伊吹有喜『犬がいた季節』のあらすじ・感想・ネタバレ解説まとめ【2021年本屋大賞候補作】

犬がいた季節

今回は伊吹有喜さんの『犬がいた季節』を特集します。高校生と犬との交わりを丁寧な筆致で描いたハートフルな小説。作者のルーツとなった実在する高校や犬がモデルになっています。小説のあらすじや感想、ネタバレ解説をまとめました。読みどころも詳しく解説しているので、ぜひ最後まで読んでみてください!

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伊吹有喜の小説『犬がいた季節』とは

犬がいた季節◎『犬がいた季節』は以下の読者に特におすすめ!

書名 犬がいた季節
作者 伊吹有喜
出版社 双葉社
発売日 2020年10月14日
ページ数 352ページ

・とにかく犬が大好きな人
⇒高校生の微妙な心情が分かる、コーシローの一挙一動に注目!

・受験勉強や恋愛にモヤモヤしている高校3年生
⇒同世代の男女が抱える悩みに共感できます

・昭和〜平成〜令和へと至る時代を懐かしみたい人
⇒当時はやった音楽やトピックスがてんこ盛りで懐かしい気分に浸れます

・三重県四日市市に縁がある方、興味がある方
⇒地元に実在するスポットが多数出てきます。聖地巡礼も良いですね

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犬と高校生との温かい交わりを描いた小説

伊吹有喜さんの小説『犬がいた季節』は実在する三重県の進学校を舞台にした小説です。モデルとなったのは伊吹さんの母校でもある四日市高校。本小説の刊行記念イベントでは、在校生と語り合う場面もありました。

本作は犬と高校生との交わりを描いた小説ですが、この犬「コーシロー」も実在していました。伊吹さんの在学中にも犬がいたようで、当時の様子をインタビューで以下のように語っています。

入学して最初に、廊下ですれ違った時は、学校という管理されている場所に、リードのない犬が自由に歩きまわっていることに驚いてしまって。まぼろしでも見ているのかと
引用:ダ・ヴィンチニュース

2021年本屋大賞候補に選出される

伊吹有喜さんの小説『犬がいた季節』は2021年本屋大賞の候補作にもなっています。これまで名作を多数生み出してきた伊吹さんですが、意外にも本屋大賞の候補作になるのは初めてです。本屋大賞の発表は4月14日に行われます。

「本屋大賞」公式ホームページはこちらから

『犬がいた季節』のあらすじとは【※多少のネタバレあり※】

『犬がいた季節』は5篇の短編及び最終話からなる、短編小説です。第1話で犬のコーシローが高校に来た頃が描かれます。その後、年代ごとに各章でコーシローと当時の高校3年生たちとの交わりが展開されます。

ここからは各章のあらすじを紹介します。ネタバレ部分は「※ここからはネタバレあり※」
と注釈をつけているので、今はまだ中身が気になる方はそこだけ読み飛ばしてくださいね。

第1話 めぐる潮の音

進学校の八陵高校に進学した塩見優花は、成績が伸びずに悩んでいた。優花は間も無く迫る受験の現実から逃れるように、自宅で営むパン工房のお手伝いをしている。

受験で離れるまで、優花は美術部に在籍していた。美術部の光司郎の席に座っていた犬を見つけ、その犬を「コーシロー」と名付けて保護することになる。飼い主を探すために、優花たちはポスターを制作する。

※ここからはネタバレあり※

なかなかコーシローの飼い主が現れず、優花たちは学校に交渉する。校長先生が反対の色を見せていると、光司郎が助け舟を出してくれた。そのおかげもあり校長は容認してくれ、コーシローの面倒は学校で見ることになった。

優花は光司郎からコーシローの絵が描かれたスケッチブックを受け取り、大切に扱っている。美術部でコーシローを飼うようになってから、優花の成績は飛躍的に上がった。

大晦日。「東京の大学に行きたい」と家族に切り出したら、反対する兄をよそに両親は賛同してくれた。

優花には帰る家がある。お母さんが守ってるこの家だ。だから優花は本気を出していいんだ。お父さんもお母さんも応援してる(61ページ)

優花と光司郎は除夜の鐘をつきに、大晦日の夜にコーシローを連れて出かける。高台に登って街を眺めながら、これまでの生い立ちやこれからのこと、そしてめぐる潮の話をした。星の引力に引かれて満ち引きを繰り返す潮と、自分たちの人生とを重ねた。

