とあって、それだけ感想やレビューの数も多いです。普遍的なテーマを読者がどう捉えたか確認することで、様々な人の考え方に触れることができます。

これからもずっと語り継がれていく名作ですね。
そもそも純文学とは?大衆文学との違いは「芸術性」を重視するかどうか
そもそも純文学とはどういうジャンルなのでしょうか?一言で説明してと言われると、難しいですよね。
純文学を説明する際には、大衆文学やエンタメ小説などを引き合いに出すとイメージしやすいです。大衆文学は幅広い人に読みやすいように、起承転結がしっかりあり、分かりやすいストーリーを求められます。対して純文学は大衆文学と違って、「芸術性」を重視する文学です。
もともと純文学は二葉亭四迷の「浮雲」から始まったとされ、今のように大衆文学と比較して語られるようになったのは、昭和初期あたりから。当時は発表している同人誌などにより、白樺派、新感覚派など、文壇に派閥があり、それぞれの特徴がはっきりしていました。
2000年代あたりから、純文学と大衆文学の境界が曖昧になっています。小説が次々に映画化される吉田修一や、本屋大賞も受賞した小川洋子など、ジャンルレスで活動する作家が活躍しています。
とっつきにくい純文学を楽しく読むコツとは
例年芥川賞発表の時期になると、ニュースで見たから興味が湧いて受賞作を買ってみたが「意味がわからなかった」「難しくて途中で読むのをやめた」などの口コミをよく見かけます。いまだに純文学はとっつきにくいという印象がありますね。
ここでは今回紹介したおすすめ小説を踏まえて、純文学を楽しく読むコツを解説します。
自己成長と共に作品の捉え方が変わる
近代の名作は小学生や中学生の頃に学校で習って読んだ経験がある方も多いでしょう。今回紹介した作品だと、「羅生門」「山月記」あたりがよく教科書に掲載されていました。子どもの頃に読んでも、「おぞましい」や「なんか不思議な話」くらいの印象にしか残らなかったかもしれません。
しかし大人になって再読すると、また新たな捉え方ができるものです。もしかしたら読んでまだ分からなくても、今後結婚したり子どもが生まれたり、そして孫が生まれたり…。などと人生経験を積んでいく中で、今は気づかないけれど将来では気づける部分があるかもしれません。いつか再読した日に自己成長を実感できるように、難しい作品でも今また最後まで読んでおくのは良い経験になるでしょう。
レビューや書評、みんなの感想を読んで、様々な捉え方を知る
純文学は「芸術性」を評価する文学だと述べました。絵画で例えると分かりやすいのですが、抽象画の場合は人によって作品の捉え方が変わりますね。純文学も同様で、読んだ人によって様々な捉え方、考え方が存在しやすいのです。
そこで筆者がよくやっていたのが、作品を読んだ後にレビューや書評を読み漁ること。特に芥川賞受賞作については、実績ある豪華な選考委員の方々が講評しているので、「なるほど、そういう捉え方があったか」「そこが高く評価されるのか」と作品に対しての理解が増します。自分と違う考え方に触れると、新鮮な気持ちを味わえますよ。
まとめ:お気に入りの純文学作品を見つけよう
いかがでしたか?簡単なあらすじや解説を含めて紹介してきたので、純文学に対するハードルが下がって、作品に触れてみたいと思っていただけたのではないでしょうか?今回紹介した小説は、普段から純文学を読む方にとってもおすすめの小説でもあるので、きっと満足してもらえるでしょう。
ぜひ、あなたのお気に入りの一冊を探してみてください。
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