優花は早稲田大学に無事合格し、進学した。光司郎は落第したが、「絵は諦めない」と言う。三月の下旬に「コーシローの世話をする会」を引き継いだ。コーシロー会の日誌には『コーシローが八高に来たこと』と記し、光司郎が描いたコーシローの絵もあった。

第2話 セナと走った日

生徒会が「コーシローの世話をする会」を兼任することになり、堀田五月はコーシローを世話している。ある日コーシローが相羽のスリッパを噛んだことをきっかけに、相羽と話すようになった。五月は学年一優秀な男・相羽のことが苦手だった。

五月は自宅から車で一時間足らずで行ける鈴鹿サーキットにて行われる日本グランプリが楽しみで仕方なかった。決勝の日曜日には全国統一の模試があるが、それどころではない。そんな折、兄がなんと日本グランプリのチケットを渡してくれた。

※ここからはネタバレあり※

五月はコーシローがスリッパを噛んだお詫びとして、日本グランプリに一緒に行かないかと誘ってみた。相羽は模試を捨てて、なんなら予選の金曜日から野宿で一緒に観戦しようと言ってきた。

今回の日本グランプリで年間チャンピオンが決まる。本田宗一郎が二ヶ月前に亡くなり、ホンダを運転するセナの年間チャンピオンへの期待が高まっていた。元々はヨーロッパ人が楽しんできた伝統あるモータースポーツで、ブラジル人のセナが頑張る姿について、相羽はこう語った。

……そんな、風当たり、強いなか……地上最速目指して、ひたすら走るってところ……猛烈に、泣けてくる(117ページ)

野宿しながら生活する中で、2人は絆を深めていく。フリー走行を間近で見たり、観覧車からサーキットを眺めたり、定食屋でセナに遭遇したり…。カップ麺を作っていると、卵に黄身が二つ入っていて、ホンダ勢がワンツーフィニッシュを決めるのではないかと予想する。

レースは予想通り、ホンダ勢のワンツーフィニッシュになった。年間チャンピオンを決めたセナが、最後に同じホンダの車を待っているような素振りを見せて、その姿はどことなく五月と相羽の関係性を連想させるような光景であった。

第3話 明日の行方

上田奈津子は大きな揺れを感じて、目が覚めた。テレビをつけると「神戸震度6」とあり、神戸在住の祖母の安否が気に掛かる。神戸大震災は、多くの死傷者を出した未曾有の惨事となった。

奈津子は東京の大学に進学したいと考えていた。無事だった祖母が奈津子の住む家にやって来た。やがて上京のために部屋を空けることになるので、被災地から逃れてきた祖母と一緒に暮らすようになった。

※ここからはネタバレあり※

ある日、祖母が「明日のことはわからない」と言って、泣き出した。実は祖母が飼っていた犬のチロが震災で亡くなっていたのだ。またお向かいの家の子も亡くなったと言う。奈津子は学校で飼っているコーシローの話をして、祖母を元気づける。

奈津子は祖母と一緒に卒業式へ出席し、その後東京の大学に進学した。間も無くして祖母が他界し、棺には卒業式で撮った写真を入れた。葬儀の後に東京に戻ると、地下鉄が止まっていた。地下鉄サリン事件が起きていたのだ。

奈津子は東京の大学には入学式にも参加せず、そのまま退学を決めた。それまでの奈津子は将来に対して漠然として考えていなかったが、大きな事件が自分の身近で起こったことや、祖母との別れ、コーシローとの出会いなどをきっかけに、医師になる道を選んだ。

明日がどうなるか、誰にもわからない。だから必死に学んで、これからこの手を変えていく。
生きているもののぬくもりを守る手に。
明日の行方は、この手でつかむのだ。(186ページ)

第4話 スカーレットの夏

学校一の美人・青山詩乃は、密かに援助交際を行っている。学校を出てミニスカートに着替え、パパに援助してもらっている。ある日、パパと行ったライブハウスでパンクバンドのヴォーカルがクラスメイトの鷲尾だと気づく。鷲尾は派手な格好をした詩乃が襲われないように、守ってあげた。

後日、学校で詩乃は鷲尾と話した。鷲尾は普段はもっさりした冴えないキャラクターだが、学校を出れば革ジャンを着て豹変する。詩乃はパパの存在を明かし、お互いに知らない顔があることを認識する。

※ここからはネタバレあり※

詩乃は母が働く店の手伝いをするが、そこで性的サービスを要求されて嫌になっている。援助交際をする理由は将来の資金稼ぎのためだが、ここ最近憂鬱な気分になっていた。そんな折、鷲尾が詩乃の不調を気にかけてくれ、あるところへ連れ出してくれた。

そこは鷲尾たちが演奏を練習するスタジオだった。鷲尾は犬のコーシローを世話する会にも所属しており、そのメンバーで音楽もやっていた。プロを目指すというメンバーたちの純粋さに詩乃は引き寄せられる。

鷲尾の歌う、ブルーハーツの『TRAIN-TRAIN』の一節を聴く内に、詩乃の心が沁みていく。

どこに行けば、その列車に乗れるのだろう?
もし、本当にあるのなら、すべてを投げ捨て、今すぐ飛び乗るのに。(237ページ)

スタジオを後にして「帰りたくない」という詩乃は、鷲尾のガレージに行った。夜の十一時を回り、詩乃は下着一枚になって鷲尾を誘惑する。「お礼に教えてあげる」と言う詩乃に対し、その言い回しが好きではないと鷲尾は拒否する。傷ついて泣いた詩乃をそっと鷲尾は抱きしめ、それ以上は何もしなかった。

詩乃が泣きやんで、2人は港の方へ向かった。フレアスタックを見ていると、詩乃がアカペラで何か歌ってとリクエストしてくる。鷲尾はスピッツの『スカーレット』を歌った。詩乃はその時、初めて恋をしたと実感し、鷲尾の背に唇を当てた。

第5話 永遠にする方法

中原大輔は八陵高校の教師・優花に恋をしている。幼少時に優花がいたパン屋で転んだのを助けてもらって以来、一目惚れだった。

ノストラダムスの大予言が、噂されていた1999年。大輔は地球滅亡するかもしれない状況で、勉強に身が入らない。授業中に優花から英文の意味を問われ、「however」を『永遠にする方法』と誤訳した。その間違いを優花は「中原君らしい」と指摘した。

※ここからはネタバレあり※

大輔は祖父のお見舞いで病院へ行った。祖父は苦しみながら「牧場に帰りたい」と呟く。苦しい状況だった。大輔は病院から出ようとすると、優花と遭遇する。優花の母は胃瘻する必要があるほど衰退しており、お互いに何もできないと無力を嘆いた。

大輔は小さい頃に優花と出会った話をした。優花もそのことを覚えていて、それから話は光司郎のことになる。その後、大輔はコーシローの会の日誌のカバーをめくると、光司郎が描いた優花とコーシローの絵があるのを発見する。

祖父の病室では母と伯母が言い争っていて、大輔は暗い気持ちになる。同じように悲しんでいた優花をまた見つけ、2人で気分転換にドライブする。ノストラダムスの予言の話題になり、「世界が終わる前に、暮らした街を見にいこう」と夜景が見える場所へ行く。

車の中には弱ったコーシローがいた。寿命が近くぐったりしているコーシローにも夜景を見せてあげた。

山でしょう、それから海。街と港に工場、全部が見える。ここからの景色が一番この街らしいと思うの。私たちはここで暮らして、大きくなったんだ。(306-307ページ)

大輔は「牧場に帰りたい」と言った祖父のために、風景をスケッチする。これが大輔なりの「一瞬を永遠にする方法」だった。スケッチした絵を祖父に見せると、祖父は微笑み泣いていた。

大輔は優花に自分の気持ちを伝えようとしていた。告白の場面は犬のコーシローの視点で描かれる。大輔は優花に光司郎が描いたコーシローと優花の絵の存在を教える。絵を見た優花とコーシローが相対する場面で終わる。

最終話 犬がいた季節

※ここからはネタバレあり※

学校100周年の式典に光司郎がゲストで呼ばれた。光司郎は立派な画家になっていて、コーシローの会から光司郎の絵が送られるようになっていた。優花は光司郎と再会する。高校生の頃はお互いに気持ちを伝えられずに終わったが、今は違う。光司郎が優花を連れて学校を抜け出す場面で終わる。

『犬がいた季節』の読みどころ4つ

ハートフルな小説『犬がいた季節』はさらっと読めるストーリーですが、かなり深みがあり様々な楽しみ方ができる作品だと言えます。ただの感動小説だと侮ることなかれ。ここからは本作の読みどころを4つ解説します。

コーシローと高校生たちの温かい交わり

『犬がいた季節』の最大の読みどころは、やはりコーシローと高校生たちとの温かい交わりでしょう。第1話ではコーシローが高校へとやってくる場面が描かれますが、そこで校長先生を含めた生徒たちと先生とのやりとりがまず見どころです。

やがて有志の高校生たちが「コーシローの世話をする会」に入るのですが、彼らはコーシローに勇気をもらったり、命について大切なことを学んだりします。彼ら目線で見る、コーシローのかわいげな一挙一動にも注目です。

また、逆にコーシロー目線から高校生のやりとりが描かれる場面も挟まれます。コーシロー目線だと、人間たちは全員カタカナ書きになるのですが、特に第1話に出てくる「ユウカ(優花)」に対する目線はことさら愛おしく、最終話で先生として接する場面は涙なしでは読めませんよ!

恋愛に、受験勉強に、大人との関係性に、ヤキモキさせられる高校3年生の微妙な心情

コーシローと交わる、高校3年生は思春期真っ只中の微妙なお年頃。しかもモデルとなった高校は進学校であり、自然と将来のことを考えるようになります。本作では受験勉強の葛藤や、どこに進学するかの問題などが、かなりクローズアップされています。

18歳は半分大人として頼りにされてしまう反面、都合のいいところでは、子ども扱いで遠ざけられたりもする。そのいらだちやモヤモヤした感じは自分の中にもありました。それはすなわち、高校3年生という身分の不安定さなんですけれど、そのあたりはとても意識して書きました。
引用:ダ・ヴィンチニュース

伊吹さんのインタビューでも語られるように、子どもから大人になるまでの不安定な立ち位置である、高校3年生の等身大の姿を丁寧に描かれています。同年代の方はもちろん、その年代のお子さんを持つ親御さんの方などにも、とても役立つ小説なのではないでしょうか。

各章のテーマソングのようにして使われる、当時流行した音楽

各短編にはそれぞれテーマソングのようにして、当時流行した音楽が使われています。エンディングテーマが流れるようにして、各章が終わるのでドラマを見た気分のようにもなれますね。

・第1話「めぐる潮の音」(昭和63年4月〜平成元年3月):氷室京介の「FLOWERS for ALGERNON」
・第2話「セナと走った日」(平成3年4月〜平成4年3月):THE SQUAREの「TRUTH」(フジテレビのF1グランプリ中継テーマ曲)
・第3話「明日の行方」(平成6年4月〜平成7年3月):Mr.Childrenの「Tomorrow never knows」
・第4話「スカーレットの夏」(平成9年4月〜平成10年3月):スピッツの「スカーレット」
・第5話「永遠にする方法」(平成11年4月〜平成12年3月):GLAYの「HOWEVER」

また、上記以外にも、ソウルオリンピックのNHK中継テーマ曲になった、浜田麻里の「Heat and Soul」。ドリカムの「LOVE LOVE LOVE」など、当時ヒットした曲が登場し、懐かしい気分に浸れます。

三重県四日市市に実在する場所の数々

『犬がいた季節』は伊吹さんが生まれ育った街でもある、三重県四日市市を舞台にしています。第1話の最後あたりに出てくる田んぼの一本道や、フレアスタックを見る工場夜景の場面など、実在する場所が出て来ます。

四日市市に在住の方や、以前住んだ経験がある方などには、とても親近感がわくことでしょう。また縁がない土地であっても、今作を機に実際に四日市市を訪れてみるのも良いですね。いわゆる、聖地巡礼の旅へ。ガイドマップが完成しているので、こちらを片手にいろいろ散策してみてください。

『犬がいた季節』散策マップはこちらから

『犬がいた季節』の感想は?口コミ評価レビューまとめ

SNSにあがっていた、『犬がいた季節』の感想をまとめました。

実際に犬を飼っている(飼っていた)方はしみじみした想いでこの小説を読んでいたようですね。

作家・伊吹有喜のプロフィール

伊吹有喜さんは、『犬がいた季節』のモデルとなった三重県四日市市出身の小説家です。30歳の頃に出版社に入社され、フリーライターを経て作家デビューされました。デビュー作は『風待ちのひと』。これまで『ミッドナイト・バス』、『彼方の友へ』、『雲を紡ぐ』の3作品で直木賞の候補となっています。

『犬がいた季節』についてのインタビュー動画がYouTubeにあがっているので、載せておきます。

物腰が柔らかい人ですね。

まとめ:『犬がいた季節』は高校生と犬との交わりを描くハートフルな小説だった

いかがでしたか?『犬がいた季節』は実際に犬を飼っている方はもちろん、犬好きな人にはぴったりな小説です。それ以外にも高校生の微妙な心情を共感したい、知りたい人や、平成の懐かしい時代を振り返りたい人、三重県四日市市に行ってみたい人など、様々な人にヒットする内容でしょう。

まだ読んだことがない方はぜひ手にとってみてください。

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コメント

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